子どもを連れ去った!? ハーグ条約に基づく返還請求を拒否できる?
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古くから外国ともつながりが深い神戸では、国際結婚をする方や海外に移住する方も少なくないでしょう。しかし、結婚生活がうまくいかず、配偶者と離婚することになった場合や別居する場合に、相手に黙って子どもを連れて日本に帰ってきてしまうと、思わぬトラブルになることがあるので注意が必要です。
なぜなら、日本はハーグ条約の締約国であるため、条約に基づいて子どもの返還請求を受ける可能性があるのです。返還請求を受けた場合、子どもを引き渡さずに済む方法はあるのでしょうか。
本コラムでは、ハーグ条約の概要と、ハーグ条約に基づく子どもの返還請求がなされた場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、ハーグ条約とは
ハーグ条約は、どのようなことを定めているのでしょうか。まずは、ハーグ条約の基本的な内容を理解しておきましょう。
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(1)ハーグ条約とは
ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)は、国境を越えた子どもの不法な連れ去りや留置をめぐる紛争に対する、国際的な枠組みを定めた条約です。
締結国間で、父母の一方などによって国境を越えて「不法な連れ去り」や「留置」があった場合、子どもを元居住国に返還する手続きを行うとともに、国境を越えた面会交流を促進することを実現するために定められました。
ここでいう、「不法な連れ去り」とは、一方の親の同意を得ず監護権を侵害した状況で、外国へ連れ出すことを指します。また、「留置」とは、元々は期限付きで国外に連れ出したものの、約束の期日を過ぎても子どもを元の国に戻さないことです。留置の場合、たとえ国外に連れ出すことについて一方の親の同意があったとしても、期日までに戻らなければ留置として扱われます。
そして、それぞれの締約国で指定された中央当局が相互に協力し、子どもの返還や面会交流実現のための援助を実施します。 -
(2)ハーグ条約の基本的な考え方
ハーグ条約の基本的な考え方は、「子どもの利益を最優先に考える」というものです。
国境を越えた連れ去りや留置によって、子どもは、これまで築いてきた友人関係や学校などとの関係が断ち切られ、新たな言語や文化や環境に適応することが求められる状況になります。
そのためハーグ条約では、そのような過酷な状況から子どもを守るために、子どもを元の居住国に返還することを原則とし、元の居住国で紛争を解決すべきとしています。
しかし、返還すれば子どもが心身に害悪を受けることとなる重大な危険があると認められた場合などには、子どもの利益を考え例外的に返還されないこととしています。 -
(3)日本におけるハーグ条約の実施
日本では平成26年4月1日にハーグ条約が発効され、子どもの返還申請などの担当窓口になる日本の中央当局は外務省が担うこととされました。
また同日、ハーグ条約の実施に必要な国内手続きなどを定める日本国内の法律「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(以下、「実施法」とします)も施行されました。
2、返還請求はどのように進められる?
日本の外務省に子どもの返還援助の申請がなされた時は、主に次のような流れで手続きが進みます。
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(1)子どもの所在特定
返還援助の申請対象である子どもや、その同居者の居場所が分からない時は、外務省は国の行政機関や地方公共団体などの協力を得て、子どもの所在を調査します。
また援助を決定するか、申請を却下するかを判断します。
なお、実施法では、次のいずれかに該当する場合は、申請を却下すると定めています。- 子どもが16歳に達している場合
- 子どもが日本にいないことが明らかで、どの国や地域にいるかが分からない場合
- 子どもが締約国以外の国や地域にいることが明らかな場合
- 申請者と子どもが同じ締約国内にいることが明らかである場合
- 子どもの連れ去りや留置の開始時に子どもの元居住国や日本が条約締約国でなかった場合
- 申請者が子どもの元居住国において監護権を有しないことが明らかであり、連れ去りや留置が申請者の監護権を侵害していないことが明らかな場合
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(2)当事者間での話し合い
当事者が協議のあっせんの支援などを希望する時は、外務省は当事者間の連絡の仲介や裁判外紛争解決手続き(ADR)機関の紹介などを行います。
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(3)裁判所を利用した解決
東京家庭裁判所または大阪家庭裁判所に、子どもの返還を求める調停や裁判を提起します。ADRでは当事者の合意で解決を図りますが、裁判では裁判官が言い渡す決定によって子どもの返還の可否が決まります。
返還の決定が出された場合、子どもの返還に応じなければ強制執行の手続きが取られる可能性もあるでしょう。
なお、申請者は子どもを国外へ連れ出すことを防止する目的として、子供の出国禁止命令や旅券提出命令の申し立てを行うことができます。
3、どのような場合に返還拒否が認められる可能性がある?
