不当に解雇された! 知っておくべき労働基準法の内容と対応ポイント
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人材不足が叫ばれる現代ですが、その一方で能力不足や成績不振により不当解雇される事例が後を絶ちません。2017年には、神戸市に住む男性が、交通事故による後遺症で両足にまひが残ったことを理由とする解雇は無効であるとして、勤務先を訴える事案がありました。
不当解雇で会社を訴える場合、まず労働基準法等の労働関係法令や過去の裁判例などを参考にしなければなりませんが、それらの法令等ではどのように定められているのでしょうか。今回は、解雇について労働関係法令ではどのように定められているのかということや過去の裁判例でどのように判断がなされているのかについて解説します。
1、労働基準法等の労働関係法令や過去の裁判例等で認められている解雇の種類
労働基準法等の労働関係法令や過去の裁判例等で認められている解雇には大きく分けて「懲戒解雇」と「普通解雇」の2種類があります。これらは、労働者にどれだけ責められる点が多いかによって振り分けられることが多いです。そしてこれらの2種類をさらに細かく分けると「諭旨解雇」と「整理解雇」を加えた4種類になります。
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(1)懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員に対するペナルティとして行う解雇のことを指します。懲戒解雇では日を置かずに即時解雇されることが多く、退職金も不支給もしくは減給とされるケースが多く見受けられます。
ただし、懲戒解雇をするには、あらかじめ就業規則で懲戒解雇になる条件を規定していること、適正な手続きを行ったこと等の合理的理由や社会通念上相当性があることが必要です。業務上横領や個人情報の流出といった社会的に影響を与えるようなことをしても、就業規則に懲戒解雇に関する規定がなければ懲戒解雇をすることはできません。 -
(2)整理解雇
整理解雇とは、会社が経営不振に陥り、人員を削減しなければ倒産を回避できない状況になったときに行われる解雇のことを指します。整理解雇については、解雇される従業員に責められる事情が存在しないことや複数の従業員に対して実施されるという性質上、厳格かつ複雑なルールが定められています。
たとえば、徹底的にコストカットを行ったが資金繰りが依然苦しく、会社を存続していくためには人員削減をしなければならない場合などに、整理解雇が認められやすくなる傾向があります。ただし、熟練の技術を持った高年齢者を解雇してしまうと、業績の回復が難しくなることもあることから、どの人員を解雇するのかという点も整理解雇の有効性を判断する上では重要な事情となりますので、注意が必要です。 -
(3)普通解雇
普通解雇とは、上記3つ以外の理由で会社側が従業員を解雇することを指します。普通解雇が適用されるのは、能力不足や成績不振、遅刻・欠勤の多さなどの従業員に責められるべき事情があるものの、懲戒解雇までは相当ではないような場合があげられます。しかし、実際これらの事象が見受けられるとしても、直ちに解雇が認められるというわけではありません。例えば、会社側が本人に働きかけても改善が見られない、本人の態度や勤務状態が改善しなければ企業経営に支障が出る、というような事情がなければ、解雇権の濫用にあたるとして解雇は無効とされる可能性があります。
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※諭旨(ゆし)解雇(諭旨退職と言われる場合もあります)
諭旨解雇とは、重大な懲戒解雇にも相当するような非違行為をしてしまったような従業員に対して、情状酌量の余地があるならば、あえて懲戒解雇にはせず、本人に自主的な退職を促して退職させることを指します。懲戒処分としてなされる点は懲戒解雇と同じですが、懲戒解雇の一歩手前として行われることが一般的で、就業規則でも「勧告を拒否した場合は懲戒解雇とする」と規定されることが多いです。したがって、勧告に従ったような場合は、結論として退職金が支給されるケースが比較的多く見受けられます。
2、労働基準法等の労働関係法令や過去の裁判例等で認められている使用者が従業員を解雇できる条件とは
雇用は、従業員の生活を守るためになくてはならないものです。そのため、解雇は労働基準法などの各種労働法規によって厳しく制限されています。ここでは、労働基準法等の労働関係法令や過去の裁判例等で認められている使用者が従業員を解雇できる条件について解説します。
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(1)労働契約法で定められた解雇条件
労働契約法で解雇が認められるのは、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当である場合に限られています。「客観的に合理的な理由」とは、だれが見ても納得できる理由のことを指します。裁判例等においては、合理的と思われる解雇事由が就業規則に定められている場合は、その解雇事由に該当する場合に「客観的に合理的な理由がある」と判断されていることが多いです。また、「社会通念上相当」とは、従業員の勤務状況や生活状況、会社側の対応などを総合的に考慮しても解雇とすることが社会通念上やむを得ないことを指します。
たとえば、あるラジオ放送局のアナウンサーが寝坊して、放送が10分ないし5分程度中断するという出来事が2週間の間に2度発生したために、会社が当該アナウンサーを解雇した事案が過去にありました。この事案では、悪意や故意はないこと、普段の勤務成績は悪くないこと、過去に放送事故を理由に解雇された人物がいないことなどから、「解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することができない」として、解雇が無効と判断されました。(「高知放送事件」最二小判昭52.1.31 労判268-17) -
(2)裁判例で認められた整理解雇の条件
整理解雇が認められているケースも、非常に限定されています。裁判例上、整理解雇の有効性を判断するにあたっては、以下の4つの要素を総合的に考慮していることが多いです。これらの条件を一切満たさない解雇は無効となります。また、これらの条件を満たさない解雇も無効と判断される可能性があります。
- 人員を削減する必要があること
- 解雇を回避しようと努力したこと
- 当該従業員を解雇する理由に合理性があること
- 従業員と行った協議や手続きの内容に合理性があること
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(3)法律上解雇が制限されるケース
解雇は、ただちに従業員の生活に大きな影響を及ぼすため、さまざまな法令で制限されています。たとえば、以下のようなケースが該当します。
- 業務上のケガもしくは病気の治療・療養のために休業する期間と勤務再開後30日間
- 産前産後休業の期間(産前6週間(多胎妊娠の場合は14週)と産後8週間)とその後30日間
ただし、これらの期間を過ぎたからと言っても、会社側はただちに従業員を解雇できるわけではありません。解雇するには、やはり客観的かつ合理的な理由が必要となります。
3、解雇予告をされたら確認すべきポイント
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(1)労働基準法上の解雇予告のルール
労働基準法では、解雇予告を行う際のルールが以下の通りに定められています。
- 解雇予告期間の30日以上前に予告すること(試用期間中であっても必要。ただし、解雇の時期が試用期間開始から14日間の間に限り不要)
- 解雇予定日まで30日もない場合は、30日分以上の平均賃金を支払うこと
ただし、受け取ることのできる平均賃金は、解雇予定日までの残日数分でもよいとされています。たとえば、10日後に解雇となる場合は、会社は20日分の平均賃金を支払えばよいことになります。
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(2)解雇の理由・経緯
解雇予告を受けたら、自分が解雇されることが決まるまでの経緯や理由について会社側に確認しましょう。経緯や理由については、解雇予告通知書等の書面で具体的に説明してもらうことが大切です。たとえば、理由が就業規則違反であれば、単に「第○条違反のため」ではなく、「遅刻や欠勤を繰り返し、再三注意を受けて改善の機会を与えられていたのにも関わらず改善がみられなかったため」などと書いてもらう必要があります。なぜなら、書面で使用者が解雇の理由を一旦示した場合、その他の理由での解雇を主張することは難しくなるからです。
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(3)会社都合退職と自己都合退職、どちらになるのか
また、退職の理由が会社都合になるのか自己都合になるのかについても、必ず確認しましょう。会社都合退職であれば、雇用保険に加入していた場合は退職後すぐに失業手当が支給されますが、自己都合退職の場合は3ヶ月間支給されないからです。会社都合退職と思っていたのに離職票では「自己都合退職」と書かれていた場合は、ハローワークで事情を説明すれば、会社都合退職とみなしてもらえる可能性があります。
4、解雇予告通知書や解雇理由証明書をもらおう
会社の上司などから「解雇する」と言われた場合、すぐに解雇予告通知書や解雇理由証明書をもらうようにしましょう。もし、解雇をめぐって労働審判や裁判などで会社側と争うことになったときに、これらの書類は重要な証拠となるからです。
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(1)解雇予告通知書を受け取ったら確認すべき2つのこと
解雇予告通知書を受け取ったら、確認すべきことが3つあります。
