養育費の不払いを解決する方法はある? 請求方法と対策を解説
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2018年10月30日、兵庫県明石市がひとり親家庭に対し、不払いとなっている養育費を補填するモデル事業を開始することを発表しました。これは、市が委託した保証会社とひとり親家庭とで保証契約を結んでもらい、養育費が不払いとなったときに最大60万円がひとり親家庭に支払われるという制度です。
1、離婚後の養育費をめぐる現代の諸問題
養育費とは、扶養義務を負う者が、主として未成熟子(経済的に自立できていない子ども)等の被扶養者の衣食住・医療・教育等に要する費用を賄うために支払うべきお金のことです。特に、離婚後の養育費とは、扶養義務のある法律上の子の養育費として、親権又は監護権を有さない親が子に対して負担する義務のあるお金のことを言います。これは生活費や教育費、医療費などに充てるため使われるものですが、離婚後、十分な養育費を受けられていない子どもが非常に多いことが今、社会全体で問題となっています。
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(1)離婚しても両親には子どもを扶養する義務がある
両親は、離婚しても経済的にまだ自立していない子ども(未成熟子)を扶養する義務があります。養育費は子どもの生活に関わる重要なものです。そのため、別居したほうの親(非監護親)は、自らの生活レベルを落としても、子どもが自分と同等の生活水準を維持できるだけの金額を支払わなければならないと考えられています。
非監護親が養育費を支払うべき期間は、「子どもが20歳に達する日の属する月まで」と基本的には考えられていますが、実際は子どもの進路状況にも左右されるのが実情です。子どもが高校卒業後に就職する場合は「高校を卒業する年の3月まで」とすることもあれば、子どもが大学進学を希望する場合は、大学を卒業する年の3月まで」とすることもあります。 -
(2)離婚後の養育費を全く支払ってもらえない未成熟子も多い
しかし、離婚手続きの時に両親が養育費について協議をしなかったために、扶養義務のある非監護親から養育費を支払ってもらえない子どもも数多くいるのが実情です。厚生労働省が発表した平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告によれば、母子世帯で「養育費を受けたことがない」と答えた割合は56.0%でした。平成23年度の60.7%からはやや減ってはいるものの、依然として母子世帯の半数以上が養育費をはじめから受けていないことがわかります。
同調査によれば、母子世帯で養育費の取り決めをしていない理由は、「相手と関わりたくない」(31.4%)「相手に支払う能力がないと思った」(20.8%)「相手に支払う意思がないと思った」(17.8%)の3つが大きな割合を占めていました。 -
(3)養育費が途中で支払われなくなることも
また、離婚して間もない頃には養育費がきちんと支払われていたにもかかわらず、年月が経つにつれて催促しても支払われなくなるケースもあります。同調査では、母子世帯のうち「養育費を受けたことがある」と答えた割合が15.5%でした。そのため、養育費を受けたことがないと答えた世帯の割合(56.0%)と合わせると、母子世帯のおよそ70%以上が養育費を現在受けられていないことが見て取れるでしょう。
出典元:厚生労働省「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」 -
(4)面会交流ができていないことも養育費不払いの理由のひとつ
離婚後に非監護親との住まいが遠く離れてしまった、監護親が子どもを非監護親に会わせたくない等の理由から、離婚後の面会交流がうまくできていないケースもめずらしくありません。
非監護親と子どもとの交流が途絶えてしまうと、親子関係が希薄になり、非監護親の親としての責任感まで薄れてしまう傾向があります。そのため、面会交流ができていないこことも、養育費が次第に支払われなくなる大きな理由のひとつであると考えられます。
2、養育費の請求方法
不払いとなった養育費を請求する際は、離婚時に養育費の金額や支払期日について、どのような形で取り決めを行っていたかによって取りうる手段が異なります。調停調書などの債務名義があれば請求は比較的しやすいものの、協議のみで取り決めを行っており、かつ書面に合意内容を残していない場合は、後日の請求が困難になることが予想されます。
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(1)口約束しかしていなかった場合
離婚協議を行ったときに養育費について口約束で決めていた場合は、証拠が残っていないので相手に支払わせることが非常に困難です。「あのとき毎月○万円支払うと言っていたはず」と言っても、相手方が「覚えていない」「そんなことは忘れた」などと主張する可能性があるからです。口約束しかしていなかった場合は、まず内容証明郵便を送って任意交渉を試み、相手が応じなければ家庭裁判所に養育費請求調停や審判を申し立てることになります。
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(2)合意書などの公正証書がある場合
離婚協議後に離婚協議書や合意書を作成し、それを公正証書にしていた場合は、その公正証書を債務名義として相手方の給与や財産に対して強制執行を行うことができます。ただし、強制力を持たせるにはその公正証書を「強制執行認諾文言付き公正証書」にする必要があります。
「強制執行認諾文言」とは、「もし公正証書で約束したことが守られない場合は、強制執行をされても異議を唱えない」ということを約す文言のことです。この文言がついている公正証書であれば、裁判をせずに強制執行を行うことができるのです。
公正証書でない合意書を作成していた場合、一定の効力を有しますが、公正証書とは異なり、調停・審判を経ない限り、強制執行を行うことはできません。しかし、口約束しかない場合とは異なり、養育費支払いの合意に関する有力な証拠となりますので、家庭裁判所に調停・審判を申し立てるべきです。 -
(3)調停や裁判をした場合
離婚時に離婚調停や離婚裁判をして養育費の金額を決定していた場合は、調停調書や審判書、和解調書などがあるはずです。この場合は、裁判所に履行勧告や履行命令の手続きを行うことで、養育費を支払わない相手方に対して約束通りに養育費を支払うよう相手方に勧告・命令をしてもらうことができます。
ただし、履行勧告には強制力はありません。履行命令も、相手方が裁判所の命令に背いた場合は10万円以下の過料が課せられるものの、さらに養育費の支払いまで強制されるようなことはありません。そのため、調停調書や審判書などがあっても、裁判所を通した強制執行が必要になるケースも少なくありません。
3、相手が経済的に支払えない場合、どうすればいい?
離婚後しばらく経ってから、相手方に何らかの事情が生じて予定していた養育費が支払えなくなることも考えられます。その場合、「ない袖は振れぬ」という言葉もあるように、強制執行をしても支払いが期待できない可能性もあります。強制執行などをしても、相手がどうしても支払えないこともあります。その場合はどうすればよいのでしょうか。
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(1)相手方の経済的な事情が変わることがある
離婚した相手がずっとこの先何十年も離婚時の経済力を維持できるとは限りません。不慮の事故や思わぬ病気・けがで長期入院を余儀なくされたり、リストラに遭ったりして働けなくなることもあるかもしれません。また、数年後に別の誰かと再婚して新たに子どもを授かり、妻子を養わなければならなくなる可能性もゼロではないでしょう。そのような変化があれば、当然経済力にも変化が生じ、子どもの養育費が払えない状況になることがあります。
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(2)「住宅ローンは払っている」と言ってきた場合
離婚前からローンの残っている持ち家に妻子が住んでおり、前夫がローンの支払いを続けている場合、「住宅ローンは払ってやっているだろう」と前夫が主張して養育費が不払いになるケースもあります。
しかし、住宅ローンを支払っていることは、養育費の金額を算定する際の考慮要素にはなりますが、それだけで養育費の支払を免れることができるとは限りません。養育費は子どもの医療費や学費などを含め子どもの生活すべてに関わるものなので、前夫は住宅ローンを支払っているとしても、養育費を支払わなければならない場合があります。 -
(3)減額に応じざるを得ないことも
相手方が経済状況の変化によってどうしても支払えなくなった場合は、相手方が家庭裁判所に対して養育費減額請求の調停を申し立ててくることが考えられます。もし、相手方の収入が本当に下がった、相手方が再婚して新たに扶養義務のある子が増えた、自分の方が再婚して伴侶が子どもを養子にし、扶養してもらっている等の事情がある場合は、減額に応じざるを得ないかもしれません。しかし、それだけで必ず減額に応じなければならないわけではなく、最終的に裁判所が双方の家庭の事情や経済状況を考慮に入れて減額の可否を判断することになります。
4、養育費の不払いについて弁護士に相談するメリット
養育費が不払いになったときには、まずは弁護士に相談するのがベストです。弁護士であれば、どのような解決策が取れるのかを一緒に考えてもらえるからです。
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(1)状況に合わせて最適な解決方法を考案してもらえる
養育費の不払いを弁護士に相談した場合、まず弁護士が依頼者の状況についてヒアリングを行います。離婚時に養育費について話し合ったかどうか、話し合ったとすればどのような結論になったのか、合意書は作成したか、合意書を公正証書にしたかなど様々なことを確認します。協議離婚をしたときに合意書を作成したか、調停離婚や裁判離婚を利用したかどうかなどで、取りうる手段が異なってくるためです。弁護士は状況を把握した上で、過去の事例を参照しながら依頼者にとってベストな方法を考案します。
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(2)相手が養育費の支払いに応じる可能性が高くなる
養育費の支払いをするよう、自力で相手方と交渉をしようとしても、なかなか交渉に応じてもらえなかったり無視されたりする可能性もあります。しかし、弁護士の名前で内容証明郵便を送れば、相手方も無視はできなくなると感じて、養育費の支払いに応じる可能性が高くなるでしょう。
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(3)養育費の適切な金額がわかる
養育費について離婚時に取り決めていても、過度に低い金額で妥結してしまっている場合もあります。弁護士に相談すれば、様々な事情を考慮に入れて養育費の適切な金額を教えてもらうことができます。もし受け取っている養育費の金額が低すぎる場合は、「父母間の合意は斟酌すべき事由の1つとなるにすぎず、後日(親権者が代理人となって)子ども自身から扶養料を請求することは認められる」とする裁判例もあります。(仙台高決昭和56年8月24日家月35巻2号145頁)
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(4)有利な形で問題解決ができる可能性が高くなる
弁護士に依頼すれば、任意交渉だけでなく法的手段を取ることも可能です。そのため、将来また養育費の不払いがあったとしても支払いが確保できる可能性が高くなります。さらに、相手方がどうしても養育費の支払いに応じない場合は、弁護士が依頼者の代理人となって強制執行の手続きを行えば、養育費を得られる確実性を増すこともできます。そのため、依頼者にとって有利な形で問題解決ができると言えるでしょう。
5、まとめ
たとえ離婚したとしても、両親には子どもを扶養する義務が残ります。しかし、養育費の支払い義務者となることが多い父親が養育費をずっと支払い続けているケースは残念ながら少なく、多くの母子世帯が困窮した暮らしを送っていると言われています。
一度不払いになった養育費を相手方に再度支払ってもらうようにするには、個人の力では限界があります。ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスでは、養育費が支払われなくなって困っていらっしゃる親子の相談にも応じております。養育費をはじめとする離婚に関する法律相談は初回60分間無料です。小さなお子様連れの方も歓迎しておりますので、養育費についてお困りの方はベリーベスト法律事務所 神戸オフィスまでお気軽にご来所の上、ご相談ください。
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