家族経営をしている夫婦が離婚を決めたら知っておきたい注意点
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神戸市が公表した統計によると、令和元年には、市内にある約6万7000の事業所で73万人近くの方が働いているとされています。
家族で経営している企業の場合、夫婦の一方が経営者となり、もう一方が役員や社員として働いているというケースもあるでしょう。夫婦関係が良好であればメリットも大きい家族経営ですが、夫婦関係が悪化し離婚することになった場合は、家族経営であるがゆえの問題が生じる可能性があります。
本コラムでは、家族経営をしている夫婦が離婚する際に注意するべき点について、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、家族経営をしている夫婦が離婚で直面する問題
夫婦が離婚するときには、お金や親権といった、さまざまな問題について解決する必要がありますが、家族経営をしている夫婦が離婚するときは、一般的な離婚問題に加えて会社の問題も絡むことになります。
たとえば、会社の財産と夫婦の財産があいまいになっている、財産分与に会社の財産は含まれるのか、役員をしているが解任されてしまうのかといった問題のほか、代々事業を受け継いできた会社の場合は、親族が絡むことで問題が複雑化するおそれもあるでしょう。
2、離婚における財産分与の問題
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(1)財産分与とは
離婚の際には、夫婦が結婚生活で築いた資産を清算して分割する、財産分与が行われます。財産分与は、婚姻後に夫婦で築いた財産が対象になります。
家族経営の会社では、会社の財産と夫婦の財産があいまいな場合や、一方の特別な努力や能力で得た資産であることも少なくありません。そのため、一般的な考え方では財産分与がスムーズに進まない可能性があります。 -
(2)会社名義の資産は基本的に含まれない
法人化している場合、会社名義の資産は、原則として離婚時の財産分与の対象になりません。つまり、個人財産と会社財産は、区別して考えるのが原則です。
しかし、会社名義の家や車などを実質的に夫婦の共有財産として使っていたようなケースでは、その家や車なども財産分与の対象になる可能性があります。具体的にどの財産が分与対象になるのかを個人で判断するのは難しく、話し合いが平行線をたどることも少なくありません。そのため、早い段階で弁護士に相談することが大切です。
なお、夫婦一方の名義で保有している会社の株式については、株式が結婚後に夫婦が協力して築いた財産と言えるときには、財産分与の対象になる可能性があります。非上場会社の株式の評価は、様々な計算方式があるため、弁護士や税理士にご相談いただくことをおすすめします。 -
(3)財産分与の割合は必ず「2分の1」ずつ?
財産分与は、婚姻期間に夫婦で築いた資産を、それぞれの貢献度に応じて分配するものです。ここで言う“貢献度“とは、直接的に得た収入の割合という意味ではありません。
たとえば、専業主婦の妻と会社員として働く夫が離婚するときには、妻は直接的に収入を得ていませんが、夫の収入は夫婦が協力して得た収入と考えられます。つまり、夫婦は同じ貢献度であると考えられるため、財産分与の割合は2分の1ずつとするのが原則です。
しかし例外的に、夫婦の一方の特別な努力や能力によって高額の資産が形成されていたり、一方の婚姻前の資産を元手に高額の不動産を取得したりしていたケースでは、財産分与の割合が変更されることがあります。家族経営の場合、代々受け継いできた会社というケースや、経営者の特別な能力で高額な資産が形成されているケースでは、財産分与の割合が2分の1にならない可能性があることを知っておくと良いでしょう。
3、離婚にともなう役員の解任
家族経営の会社で、夫婦の一方が社長で他方が役員(専務)になっているようなケースでは、離婚後もそのまま役員を続けるのかが問題になる可能性があります。夫婦仲の悪化が原因で離婚するような場合には、離婚後も夫婦が同じ職場で働くことで、他の社員に与える影響を懸念することもあるでしょう。また当事者としても、居心地が悪いと感じるかもしれません。
しかし経営者側が勝手に、役員である配偶者を解任して良いわけではありません。役員の解任は、法律で定められた手続きや要件のもとで進める必要があります。
たとえば株式会社であれば、役員の解任は基本的に株主総会の普通決議で行うものとされています。そのため経営者が普通決議の要件を満たす議決権を有していれば、解任することが可能です。ただし解任できたときでも、解任のための正当な理由がない場合には、役員は会社に損害賠償をすることが認められています。
