飲食店での食事が原因で食中毒に! 治療費や慰謝料は請求できるのか?
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神戸市はホームページ上で、「市内における食中毒発生状況」を随時更新・公開しています。
平成31(令和1年)中は12件、合計124名の方が食中毒になりましたが、幸いにも死者は発生しませんでした。令和2年に入ってからも、弁当・鶏肉料理・生魚料理などを原因とした食中毒が発生しており、多くの方が食中毒の被害にあっています。
食中毒を引き起こすおもな原因は「ノロウイルス」や「アニキサス」「カンピロバクター」といった強力な細菌類です。食中毒になると、通院・入院を余儀なくされ、症状が重ければ仕事や学校も長期にわたって休むことになるでしょう。
このコラムでは、飲食店などを利用して食中毒が発生した場合に、原因となった店舗などへ慰謝料請求は可能なのかについて、神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、食中毒の被害を理由に請求できるもの
レストランで食事をした、総菜屋で購入した弁当を食べたなどが原因となり腹痛や嘔吐(おうと)といった症状を起こした場合、食中毒が疑われます。
医療機関で検査を受ければすぐに原因となった細菌も判明しますが、風邪などが原因となった場合よりも症状が重いことが多く、回復までに時間がかかることもあるでしょう。
まずは、提供された料理が食中毒の原因であることが証明できた場合に、損害賠償請求できる可能性があるものを具体的に確認していきましょう。
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(1)入院・通院にかかる治療費
店側から提供を受けた食事が原因で食中毒にかかってしまい、医療機関での入院や通院を余儀なくされた場合は、入通院にかかった治療費を請求することができます。
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(2)交通費
入院・通院のために交通機関を利用した場合の交通費も同様です。
また、介添えの家族が運転する車の燃料代や駐車場代金も、入通院に必要な範囲内で請求が認められます。 -
(3)慰謝料
食中毒を起こしたのが飲食店や総菜屋・弁当屋などであれば、店舗に対して慰謝料の請求を考えることにもなるでしょう。
慰謝料とは、相手の不法行為によって被った精神的苦痛に対する賠償金を指します。
相手から「迷惑料」や「お見舞金」といった一時金が支払われることもありますが、これらを受け取ったからといって慰謝料が請求できないというわけではありません。食中毒の被害によって生じた精神的苦痛に対して、見合った金額を請求することが可能です。
症状が重篤で障害が残った、重篤な症状で死亡してしまったというケースでは、慰謝料が高額になることもあります。
また、症状が特に重篤で障害が残り、これまでの仕事ができなくなってしまった場合は、今後も働いていたとすれば手に入れることができたはずの「逸失利益」についても請求可能です。 -
(4)休業補償
食中毒の症状が重い場合、長期の休業を強いられるケースも珍しくありません。
会社を休んだ、経営している店舗を休業したといった損害が生じた場合は、休業した期間に応じた補償を請求できます。
請求に際しては、会社から「休業損害証明書」を作成してもらうことになります。 -
(5)請求するために必要なこと
ここまでで挙げた治療費・交通費・慰謝料・休業補償といった損害賠償請求が認められるためには、食中毒の発生が相手の不法行為、または債務不履行によることを証明する必要があります(民法第415条・第709条)。
つまり、食中毒の被害によって生じた損害について賠償をレストランや総菜屋等に求めるためには、提供された食事や弁当等と発生した食中毒との因果関係を証明するという高いハードルを越える必要があるのです。
そこで、食中毒の症状を発症してしまった消費者の損害賠償を手助けするのが「PL法」です。PL法に基づいて賠償を求めれば、不法行為や債務不履行責任に基づいて損害を請求する場合に比べて、店舗側の責任を追及し、賠償を実現できる可能性が高まるでしょう。
2、PL法(製造物責任法)とは
食中毒の被害に遭ってしまった場合は「PL法」に基づいた請求によって損害賠償請求が認められる可能性があります。
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(1)PL法の目的
PL法とは、正しくは「製造物責任法」といいます。
製造物の欠陥によって、人の生命・身体・財産にかかる被害が生じた場合における製造業者などの賠償責任について定めることで、被害者の保護と国民生活の安定向上、国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています(PL法1条)。
従来、民法における損害賠償を請求するためには、相手の「故意」または「過失」を立証する必要があるため、損害賠償の請求には高いハードルがありました。
PL法は、製造者の故意・過失に関係なくその名のとおり「製造物の責任」を製造者に課すことで、消費者保護を強化しています。 -
(2)ポイントは「製造物」の「欠陥」であること
PL法が適用されるのは「製造物の欠陥」によって生命・身体・財産にかかる被害が生じた場合です。
ここでいう製造物とは、「製造または加工された動産」をいいます。- 製造
部品または原材料に手を加えて新たな物品を作り出すこと - 加工
物品に手を加えてその本質を保持しつつ、これに新しい属性または価値を付加すること - 動産
不動産以外のすべての有体物
具体的には、家電製品やおもちゃ、加工食品などは広く「製造物」と判断されると考えられるでしょう。
一方で、有体物とはみなされないソフトウエア自体やサービス、製造・加工を経ることなく販売される魚・野菜などの生鮮食品、動産ではない不動産(土地建物など)は対象外です。
「欠陥」とは、その製造物が通常有すべき安全性を欠いている状態を指します。
欠陥は、一般的には次の3類型にわけられます。- 製造上の欠陥
製造・管理の工程に問題があり設計どおりに製造されず安全性を欠くこと - 設計上の欠陥
設計そのものに問題があり安全性を欠くこと - 警告上の欠陥
説明書や製品本体において使用上の警告、指示が不十分であるために安全性を欠くこと
- 製造
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(3)食中毒がPL法の対象となる条件
食中毒の被害がPL法によって保護されるのは「製造物の欠陥」によって食中毒が発生したのかどうかがポイントになります。
まず「製造物」としての条件に照らして考えてみましょう。
加工か未加工かについては、状況によって判断されると考えられますが、一般的にみるとレストランや食堂、総菜屋や弁当屋で提供された食品は原材料を調理したうえで提供されているので、加工があったものと判断されるでしょう。
一方で、単なる切断や冷蔵は加工にあたらないと考えられるため、スーパーなどで販売されている未加工の魚類や、農産物の直売所で販売されている野菜などは、製造物とはなりません。
次に「欠陥」を考えてみましょう。
食中毒を引き起こすのは、細菌類や食品そのものが持つ毒素などです。
食品は、人が食すという性質から無条件に安全性が求められるものであり、製造・加工の段階で細菌類や毒素などが混入することは製造上の欠陥があると判断されるでしょう。
ただし、十分な警告があったにもかかわらず消費者側が保管の方法を誤った場合、たとえば冷蔵保存が必要な弁当を常温で保管し時間が経過したうえで食したなどのケースでは、PL法は適用されません。
3、食中毒被害を店舗と交渉する際のポイント
食中毒の被害に遭い、レストランや総菜屋などに対して賠償を求めるためには、次に挙げるポイントに注目しましょう。
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(1)飲食したという事実を確保する
食中毒の被害を立証するには「その店舗で提供された食品を飲食した」ことの事実を確保しておく必要があります。
レシート・領収証・明細書などは必ず保管しておきましょう。
会計で電子決済を利用した場合は利用履歴などが役立つほか、会員証・ポイントカードなども証拠となり得る可能性があります。 -
(2)医師の診察を受ける
食中毒が疑われる場合は、必ず医師の診察を受けて原因を明らかにし、診断書を作成してもらいましょう。
食中毒を発症したのが少人数であれば、店舗側から「ほかの客は不調を訴えていない」など食中毒の原因が食事ではないなどと反論されてしまうおそれもあるので、医療機関における医師の診察・検査は必須です。 -
(3)保健所の判断を待つ
医師が食中毒を疑った場合は、食品衛生法第58条の規定に従って保健所へ届け出することが義務付けられています。届け出を受けた保健所は、飲食状況の調査や、同じ食品を口にした人への聞き取り調査などを実施します。
被害者が多数であれば集団訴訟に発展する可能性もあるので、医療機関を受診したあとは保健所の判断を待ってアクションを起こすべきかを検討しましょう。
4、食中毒被害に遭ったら弁護士に相談を
食中毒の被害に遭い、店舗側の責任を追及したい場合は、弁護士への相談をおすすめします。
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(1)損害額の算定
食中毒の症状を発症した場合、入通院にかかる治療費や交通費、慰謝料、休業補償などの請求が可能です。ただし、これらの請求は、実際にかかった費用や症状の程度に従って適切な金額でなければ店舗側も納得せず、解決までに長い時間を要することにもなるでしょう。
弁護士に相談すれば、さまざまな証拠をもとに適切な損害額を算定し、店舗側に請求することができます。算定が難しい慰謝料についても、弁護士であれば同じような事例に照らして適切な損害額が算定できるので、トラブルの早期解決が期待できます。 -
(2)店舗との交渉を一任できる
食中毒が発生してしまうと、飲食店や総菜屋・弁当屋などにとっては死活問題です。
大規模な被害がでていない場合は、食中毒の原因や責任が自らにあることを容易には認められず、交渉が難航することも予想されます。
弁護士にサポートを依頼すれば、代理人として店舗側との交渉を一任できます。弁護士が代理人としてたつことで、店舗側が交渉に応じ、誠実な対応を取ってくれる可能性が高まるでしょう。
5、まとめ
食中毒の症状が発症してしまうと、数日は仕事に行けない状態となり、症状が重篤なれば、長期の入院を強いられたり後遺症に悩まされたりする事態に発展する可能性もあります。
レストランや食堂などでの飲食、総菜屋や弁当屋などで購入した食品が原因だと疑われる場合は、直ちに医療機関を受診したうえで、弁護士に相談して店舗側への損害賠償請求を検討すると良いでしょう。
食中毒の被害にあってしまい、店舗へ治療費や慰謝料などを請求したいとお悩みのときは、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスへご相談ください。
さまざまな法律トラブルの解決実績が豊富な弁護士が、適切なアドバイスを伝えながら解決まで全面的にサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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