<解雇理由>
書かれている解雇理由に心当たりがあるかどうか、過去を遡って思い返してみましょう。たとえば、社内の問題を指摘して上司や同僚ともめていた場合、辞めさせる口実として「勤務態度不良」とされているケースがあります。
<解雇理由が就業規則に則ったものになっているか>
また、就業規則の内容を確認し、解雇理由が規則に則ったものになっているかどうかを確認します。原則として、就業規則に記載のある事由でしか会社は従業員を解雇できないからです。 -
(2)できる限り早く解雇理由証明書の発行を依頼する
労働基準法上、従業員が請求した場合には、会社は解雇理由証明書を発行しなければならないと定められています。解雇で争いが起きた後では、解雇理由を改ざんされるおそれもあることから、解雇理由証明書は解雇通告を受けた後できる限り早く発行してもらうようにしましょう。
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(3)解雇理由証明書を発行してもらえない場合
会社にいくら言っても解雇理由証明書を発行してもらえない場合は、「解雇する理由がない」とみなして今まで通り仕事を続けても問題はありません。一方的に退職金や解雇予告手当を振り込んできた場合は、返金するか、もしくは賃金の一部として受け取る旨を文書にして会社側に提出しましょう。また、無断で欠勤すると「退職に合意した」と会社側に受け取られるかもしれないので、仕事を休む場合は有給休暇を利用するようにします。
5、不当解雇だと思ったときの対処法
解雇理由証明書を発行してもらえない場合は、解雇するための正当な理由がない可能性が大きいと言えるでしょう。正当な理由がない場合は不当解雇にあたるため、解雇を撤回してもらったり、損害賠償を請求したりすることができます。
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(1)証拠となる資料を準備する
不当解雇を理由に会社と争う場合は、審判や裁判になったときに備えて証拠となる資料を準備しましょう。解雇予告通知書や解雇理由証明書のほか、タイムカード・就業規則・雇用契約書・会社とやり取りしたメールや文書・上司との会話を記録した音声記録などが証拠となります。また、解雇までの経緯を記したメモや日記もあると役に立ちます。
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(2)専門機関・団体に相談に行く
次に、証拠資料を持って労働相談を受け付けている専門機関や団体に相談に行きましょう。相談先としては以下のようなところがあげられます。
●労働基準監督署
会社が労働関係法令を遵守しているかどうかを監視する公的機関です。会社に重大な法律違反があれば立入調査や行政指導を行いますが、個別具体的なケースについて解決してくれない場合もあることに注意が必要です。
●都道府県の相談窓口
都道府県に設置されている、労働問題全般について相談に乗ってもらえる窓口です。こちらも相談やアドバイスは行ってくれますが、自力で問題解決をしなければならない点がデメリットです。
●労働組合
従業員の労働環境を改善するために活動している団体です。会社に設置されていることが多いですが、個人で加入できる外部の労働組合もあります。労働組合を通じて会社と団体交渉をすることはできますが、損害賠償金の請求までは難しいのが現状です。
●弁護士
会社との交渉だけでなく、労働審判や裁判にも対応できるのが弁護士です。個々のケースに合わせて最適な解決策を提案して実行するので、根本的な解決につながる可能性が高いと言えます。 -
(3)会社と交渉する
会社側に内容証明郵便を送った上で、証拠資料をもとに会社側と不当解雇の撤回や損害賠償を求めて交渉を開始します。個人で交渉を求めても相手にされない可能性がありますが、弁護士の名前で内容証明郵便を送付すれば、会社側に交渉のテーブルについてもらえる可能性が高くなります。
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(4)労働審判・裁判を利用する
交渉が調わなければ、裁判所に労働審判を申し立て、裁判官1名と有識者2名から成る審判委員会の仲介の下で引き続き協議を行い、調停による解決を目指します。調停が成立しない場合は裁判所が労働審判を下すことになります。当事者双方とも審判に異議がなければ審判が確定しますが、どちらかが異議を申し立てた場合は自動的に裁判に移行します。裁判となった場合は、解決までに時間がかかることに注意が必要です。
6、まとめ
労働基準法等の労働関係法令や過去の裁判例等では、従業員の生活を守るために解雇に関するルールが複雑かつ厳格に定められています。そのため、そのルールに会社が逸脱して従業員を解雇しようとすれば、解雇権の濫用にあたるとして解雇が無効になるとされています。
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