裁判において返還拒否を認めてもらうには、実施法の返還拒否事由に該当することを主張することになります。実施法で定める返還拒否事由は、次の6つです(実施法 第28条)。
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(1)6つの返還拒否事由
●1年が経過しており子どもが環境に適応している
連れ去りから1年以上経過した後に返還命令の申し立てをされた場合で、子どもが新たな環境に適応していることを証明できる。
●監護権を行使しなかった
連れ去りや留意時に、申立人が子どもと生活を共にし、教育などを行う権利(監護権)を行使していなかった場合。
●連れ去りに同意している
連れ去りや留意に対して、申立人が同意していた場合や、事後的にでも承諾していた場合。
●子どもの心身に害悪を及ぼし耐え難い状況におく重大な危険がある
具体的事情やその他一切の事情を考慮した上で、重大な危険があると判断された場合。
●子どもが拒否している
子どもの年齢や発達の程度にもよるものの、子どもの意見を考慮することが適当だと判断された場合。
●基本原則によって認められない場合
人権や基本的自由は、いかなる場合にも保護されなければならない基本原則に沿い、子どもの返還が認められないといえるケース。 -
(2)「重大な危険」に該当するケース
どのようなケースが「子どもの心身に害悪を及ぼし耐え難い状況におく重大な危険がある」かについては、実施法で次のように定めています。
- ①子どもが申立人から暴力などを受けるおそれがある
- ②相手方が申立人から子どもに心的外傷を与えるような暴力などを受けるおそれがある
- ③申立人や相手方が返還先の国で子どもを監護することが困難な事情がある
③の具体的な例としては、申立人が薬物中毒やアルコール依存症であるようなケースが想定されます。また、現在子ども共にいる父母の一方が、返還先の国に戻れば逮捕・刑事訴追されるおそれがある時や、適法な滞在資格を得られないおそれがある時などには、返還を拒否できます。
4、返還請求を受けた時は弁護士に相談を
ハーグ条約に基づく、子どもの返還請求の問題を解決するためには、日本国内の法律だけでなく条約の知識や理解も必要です。そのためご自身だけで悩むことなく、早期に弁護士に相談されるとよいでしょう。
弁護士はご相談者の代理人として、返還請求を申し立てている相手方と交渉することもできます。子どもの連れ去りは、結婚生活におけるトラブルや離婚が発端となるケースが多いため、当事者間では感情的になってしまい、冷静な話し合いや判断をすることが難しいことも少なくありません。弁護士が交渉行うことで、冷静に話し合いを進めることができるだけではなく、可能な限り納得できる内容で早期に解決できる可能性も高まります。
また、家庭裁判所の調停や裁判になった場合、弁護士は裁判所に認められやすい主張や証拠を熟知しているので、心強い存在になることでしょう。
5、まとめ
本コラムでは、子どもを連れ去ったとして、ハーグ条約に基づく返還請求がなされた場合の対処法について解説しました。
裁判になった時は、ハーグ条約の返還拒否事由に該当することを主張・証明していくことで返還拒否できる可能性が高くなるため、適切に対応することが重要です。
ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスは、国際離婚にまつわるご相談もお受けしています。ご相談者の方のお話を丁寧にうかがい、解決まで全力でサポートします。おひとりで悩まず、ぜひご相談ください。
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