振込先を間違えた! 返金に応じてもらえない場合に対処法はある?
- 個人のトラブル
- 振り込み
- 間違い
- 返さない
一般社団法人全国銀行協会では、銀行サービスの一般利用者に対するアンケートをもとに「よりよい銀行づくりのためのアンケート報告書」という調査結果を公表しています。平成30年度の報告によると、インターネットを利用したインターネットバンキングの利用率は60.3%でした。
神戸市に本店がある「みなと銀行」でもインターネットバンキングが利用できるように、多くの方にとって非常に身近な存在になりつつあるといえるでしょう。
インターネットバンキングの台頭により、パソコン・スマートフォンなどの端末から気軽に振り込みなどのサービスを利用できるようになりましたが、金融機関の窓口を利用した際には起こり得ないミスも多発しています。
特に、操作ミスや確認不足などによる「誤振り込み」は、返金までに時間がかかってしまうだけではなく、相手が返金に応じないケースもあり、対応に苦慮することになるため注意が必要です。
このコラムでは、誤って別の口座に振り込みをしてしまった場合に返金を求めるための手続きや、返金に関するトラブルへの対処法について、神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、返金に必要な「組戻し」の流れ
振り込みには、相手の金融機関・支店・口座種別・口座番号・口座名義人を特定する必要があります。これらの情報のうち、ひとつでも間違いがあれば相手の口座には振り込まれません。
金融機関の窓口で振り込みの手続きをする場合は、振り込み依頼書をもとに行員が照合するため、誤振り込みは起きにくいでしょう。
ところが、行員による照合のないATMを利用した振り込みや、パソコン・スマートフォンを使ったインターネットバンキングでは、口座が存在する限り、振り込みが実行されてしまいます。
相手口座に着金する前であれば、手続きを取り消すことができる可能性もあります。
ただし、振り込みの処理は、金融機関が稼働している時間内であれば即時に行われることがほとんどです。そのため、手続きが完了した時点でミスに気が付いたとしても、処理を止めることは難しいでしょう。
返金を求めるには、金融機関に「組戻し」を求める必要があります。
-
(1)「組戻し」とは
「組戻し」とは、金融機関に対して資金を返却するように求める手続きです。
ただし、一度振り込まれたお金は「間違いだった」という理由だけで、金融機関側が勝手に取り戻すことができません。
組戻しを依頼すると、金融機関が振込先の口座名義人に「誤振り込みされたお金を振り込み依頼主に返却しても良いか」と連絡を取り、了承を得たうえで返金されます。 -
(2)振込先が同一金融機関口座の場合
誤振り込みの先が同一金融機関口座の場合は、組戻しを依頼した金融機関が振込先の口座名義人にかかる情報を保有しているので、比較的スムーズに手続きが進むと考えられます。
金融機関が直接相手に連絡を取り、相手の了承が得られれば返金されます。 -
(3)振込先が別の金融機関口座の場合
誤振り込みの先が別の金融機関口座の場合は、流れが複雑になります。金融機関によって、手続きや流れが異なる可能性はありますが、次のような流れで進むのが一般的でしょう。
たとえば、誤振り込みをしてしまった人をAさん、Aさんが利用した金融機関をX銀行、振り込みを受けた人をBさん、Bさんが利用している金融機関をY銀行とすると、次のような流れで組戻しが進みます。①AさんがX銀行へ組戻しを依頼
まずAさんは、自身が振り込みに利用したX銀行に「組戻しをしてほしい」と依頼します。
②X銀行からY銀行へ連絡
依頼を受けたX銀行は、Bさんの情報を保有していません。
そこでX銀行は、振込先であるY銀行に連絡を取ってBさんの了承を得るよう依頼します。
③Y銀行からBさんへ連絡
依頼を受けたY銀行は、保有している情報をもとにBさんに連絡を取り、誤振り込みであったことを伝えて返金の了承を得ます。
④Y銀行からX銀行へ送金
Bさんが返金を了承すると、まずY銀行がBさんの口座から誤振り込み分のお金を引き落とし、Y銀行からX銀行へと送金します。
⑤X銀行からAさんへ返金
回答と資金返却を受けたX銀行は、Aさんの口座に誤振り込み分のお金を返金します。
別の金融機関が絡むうえに相手が連絡に応じないこともあるため、手続きにかなりの時間を要するケースも少なくありません。
2、相手が返金に応じてくれない場合の対処法
組戻しは、誤振り込みを受けた相手の承諾が必要です。相手が承諾しない限り、組戻しは成立しません。「間違って振り込んだのに、相手が返金に応じてくれない」といった事態になれば、誰もが憤りを感じてしまうでしょう。
では、組戻しを依頼したのに相手が返金に応じてくれない場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか?
-
(1)金融機関では対応してくれない
組戻しが成立するには、誤振り込みを受けた相手の承諾が必須です。
しかし、相手がこれに承諾しないからといって、組戻しの依頼を受けた金融機関が粘り強く返金するよう説得してくれるわけではありません。
また、誤振り込みをしてしまった本人が、振り込んだ先の金融機関に直接連絡をしても、個人情報保護を理由に回答は得られないでしょう。 -
(2)不当利得返還請求訴訟を起こす
誤振り込みであるのに相手が返金に応じない場合は、「不当利得返還請求訴訟」による解決を目指すことになります。
誤振り込みによって得たお金は、契約など法律上の原因なしで受けた、不当な利得です。
不当利得を得た受益者は、民法第703条の定めにより「その利益の存する限度において返還する義務を負う」ことになります。
つまり、誤振り込みを受けた相手は、法律上の返還義務を負っているといえます。
不当利得の返還を求めるには、裁判所に「不当利得返還請求訴訟」を提起する必要があります。
返還を求める金額が140万円以下であれば簡易裁判所へ、140万円を超える場合は地方裁判所に訴訟を提起し、判決として裁判官から命じてもらうことで返金が実現するでしょう。
3、誤振り込みした相手を特定できない場合
誤振り込みの相手が友人・知人・親類などであれば、直接の返金交渉が可能です。
取引先などの場合でも、連絡を取って「誤って振り込みをしてしまった」と説明すれば返金交渉は難しくないでしょう。
問題となるのは、誤振り込みの相手が特定できない場合です。
-
(1)訴訟は相手の特定が必須
誤振り込みの相手が、組戻しによる返金に応じてくれない場合は、裁判所に不当利得返還請求訴訟を提起する必要があることは前述したとおりです。
ところが、訴訟を提起するには、相手の住所・氏名の特定が必要です。
相手の住所・氏名がわからないと、裁判所が「訴訟を提起された」と相手へ通知することができないので、手続きを進めることができません。 -
(2)弁護士会照会によって相手を特定できる可能性がある
誤振り込みの相手を特定する際、「弁護士会照会」の制度を利用することが考えられます。
弁護士は、弁護士法第23条の2の規定に基づき、受任している事件について必要な情報を得るため、各関係先に弁護士会を介した照会を求めることができます。
照会先が相手を特定する事項を回答してくれた場合、その回答結果を利用して訴訟提起に利用することが出来ます。
ただし、照会先の判断で回答が得られない場合もあります。 -
(3)口座情報等から相手方を可能な限り特定して訴訟を起こす
弁護士会照会によっても誤振り込みの相手が特定できない場合は、口座情報から得られる最低限の情報をもとに訴訟を起こすことになります。
提訴する前に、原告において可能な限り被告を特定するための情報を得ようとしたにも関わらず、これらの情報が判明しなかったという場合には、住所・氏名がわからなくても、口座情報をもとにカタカナ表記の口座名義人名や口座番号により、できる限り相手方を特定して訴訟を提起します。
同時に裁判所に対して「調査嘱託」を申し立てれば、裁判所による調査の結果、相手先の金融機関から必要な情報開示が得られ、適法に訴訟が進められる可能性があります。
4、誤振り込みしたお金を相手が使ってしまった場合
誤振り込みを受けた相手が、すでにそのお金を引き出して使ってしまっていた場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか?
-
(1)相手に正当な権利は存在しない
誤振り込みの相手は「自分の口座に振り込まれたお金だ」と権利を主張するかもしれませんが、誤って振り込まれたお金は不当利得にあたるため相手に正当な権利は存在しません。
ただし、不当利得を得た者には返還の義務が生じますが、そこには「その利益の存する限度」という問題が生じます。「その利益の存する限度」のことを「現存利益」といいます。
現存利益とは、利益が現物のまま、あるいは姿を変えて、なお現存することを意味します。
たとえば、誤って振り込まれたお金をすでに使い込んでしまって現物が残っていなくても、生活費や物品購入などに充てられていれば、その分の出費を免れていることになり、形は変わっていますが利益が残っていることになります。
つまり、現存利益があると考えられるため、返還の義務は依然として存在しているといえます。このような場合は、誤振り込みを受けた相手がそのお金を使い込んでいたとしても、返還の義務は消えません。
ただし、遊興費に使われたなど、単に浪費したケースでは、利益が残っていないと判断され、返還の義務を負わないとされることもあるため注意が必要です。 -
(2)刑事告訴を検討する
誤振り込みの相手が、かたくなに返金を拒んでいる場合は、刑事告訴に踏み切ることも検討しましょう。
実際に、誤振り込みを受けた相手が、誤振り込みであることを知りながら金融機関の窓口で払い戻しを受けた行為について、刑法第246条に規定されている「詐欺罪」の成立を認めた事例があります。
この事例では、誤振り込みであることを知っているのに、その事情を隠したまま窓口で払い戻しを請求する行為が、詐欺罪において「だます」行為を意味する「欺罔(ぎもう)行為」にあたると判断されました(最高裁 平成15年3月12日判決)。
また、誤振り込みを受けたお金をATMで引き出す行為は、金融機関の占有を侵害するとして刑法第235条の「窃盗罪」が成立する可能性もあります。
現金の移動がなくとも、誤振り込みを受けたことを知りながら口座間で資金を移動させれば、刑法第246条の2の「電子計算機使用詐欺罪」が適用される可能性もあるでしょう。
なお、刑事告訴は「相手に刑罰を与えてほしい」という手続きなので、直接返金に結びつくものではありません。しかし、刑事告訴されたことで、相手が返金に応じる可能性もあるので、解決に向けた一案として検討することができます。
5、まとめ
何らかのミスによって誤振り込みをしてしまった場合は、直ちに金融機関に連絡して「組戻し」の手続きを進めてもらいましょう。ある程度の時間がかかるかもしれませんが、金融機関から「誤って振り込まれたお金だ」と説明されれば、相手が返金に応じてくれる可能性は高いはずです。
しかし、相手がすでにお金を引き出して使い込んでしまっているなど、スムーズな返金に応じてくれないケースも少なからず存在します。
誤振り込みに関するトラブルが、金融機関による組戻しでも解決できない場合は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスにご相談ください。弁護士が代理人となって、相手との交渉や不当利得返還請求訴訟の手続きを進めることが可能です。
なお、誤って振り込んでしまったお金が少額であれば、弁護士費用とのバランスを鑑みて、対応を検討いただくほうが良いこともありますので、まずはしっかりとお話を伺ったうえで、取るべき対応についてアドバイスします。
組戻しに応じてくれない相手から、何としてでも返金を受けたいと考えるなら、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスにお任せください。
経験豊富な弁護士が、解決まで徹底的にサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています