相続手続きに時効はある? 相続人が知っておくべき相続にまつわる期限
- 遺産を受け取る方
- 相続
- 時効
国税庁が公表している資料によると、平成30年には、兵庫県内で亡くなった方の9.2%にあたる5306人の相続に際し、相続税の申告が行われたとされています。
このように、相続が発生すると相続税を始めとした、さまざまな手続きや申告が必要になりますが、その中には期限や時効が定められているものがあります。相続人になる予定の方や相続人になった方は、これらの手続きについては特にしっかりと押さえておくことが大切です。
本コラムでは、相続手続きの期限や時効について、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、遺産相続の主な手続きの流れ
被相続人が亡くなると、死亡届の提出や年金受給停止手続きなど、さまざまな手続きが必要になります。その中で遺産相続に関する主な手続きは、次のような流れで進められます。
-
(1)相続人および相続財産の調査・確定と遺言書の有無
まずは、相続人が誰になるのかを調査をする必要があります。調査は通常、戸籍謄本や改正原戸籍謄本などを取り寄せて確認します。戸籍によって、非嫡出子や養子の有無なども分かるでしょう。
また対象財産を特定するために、被相続人がどのような財産を持っていたのかを調査する必要があります。相続財産には、現金や預貯金、不動産、有価証券などのほか、借金などのマイナスの財産も含まれます。財産の調査を行って、相続財産を確定させていきます。
なお、この段階で、遺言書の有無についても確認しておきます。 -
(2)相続するかの判断
相続人および相続財産が確定した後、それぞれの相続人が相続をするかどうかについて判断する必要があります(単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選択)。相続放棄と限定承認には期限が設定されており、期限を過ぎてしまえば相続を承認することになってしまうので、慎重に判断する必要があります。
-
(3)遺産分割協議を行う
相続財産、相続人が確定した後、相続人全員で遺産の具体的な分配方法を決める遺産分割協議を行います。協議が成立すれば、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印で押印します。
なお、協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てて解決を図ることができます。 -
(4)相続税を申告する
相続人が取得する財産が基礎控除額を超えるときには、相続税の申告と納付が必要になります。基礎控除額は、3000万円+(600万円×法定相続人の人数)で計算することができます。
遺産分割協議が成立していなくても、相続税の申告・納付は期限内に行わなければなりません。 -
(5)相続財産の名義を変更する
相続財産を取得した相続人は、被相続人名義になっている財産の名義を変更する手続きを行わなければなりません。預貯金などであれば金融機関で変更手続きを行いますが、不動産であれば、法務局に申請して名義等を変更する手続きを行います。
2、相続開始後「1年以内」に時効や期限がある手続き
では時効や期限のある相続手続きについて、期限ごとにみていきましょう。
まず相続開始後「1年以内」に訪れる時効や期限です。
-
(1)3か月(相続放棄・限定承認)
相続財産や相続人の調査が終わると、相続人になる方は相続を「承認するのか」、「限定的に承認するのか」、「放棄するのか」を決めなければなりません。この決断は、基本的に「相続開始を知ったときから3か月以内」に行う必要があります。
なぜなら、相続放棄または限定承認は、「相続開始を知ったときから3か月以内」に家庭裁判所に申述して行わなければならないとされているためです。そしてこの期間が経過すれば単純承認がなされたものとして扱われてしまいます。
借金といったマイナスの財産がある場合は、相続するかの判断は非常に重要といえます。
なお、相続財産の状況を調査するのに時間がかかる場合などは、3か月以内という期間について、家庭裁判所に対して伸長を求めることができます。家庭裁判所は、裁量によって伸長期間を定めます。 -
(2)4か月(被相続人の所得税の申告・納税)
被相続人が死亡した年の1月1日から死亡日までの所得を計算し、納付するべき所得税がある場合は相続人が代わって確定申告を行う必要があります。
これを「準確定申告」といい、「相続開始があったことを知った日」から「4か月以内」に申告・納税を行わなければならないとされています。 -
(3)10か月(相続税の申告・納税)
遺産の総額が相続税の基礎控除額を超えるときは、相続税の申告と納付を行わなければなりません。
申告と納付は、「被相続人の死亡した翌日から10か月以内」に行う必要があります。 -
(4)1年(遺留分侵害額請求)
兄弟姉妹を除く法定相続人に保障されている最低限の遺産取得分(遺留分)を有する相続人は、遺留分を侵害する遺贈の受遺者などに対して「遺留分侵害額請求権」を行使することができます。遺留分侵害額請求が認められると、侵害されている遺留分相当額を遺留分権利者は受け取ることができます。
しかし、遺留分侵害額請求権には時効があります。基本的に「相続が開始したことを知ったとき」および「遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったとき」から「1年」です。
また相続開始や遺留分を侵害する遺贈などがあったことを知らなかった場合は、「10年」で権利は消滅します。
3、相続開始後「5年以降」に時効や期限がある手続き
つづいて、相続開始から1年を経過した後に時効や期限が訪れる手続きについてみていきます。
-
(1)5年(相続回復請求権・相続税の納付義務(善意))
相続回復請求権とは、本当の相続人ではない人が、相続人として遺産を管理・処分してしまった場合に、本来の相続人が遺産を取り戻すことができる権利です。
相続回復請求権の時効は「相続権の侵害があったことを知ったとき」から「5年」、または相続開始から「20年」の期間の経過によって消滅します。
相続税の納付義務は、税務書から通知などが届いておらず、納付義務があることにも気が付いていないような場合(善意)、申告書の提出期限から「5年」の経過によって消滅するものとされています。 -
(2)7年(相続税の納付義務(悪意))
前述したように、相続税の納付義務があることを知らなかった場合(善意)には、相続税の納付義務は5年経過により消滅します。しかし納付義務があることを分かっていながら支払わなかった場合(悪意)は、「7年」の経過によって消滅することとされています。
4、時効・期限が設けられていない手続き
相続手続きには、特に時効や期限が設けられていないものもあります。代表的なものとして「遺産分割」や「不動産の相続登記」がありますが、どちらも将来的には期限などが設けられる可能性はあります。
-
(1)遺産分割協議
遺産分割協議は、法律上、期間の制約はありません。また、遺産分割請求権にも、時効は定められていません。しかし、相続税の申告・納付には期限があるため、その期限内に遺産分割をしておくことがのぞましいといえます。
なお、令和2年6月に実施された「法制審議会 民法・不動産登記法部会」の資料によると、一定期間が経過した後の遺産分割について規律を設けるべきかが検討されたとしています。
このような動きがある点から、遺産分割協議の期限や時効については、今後期限が定められる可能性もあるため、最新の情報を確認しておくと良いでしょう。 -
(2)不動産の名義変更
不動産を相続した相続人は、対象の不動産について所有権の移転の登記を申請して名義を変更することになりますが、現時点では相続登記は義務でなく、申請期限も設けられていません。
しかし、令和1年7月1日に施行された改正民法によって、名義を変更しなければ、自分の権利を第三者に主張することができなくなりました。そのため、期間の定めに関係なく、相続発生後は速やかに名義変更をするべきでしょう。
5、相続問題は弁護士に相談を
期限や時効に注意して相続手続きを行うことは、非常に重要です。
しかし、相続が開始すれば、葬儀や法事の準備、市区町村への届け出など、さまざまな手続きが必要になります。そのような中で期限を意識しながら相続手続きを進めるのは、簡単なことではありません。
また、相続手続きにおいては、「遺産分割協議で相続人同士の意見がまとまらない」、「相続財産や相続人の調査が進まない」などといったトラブルが生じることも少なくありません。
そのため、相続に関しては、なるべく早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、法的な手続きに関して適切なサポートを行えるのはもちろんのこと、代理人として関係者と協議を行うことも可能です。
6、まとめ
本コラムでは、相続の流れを確認しながら、相続手続きの期限や時効について解説しました。
相続は、手続きが煩雑なだけではなく、お金や感情が絡むため、想定もしないようなトラブルに発展するケースも少なくありません。相続にまつわる物理的・精神的負担を軽減して、スムーズに相続をすすめるためにも、弁護士のサポートを得ることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスでは、相続問題をワンストップで解決できるように税理士などとも連携しながらご相談者の方を全力でサポートします。
お一人で悩むことなく、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています