未払い残業代について相談したい! 残業代請求で知っておきたいこと
- 残業代請求
- 残業代
- 未払い
- 相談
厚生労働省の発表によると、平成30年度に100万円以上の割増賃金の遡及(そきゅう)支払いを行った会社は1768社、対象労働者数は11万8680人にのぼるそうです。
これらは氷山の一角であり、本来支払われるべき賃金が支払われずにいる労働者は、まだまだ存在すると考えられます。
しかしながら、働いた分の正当な対価として賃金を要求するのは、労働者として当然のことです。
そこで、本コラムでは、未払い残業代がある場合はどこに相談したら良いのか、また未払い残業代を請求するために取るべき行動について、神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、未払い残業代について相談できるのは?
会社が労働者に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働をさせた場合は、会社は割増賃金を支払う義務があります。
また、労働契約や就業規則で定められた賃金を、所定の支払日に支払わなかった場合には、会社は労働基準法 第24条に違反していることになります。
適正な賃金の支払いを求めることは、労働者に認められた権利です。しかしながら、会社側との力関係があるために、声を上げにくいこともあるかもしれません。
残業代を払ってもらえない、労働時間の管理がずさんである、そのようなお悩みがある場合は、以下の各窓口に相談してみると良いでしょう。
いずれも、プライバシーの保護に配慮して相談が受けられます。
-
(1)総合労働相談コーナー
労働基準監督署は厚生労働省の下部機関で、都道府県労働局の管内に設置されています。労働基準監督署や都道府県労働局には、「総合労働相談コーナー」が設けられています。神戸市内では、神戸東労働基準監督署内、神戸西労働基準監督署内、兵庫労働局内の3か所にあります。
相談コーナーでは、残業問題をはじめ、労働条件やパワハラ、セクハラ、解雇など幅広い問題に対応しています。相談内容に応じて、労働基準監督署による会社への助言、指導、是正勧告や、和解へのあっせんにつなげてもらえる可能性もあります。 -
(2)全労連労働問題ホットライン
全労連(全国労働組合総連合)が運営している相談窓口です。フリーダイヤルにかけると、最寄りの相談センターにつながります。メールフォームからの相談も可能です。
未払い残業問題はもちろん、労働者の「集団的自助」のための組織である労働組合が運営しているため、団体交渉などの相談にも乗ってもらえるでしょう。 -
(3)法テラス
法テラスは「日本司法支援センター」の通称で、平成18年に国が設立した、法律問題を解決するための相談窓口です。兵庫県内では、神戸本所、阪神、姫路の3か所に設置されています。
経済的に余裕がない場合は、弁護士費用を立て替えてもらうことができます。ただし、費用の立て替えには、収入要件など一定の条件を満たす必要があります。
また、労働法規に関するトラブルも相談可能ですが、担当の弁護士が労働問題に詳しいとは限らない点には注意が必要です。 -
(4)弁護士
弁護士は、複雑な割り増し残業代の計算、時効の更新などに関する手続き、証拠の集め方の助言、各種申し立ての書類作成、和解交渉、労働審判、裁判の手続きなど、幅広く対応することができます。
費用は発生しますが、弁護士であれば社会保険労務士や行政書士などと異なり、本人の代理人として各種手続きや交渉、裁判を行うことが可能です。
また、会社との交渉においても、個人で交渉する場合と、弁護士を立てて交渉するのでは、会社の態度が異なることも少なくありません。弁護士であれば、会社側が顧問弁護士に交渉を依頼してきたとしても対等に交渉を進めることができるので、早期解決につながることも期待できます。
2、残業代を請求できる可能性があるケース
会社からは、「管理職だから残業代は出ない」「裁量労働制だから残業代は出ない」などと聞かされているかもしれません。
しかし、実際にはそのような説明は誤っており、支払われるべき残業代が未払いになっているケースも珍しくありません。次にあげたのは、残業代の未払いが発生している場合によく見られるケースです。当てはまる項目がないか確認してみてください。
- 1日8時間以上、週40時間以上働いているが残業代が支払われない
- 午後10時以降に働いたのに深夜の割増賃金が支払われない
- 法定休日に出勤しているのに休日割増賃金が支払われない
- みなし労働時間制であることを理由に超過労働時間分の残業代が支払われない
- 管理職であることを理由に残業代が支払われない
- 歩合給で契約しているため残業代が支払われない
- 年俸制、裁量労働制、フレックスタイム制のため、残業代が支払われない
心当たりがある場合は、まずは雇用契約書、就業規則を確認してみてください。実際の業務内容や勤怠管理、会社側の説明が、雇用契約書、就業規則の定めから乖離(かいり)している場合は残業代を請求できる可能性があります。
実際の勤務時間がわかるものや、契約書などを集めて、前述の相談窓口や弁護士に相談し、自身のケースで未払い残業代が発生するかを確認すると良いでしょう。
3、未払い賃金の請求権の時効に注意!
未払いの残業代を請求するにあたっては、時効に注意しなければいけません。
令和2年4月1日より前に支払日がある未払い賃金の請求権は、残業代が支払われるべきであった給与の支給日を起算日として、「2年」で時効が完成します。
令和2年4月1日以降の請求権については、民法改正の影響を受け「3年」に延長されています。ただし、3年が適用されるのは、令和2年4月1日以降が支給日となっている賃金に対してのみです。
時効を迎えてしまえば、本来もらえるはずだった残業代を回収することはできなくなってしまいます。未払い残業代がある場合は、一刻も早く弁護士に相談するのが得策です。
4、残業代を請求するときに重要なのは「証拠」
会社に対して未払いの残業代請求をする場合は、証拠が必要になります。
会社が「残業はしていない」、「労務管理の時間通りに支払っている」などと主張してきた場合に証拠を提示できなければ、会社側に反論の余地を与えてしまいます。
また、訴訟になった場合は客観的な証拠が重要視されますので、その点も見据えて弁護士に相談し、有効な証拠を集めておくことをおすすめします。
一例として、次のようなものが残業の証拠になり得ます。
- 雇用契約書、就業規則
- 勤務シフト表、タイムカード、勤怠表
- 給与明細、源泉徴収票
- 業務日報
- 交通系ICカードの記録
- PCのログオンログオフ履歴、会社の出入室記録
- 家族などへ帰宅を知らせるメールなど
- 業務の連絡をしたことを示すメールや電話の履歴
就業中であれば証拠を集めることもできますが、退職してしまった場合などは、証拠集めは困難になるでしょう。そのような場合は弁護士に依頼することで、弁護士が会社側に証拠の開示請求を行うことができます。
なお、訴訟を提起する前提であれば、裁判所に証拠保全の申し立てを行うことで、必要な証拠を確保することも可能です。
5、残業代の計算方法
未払いの残業代を会社へ請求するには、正確な未払い残業代を計算する必要があります。まずは、一般的な残業代の計算方法を理解しましょう。
1か月あたりの法定労働時間を超える分の残業代は、下記の計算式に当てはめることで算出できます。
1時間あたりの基礎賃金×1か月の法定時間外労働時間×割増率
割増率は、次のように労働の種類によって変わります。
1か月に60時間を超過した法定時間外労働時間(※): 1.5倍
深夜10時~翌朝5時までに労働(深夜労働)した時間:1.25倍、
法定時間外労働かつ深夜労働の時間: 1.5倍、
1か月60時間を超過した法定時間外時間(※)で、かつ深夜労働に当たる時間: 1.75倍
法定休日労働の時間:1.35倍、
法定休日労働かつ深夜労働の時間:1.6倍
※中小企業に対しては適用が猶予されていますが、2023年4月1日以後は例外なく適用されます。
たとえば、法定時間外労働の時間が月20時間、1時間あたりの基礎賃金が2000円、割増率が1.25倍なら、2000円×20時間×1.25=5万円が残業代です。
以上は、基本的な残業代の計算方法です。
厳密な計算は、労働契約内容や会社の規則によって異なるため、弁護士などの専門家に依頼し算出すると良いでしょう。
6、まとめ
残業代を請求するにあたっては、会社との関係性が気になるのはもちろんのこと、証拠の確保や未払い残業代を正確に算出する必要があるなど、労働者にとってハードルが高いのも事実です。
しかし、残業代の未払いは法律違反です。労働者には、働いた分の正当な対価として、残業代を請求する権利があります。
サービス残業が常態化しているなど、未払いの残業代についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスまでご相談ください。労働問題の経験豊富な弁護士が、あなたの未払い残業代を取り戻すべく、全力でサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています