会社都合の解雇なのに自己都合扱いにされた! 違いや対処法を解説
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平成20年のリーマンショックでは、神戸市をはじめとする全国の企業で経営状況が悪化し、倒産を余儀無くされる企業が続出しました。平成30年9月に神戸新聞とみなと銀行が実施した調査によると、リーマンショック時に行った対応策として「給与・賞与を削減」と答えた企業がもっとも多く、ついで「従業員の削減」があげられていたと報道されています。
現在、世界の景気は不透明で日本でも大幅な株式市場の下落が何度も起きています。いつ、リーマンショッククラスの経済危機が訪れるかわからない状態です。そうなれば、会社員の立場も保証されない可能性は否定できません。
会社から解雇を命じられたのに、自己都合扱いにされそうになったら、どうしたらよいのでしょうか。対応策について、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。
1、解雇と自己都合退職って何が違うの?
解雇とは、会社による一方的な労働契約の解約です。それに対して、何らかの理由で自分から退職を申し出、会社がこれを了承する場合、法律上正確には労働契約の「合意解約」と言うべきですが、一般には自己都合退職と呼ばれることも多いと思います。解雇を始めとした、会社の事情によって退職する場合を「会社都合退職」と呼び、自分から退職を申し出る場合を「自己都合退職」と呼びます。法律的には、解雇と合意解約、自己都合退職は大きく異なり、解雇は労働基準法、労働契約法等によって厳しく制限されています。
解雇になった場合、履歴書には「会社都合により退職」と記載しますが、自己都合退職の場合は「一身上の都合により退職」と記載します。
さらに想定される大きな違いは、失業手当の給付期間や給付開始時期です。また、転職活動時に面接などをする際、影響が出る可能性も考えられます。解雇と自己都合退職、どちらが自分にとってベストなのかをしっかりと考える必要があるでしょう。
2、会社が解雇できる条件とは。解雇できるケースは意外と少ない
会社が、従業員を解雇できる条件は労働基準法、労働契約法等によって制限されています。したがって、実際に解雇できるケースはそれほど多くありません。
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(1)整理解雇
会社の経営が悪化したことによる解雇です。冒頭でお話ししたリーマンショック時の神戸市内では、経営状況が悪化したために従業員を解雇する企業が多く見受けられました。
しかし、会社の経営状況が悪化していると会社側が主張しているだけでは解雇はできません。次の4つの条件を満たしていなければ、整理解雇はできないとするのが、裁判所の考え方です。- 人員削減の必要性が存在すること
- 整理解雇を回避するために最大限の努力をしたこと
- 解雇の対象となる人選が合理的であること
- 事前に説明・協議義務を尽くしたこと
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(2)懲戒解雇
懲戒解雇は、従業員が犯罪を起こした、悪質な規則違反を行った、といった場合などに行われます。雇用主が懲戒解雇を行うとき、あらかじめ就業規則等に懲戒解雇となるケースを明記し、従業員に周知しておく必要があります。また、就業規則等の懲戒規定は、企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものでなければなりません。
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(3)普通解雇
整理解雇と懲戒解雇以外の解雇を指します。具体的には、何度指導しても遅刻や早退癖が治らない場合や、勤務成績が極めて低い場合、私傷病による欠勤が一定期間以上にわたり、休業期間満了時点でも復職が困難な場合などです。
解雇は制限されており、滅多なことで認められることはありません。合理的な理由なく解雇を言い渡された場合は、退職を拒否することができます。合理的な理由なく解雇を宣告された上に、自己都合で退職を求められている場合は、しっかりと退職したくない旨を伝えた上で、退職の書類などにサインしないようにしましょう。
会社側と交渉ができない場合は、弁護士等の労働問題の専門家に相談することをおすすめします。
3、解雇されたときは、自己都合にするメリットはない?
解雇された場合と、自己都合で退職した場合では、失業手当の給付にどのような違いがあるのでしょうか。
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(1)解雇された場合の失業手当
まずは、会社都合で退職した(解雇された)場合の、失業手当の給付スピードや給付日数などを知っておきましょう。
●失業手当の給付日数……90日から330日
失業手当の給付日数は、年齢と、勤務していた年数によって異なります。解雇された場合は、どの年齢でも1年未満の勤務であれば90日分支払われます。また、たとえば、45歳以上60歳未満の方で、20年以上勤務していた場合は330日分の失業給付を受け取ることが可能です。
●失業手当の最短給付開始日……7日後
解雇された場合、必要書類を提出してから最短で7日後に失業給付を受け取ることができます。
●国民健康保険の保険料……最長2年間軽減される
正社員から無職になった場合、国民健康保険に加入することになります。特に解雇された場合に限り、お住まいの自治体に申請すると国民健康保険の保険料を計算する際の基準額を会社員時代の給与の3割に削減してもらうことができます。つまり、解雇されたときのほうが国民健康保険の負担が軽くなるといえるのです。 -
(2)自己都合で退職した場合の失業手当
自己都合で退職した場合の失業手当の給付スピードや日数についても、改めて知っておきましょう。
●失業手当の給付日数……90日から150日
自己都合退職の場合、勤務年数が1年未満では受け取ることができません。勤務年数が10年未満の場合は90日、20年以上勤めていても150日が限度です。
●失業手当の最短給付開始日……3ヶ月と7日
自己都合で退職した場合は、失業給付を受け取るための待機期間が3ヶ月追加(※)されてしまいます。書類を提出しても3ヶ月は失業給付を受け取ることができません(※)ので、収入が途絶えてしまいます。
(※)令和2年10月1日以降に離職した方は、正当な理由がない自己都合により退職した場合であっても、5年間のうち2回までは給付制限期間が2か月となります。
●国民健康保険の保険料……軽減措置なし
自己都合で退職した場合、国民健康保険の保険料を軽減する措置はありません。したがって、前年度の給与で計算された国民健康保険料を支払うことになります。退職前は会社の健康保険組合の健康保険に加入していた場合は、会社も保険料を負担していたため、あなたが支払っていた保険料はそれほど大きくありませんでした。しかし、国民健康保険は、全額自分で支払わなければなりません。所得によっては、負担は高額となってしまうだけでなく、失業手当が給付されない3ヶ月間も国民健康保険料は支払う必要があります。
繰り返しになりますが、保険料や失業保険の面だけで見れば、解雇されたケースのほうが金銭面の心配が軽減されます。しかし、前述のとおり、転職活動の際には「会社都合の退職」と履歴書に記載しなければなりません。ただし、解雇となった場合は履歴書の記載を見て、「解雇にされてしまうほど、会社に不利益を与えることを行ったのか」、「勤務態度が悪いのでは」などの疑いを持たれてしまう可能性があるでしょう。状況によっては、なかなか再就職ができないというケースも想定できます。
どちらが自分にとってプラスなのかを冷静に考えて、次の行動に移りましょう。
4、会社都合なのに自己都合として退職届を求められたときの対処法
会社都合の退職なのに、自己都合として退職届を求められた場合、自分が何を求めているのかによって取るべき対策が異なります。
もし、あなたが転職活動の際に不利になるからと自己都合の退職を選ぶのであれば、そのまま退職届を書いてもよいでしょう。しかし、失業手当の受け取り日数や受け取れるまでの待機期間を考えて、会社都合のほうが得策だと考えれば、自己都合ではなく会社都合の退職であることを会社に認めさせなければなりません。
自分自身で交渉してもよいのですが、会社側は会社都合の退職を認めないケースも少なくありません。自分の権利を正当に主張したければ、労働問題の経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
会社都合の解雇を自己都合の退職にするようにと強要するような会社の場合、それ以外にも残業代の未払いや給与未払いなどの問題が潜んでいる可能性も考えられます。弁護士に相談することで、そのほかの問題にも気づき、適切な対応ができるかもしれません。
5、まとめ
通常、会社が従業員を解雇するためには正当な理由が必要です。もし、正当な理由なく解雇するのであれば不当解雇として、解雇を拒否できます。
正当な理由があり解雇する場合は、自己都合の退職ではなく、会社都合の退職とすることで、失業後に受け取ることができる失業手当の日数や、受け取れるまでの時間が大きく変わります。金銭面と転職活動時に相手に与えるイメージを想定したうえで、じっくり考える必要があるでしょう。
もし、会社から、解雇を言い渡されたのに自己都合退職を強要されている場合は、ひとりで悩まずに弁護士に相談することをおすすめします。残業代未払いなどそのほかの労働問題もあれば、まとめて解決することもできる可能性が高まります。
ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士では、労働問題に対応した経験が豊富な弁護士が、親身になって最適な対処法をアドバイスします。まずは気軽に相談してください。
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