また、役員ではなく従業員だった場合も、注意が必要です。従業員を解雇するには、法律や就業規則のルールにのっとって行われる必要があり、離婚のみを理由とした解雇は認められません。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効となりますので、安易に行うことはできません(労働契約法16条)。
そのため、一方的に解任や解雇は行わずに、夫婦でしっかりと話し合い、双方合意の上で決断することが理想的と言えるでしょう。
4、慰謝料の問題
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(1)慰謝料が請求できるケース
相手の不法行為が離婚原因になったような場合には、受けた精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料を請求できる可能性があります。たとえば、相手に不貞行為やドメスティックバイオレンス(DV)があった場合、生活費を渡さないなどの悪意の遺棄があったときなどが該当します。
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(2)高額の慰謝料請求が可能なケースばかりとは限らない
有名人の離婚の報道などから、収入が高い相手には高額の慰謝料を請求できるというイメージがあるかもしれません。しかし、慰謝料の金額に法律上の決まりはないため、当事者同士で納得いく金額を算出することになります。
争いになったときは裁判で慰謝料を決めることになりますが、裁判では不法行為の内容や精神的苦痛の程度、婚姻期間の長さ、当事者の社会的地位といったさまざまな要素をもとに慰謝料は算定されます。経営者という立場や収入などが慰謝料を算定するときの要素として影響する可能性はありますが、必ずしも高額の慰謝料請求が可能というわけではありません。
5、親権の問題
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(1)親権の決め方
日本では、離婚後は単独親権の制度が採用されています。そのため離婚時には、父母のどちらか一方を親権者として定めなければなりません。
基本的には父母の話し合いで親権者を決めますが、話し合いがまとまらないときは家庭裁判所に調停を申し立てて解決を図ります。調停では、調停委員を交えて親権について話し合い、合意を目指します。合意ができなかったときは、裁判所が親権者を定めることになります。 -
(2)親権者を定めるときの判断要素
家族経営の場合、経営者が自身の子どもを会社の後継者として考えており、強く親権を求めることもあるでしょう。お互いに親権を譲らず話し合いでは解決が見込めなければ、最終的には裁判所に判断を委ねることになります。
裁判所は次のような事柄を重視しつつ、さまざまな事情を考慮した上で、最終的に夫婦のどちらを親権者とするかを判断します。- 監護能力
- 面会交流の許容
- 監護の継続性
- 子どもの意思
- 兄弟姉妹不分離の原則
- 母性優先の原則
6、まとめ
家族で事業を営んでいる夫婦が離婚する場合、通常の離婚と比べて決めるべきことが多いため、話し合いが思うように進まないということも少なくありません。また、親族が絡むことで話し合いがこじれてしまうケースや、後継者問題に発展するケースもあるでしょう。
そのため、離婚を決めたら話し合いの段階から、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼するのは、トラブルが起きてからと考える方が多いようですが、話し合いの段階から弁護士が介入することで、決めるべきことが明確になり、道筋を立てやすくなります。また、弁護士は代理人として交渉を行うこともできるので、配偶者と顔をあわせることなく話し合いを進めることも可能です。言い分をしっかりと伝えられ、お互いに落ち着いて交渉ができるというメリットもあります。結果として、早期の離婚成立も期待できるでしょう。
ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスには、離婚問題の対応実績が豊富な弁護士が在籍しています。また、企業法務や労働問題も対応しているため、夫婦の離婚問題はもちろんのこと、事業に関する問題についても対応が可能です。
おひとりで悩みを抱えず、ぜひ一度ご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています