給与が支払われない! 未払い賃金を請求・回収するための方法を解説
- その他
- 未払い賃金
新型コロナウイルスの流行によって企業の業績悪化が目立つなか、倒産するケースも散見されています。
令和2年5月には、神戸市に本社置くタクシー会社が、業績悪化を理由に事業を停止し自己破産の手続きをはじめたことが報じられました。
会社が倒産すれば、今後の生活に対する不安が高まるのはもちろんですが、すでに勤務した分の給料までもが支払われないおそれがあります。そのまま放置していても問題は解決しないので、自ら未払い賃金の支払いを求める行動を起こすべきでしょう。
本コラムでは、新型コロナの影響で会社が倒産してしまい給料が支払われない、業績が悪化して給与の支払いが滞っているなど、未払い賃金が発生している場合にどのような対策を講じるべきなのかについて、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、給与が未払いになる3つの理由
会社に所属して仕事をしていれば、労働の対価として給料の支払いを受けることができます。
労働基準法 第24条では、給与の支払いに関して「直接労働者に、その全額を支払わなければならない」「毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と規定しています。しかし、さまざまな事情によって、給与の未払いといった事態が発生することがあるのです。
-
(1)経営の悪化による未払い
会社の経営が悪化し、労働者に給与を支払うだけの余裕がなくなってしまう事態になれば、給与の未払いが生じてしまいます。
本来は会社の資産を整理したり、銀行からの融資を受けたりしてでも給与を支払うのが当然ですが、その策を講じてもなお余裕がなければ、やむなく給与の未払いに陥ってしまうでしょう。
また、小規模な個人企業などでは「今月分の給与支払いを待ってほしい」と支払いが遅延する、給与の全額を支払わず「残りは来月分として支払う」といった部分的な支払いになるようなケースもあります。
このような状態も、やはり給与の未払いと言えるでしょう。 -
(2)労使間トラブルによる未払い
労働者と使用者である会社との間でなんらかのトラブルが生じていると、給与の未払いが起きてしまうおそれがあります。
何度も注意を受けてきたのに無断欠勤が続いた、重大な規律違反があった、会社に大きな損害を与えたなどのトラブルがあると、会社が給与の支払いを拒むケースや、損害額を給料から相殺したりするなどの対応をとることがあります。
しかし、このようなトラブルがあったとしても会社が勝手に給与を未払いにしたり、相殺したりすることは原則として認められません。たとえ会社に損害を与えてしまった事実があっても、いったんは給与を全額支払ったうえで賠償を求められるのが正しい流れでしょう。 -
(3)故意の未払い
嫌がらせや退職を考えさせるための材料として、正当な理由もなく故意に給与を支払わないといったケースも存在します。
非常に悪質な行為であるため、強い姿勢で対抗する必要があるでしょう。
2、「未払賃金立替払制度」を活用する
給与が支払われないと、生活することさえままならない状態となります。そこで、知っておきたい制度として「未払賃金立替払制度」があります。
-
(1)未払賃金立替払制度とは
「未払賃金立替払制度」とは、会社の倒産によって給与や退職金が未払いとなった場合に、会社に代わって労働者健康安全機構が立て替え払いをする国の制度です。
昭和51年に創設された制度で、平成31年3月までの間に約124万人、総額で約5198億円の立て替え払いが行われています。 -
(2)対象となる人・期間・金額
●対象となる人
未払賃金立替払制度の対象となるのは、労災保険が適用される事業で、1年以上事業活動を行っていた事業主に雇用されており、倒産によって賃金が支払われないまま退職した労働者です。
ここで言う倒産とは、事業主が裁判所の手続きによって法的に倒産した場合、または労働基準監督署長が事実上の倒産を認定した場合です。
なお、労働基準監督署長が認める事実上の倒産とは、事業場の閉鎖や労働者が全員解雇されるなどの事業活動停止、事業主が事業再開の意図を放棄して再開の見込みがない、資産がなく賃金を支払う能力がないといった状態を指します。
ただし、適用されるのは中小企業に限られます。
あわせて、退職した時期の要件も満たす必要があります。
具体的には、破産手続き開始等の申立日(法的な倒産)、または事実上の倒産に係る手続きを、労働基準監督署へ認定申請した日から6か月前の日を起算日とし、2年以内に退職した場合が該当します。
●請求できる期間
立て替え払いの請求ができる期間は、裁判所における破産手続き開始などの決定日または命令日の翌日、もしくは労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から起算して2年以内です。
●対象となる未払い賃金と金額
立て替え払いの対象となる賃金は、退職した日の6か月前から、立て替え払いを請求した日の前日までの間に、本来であれば支払われるはずだった定期賃金(給与)と退職手当てです。
期間外の定期賃金、賞与・ボーナスのほか、解雇予告手当や未払い賃金の延滞利息、年末調整の還付金、支払われる予定だった旅費や用品代などの立て替え金は対象外となります。
また、立て替え払いされる金額は、未払い賃金の総額の80%ですが、退職日の年齢に応じて限度額が設定されています。未払い賃金の総額が限度額を超えている場合は、立て替え払いの上限額が支払われます。
令和2年8月時点での限度額と上限額は次の通りです。
【未払い賃金の限度額】
45歳以上…370万円
30歳以上45歳未満…220万円
30歳未満…110万円
【立て替え払いの上限額】
45歳以上…296万円
30歳以上45歳未満…176万円
30歳未満…88万円 -
(3)利用における注意点
未払賃金立替払制度を利用するうえで注意しておくべきポイントは、次のとおりです。
●利用に制限がある
立て替え払いの対象となるのは、会社が倒産しており、労働者自身は対象期間内に退職しているケースです。そのため、会社の資金繰りが悪化しているものの事業を継続している場合や、退職していない場合、会社が故意に賃金を支払わないという場合は、同制度を利用することができません。
●申請の期間
前述したように、立て替え請求には期限があります。会社が倒産の認定などを受けた日の翌日から2年を過ぎてしまうと、申請できなくなるので要注意です。
窓口となるのは、労働者健康安全機構または労働基準監督署です。
早めの申請を心がけましょう。
●不正受給への罰則
不正に立て替え払いを受けた場合は、刑法第246条の詐欺罪に問われます。
労働者健康安全機構は、ホームページでも不正受給に対して刑事責任を追及することを明示しているので、不正受給が発覚すれば厳しい対処を受けることになるでしょう。
また、不正受給をした分の2倍にあたる金額の返還を求められます。
3、未払い賃金の支払いを会社に請求する流れ
会社が倒産していない場合や、未払賃金立替払制度を利用しても回収できない賃金がある場合などは、会社へ未払い賃金の請求を検討することになります。
未払い賃金を、会社に請求する流れを確認していきましょう。
-
(1)証拠を集めて未払い額を算出する
まずは、どれだけの未払い賃金が存在するのかを正しく算出する必要があります。
直近の給与明細書、労働時間の計算に必要なタイムカード、就業規則、雇用契約書などの証拠資料をそろえて、未払いとなった賃金の総額がいくらになるのかを計算しましょう。
証拠がない場合や証拠を集められない場合、賃金の算出方法について不明点がある場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。労働問題を熟知している弁護士に相談すれば、適切なサポートとアドバイスを受けることができるでしょう。 -
(2)会社に支払いを求める
未払いとなっている賃金を算出したら、会社に未払賃金額を計算した書面を送付し支払いを求めます。
上記書面を送付する際は、内容証明郵便を利用しましょう。内容証明郵便であれば、会社へ書面を送付した事実を証明することが可能です。「請求を受けていない」という会社側の抗弁を防ぎ、会社側の姿勢を正して交渉のテーブルにつかせる効果があります。
この時点で会社が話し合いに応じ、支払いに合意してくれるのであれば問題はありません。しかし、すでに未払いが生じている状況では、残念ながら期待はできないでしょう。
会社の誠意ある対応が望めない場合は、弁護士に依頼するか、裁判所の手続きを利用して支払いを求めることになります。 -
(3)裁判所の手続きを利用する
未払い賃金を請求するために裁判所へ申し立てを行う場合、個別の事情によって、いくつかの手続きを選択することができます。
未払い賃金の総額が60万円以下であれば、原則1回の審理のみで判決が下される少額訴訟を利用するという方法もあります。
また、支払督促を申し立てるのも一案です。簡易裁判所に申立書を提出し、内容に不備がなければ、会社に対して支払督促を発布してもらうことができます。
請求金額が61万円以上になる場合などは、労働審判の利用がよいかもしれません。労働審判委員が、主張や証拠を見た上で、調停又は審判による解決を目指します。審判に対して、異議申立てがなされれば、訴訟によって決着がなされることとなります。
4、未払い賃金の請求は弁護士に一任するのがベスト
未払い賃金の請求や会社側との交渉は、労働者が個人で対応するのではなく弁護士に一任するのがベストです。
未払い賃金額の正確な算出や証拠の準備、会社への支払い交渉、裁判所への申し立てなどは、労働関係の法令について広い知識と経験が必要です。
また、会社側が労働者個人からの要求に応じてくれる可能性は高くありません。特に自社の経営が困難な場合や、倒産問題を抱えているような状態であれば、なおさらでしょう。
弁護士に依頼することで、法的な知識と経験に則った請求が可能になることにくわえ、会社側が交渉に応じることも期待できます。また、弁護士は代理人とし活動することができるため、会社と直接交渉する必要もなくなります。精神的な負担も大幅に軽減されるでしょう。
5、まとめ
新型コロナウイルスの流行を原因とした経営難によって会社が倒産してしまい、賃金が未払いとなってしまった場合は、国の「未払賃金立替制度」を利用することで一定額までの立て替えが受けられます。
また、倒産はしていないものの、賃金の未払いが続いているようであれば、裁判所の手続きを活用することで法的な解決が期待できます。会社が支払いをしてくれるのを待ち続けても解決は望めないため、少しでも早く動き出すことが大切です。
未払い賃金の請求に関する問題でお悩みの場合は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスにお任せください。労働問題の解決実績を豊富にもつ弁護士が、未払い賃金の獲得に向けて全力でサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています