相続における熟慮期間とは? 延長は認められる? とるべき対応を解説
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裁判所の司法統計によると、平成30年度に神戸家庭裁判所では10434件の相続放棄と33件の限定承認の申述が受理されています。
相続においては「熟慮期間(じゅくりょきかん)」というものがあり、基本的にこの期間内に相続放棄や限定承認の申述を家庭裁判所に行う必要があります。
熟慮期間に何も決めないで放置してしまったがために、被相続人の借金を背負ってしまった、などという事態が起きる可能性があるので、熟慮期間中の行動が重要になります。
本コラムでは、相続の熟慮期間の概要と、その期間内にとるべき行動についてベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説していきます。
1、熟慮期間の概要
早速、相続における熟慮期間についてみていきましょう。
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(1)熟慮期間とは
被相続人が死亡すると、相続人は財産を受け継ぐことになります。
相続財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。そのため、「相続財産を調査したらマイナスの財産の方が多かった」「調査しきれなかった借金があった」といった事態も起こり得ます。
そういった問題に対応するため、相続放棄や限定承認といった、相続人の意思で財産を受け継がないようにできる手続きが用意されています。
ただし、いつまでも「相続人が相続放棄などをするかどうかが分からない」という状態では、相続人に請求をできる方が、いつになれば請求をできるのかがわからないという不安定な状況に置かれてしまうので、好ましくありません。したがって、相続放棄や限定承認ができる期間が限定されており、この期間を「熟慮期間」といいます。相続放棄や限定承認は、熟慮期間内に家庭裁判所にその旨を申述して行わなければなりません。 -
(2)熟慮期間は3か月が原則
熟慮期間は、原則として下記のように定められています。
自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内
「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは、「被相続人が亡くなったこと」および「それにより自分が相続人になったこと」を知ったときを意味しています。
なお、相続人が未成年者や成年被後見人であるときには、法定代理人(親権者・成年後見人)が相続開始を知ったときから3か月以内が、熟慮期間になります。 -
(3)熟慮期間の延長可否
相続財産の権利関係などが複雑であったり、財産が遠隔地に点在していたりするケースでは、相続財産の調査に時間がかかることもあります。
このような場合には、家庭裁判所に「相続の承認または放棄の期間の伸長」を、戸籍謄本などの必要書類を添付して申し立てるとよいでしょう。申し立ては相続人だけでなく、利害関係人や検察官も行うことができます。
ただし、申し立ては熟慮期間内である「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に行わなければなりません。
期間伸長の申し立ての結果、伸長を認める審判が得られたときには熟慮期間を延長できます。なお、申し立てを却下された場合、申立人は裁判所に即時抗告という不服申し立てをすることが可能です。
いずれにしても、相続財産調査などに時間がかかることが予想されるときは、早急に家庭裁判所に期間伸長の申し立てをするなど行動を起こすことが大切です。
2、熟慮期間には何を決める?
相続人となる方は、熟慮期間中には被相続人の相続財産を調査して、次の3つのいずれかを選択する必要があります。
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(1)単純承認
単純承認とは、被相続人のプラスの相続財産もマイナスの相続財産もすべて相続することです。
単純承認をするための特別な方式はなく、熟慮期間中に相続放棄や限定承認の申述をしなければ自動的に単純承認したとみなされます。
マイナスの相続財産が多いケースでは、熟慮期間中に何も行動しなければ相続人が借金を背負うリスクがあるので、財産調査は慎重に行うべきといえます。
また、熟慮期間中に相続財産を処分したときは、単純承認したとみなされるので注意が必要です。 -
(2)限定承認
限定承認とは、相続人はプラスの相続財産の範囲でのみ被相続人の借金を返済すればよいとするものです。
相続財産を調査してもプラスの相続財産とマイナスの相続財産のどちらが多いか分からないようなときなどに、限定承認が選択されます。
限定承認は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述して行います。
ただし限定承認をするときは相続人全員で行う必要があり、実際に申述される件数もあまり多くありません。 -
(3)相続放棄
相続放棄とは、プラスの相続財産もマイナスの相続財産も、すべてを相続しない方法です。
マイナスの相続財産が多く特に相続すべきプラスの相続財産がないようなときには、相続放棄を選択するべきです。相続放棄は限定承認と同様に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述して行います。
相続放棄は相続人全員で行う必要はありませんが、やり直しはできません。たとえば、プラスの相続財産が多かったことが相続放棄後に判明しても、相続することはできないので注意が必要です。
なお、相続放棄者はそもそも相続人でなかったことになるため、代襲者が相続人になることもありません。次の順位の法定相続人が相続人になります。
たとえば、「被相続人A」の相続人が「妻B」と「子どもC」であったと仮定します。
子どもCが相続放棄をすれば、次の相続順位である被相続人Aの父母などが、妻Bとともに相続人になります。
なお、前の順位の相続人が相続放棄をしたことによって相続人になった場合の熟慮期間は、相続放棄したことを知った日から3か月です。
3、熟慮期間が経過するとどうなる?
何ら手続きをしないまま熟慮期間中が経過してしまったときは、どうなるのでしょうか?
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(1)基本的には単純承認とみなされる
単純承認に関する解説でも触れたように、熟慮期間中に何の行動もとらなければ単純承認をしたものとみなされます。
そのため、熟慮期間経過後に被相続人の借金が判明したときでも、基本的に相続人は返済義務を負うものとされます。また、被相続人を連帯保証人とする契約があったときは、相続人が連帯保証人の地位を受け継ぐことになります。 -
(2)例外的な熟慮期間の延長
熟慮期間は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」とされます。つまり熟慮期間の起算点は、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」が原則です。
しかし被相続人の債権者は、相続人が返済義務を負う熟慮期間経過後に借金の存在を明らかにして返済を迫ることも可能といえます。そのため例外的に次にあげるような一定の事情のもとでは、熟慮期間の起算点を考慮する取り扱いが行われています。熟慮期間中に相続放棄などをしなかったことが被相続人に相続財産が全くないと信じたためであり、相続人に対して、相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人が被相続人に相続財産が全くないと信じるについて相当の理由があると認められるとき
たとえば、最初は存在を知らなかった被相続人の借金が、後に発覚したものの上記ケースに当てはまるような場合は、熟慮期間の起算点は「借金を含む相続財産の全部または一部の存在を認識したとき」とされます。
しかし、熟慮期間の起算点について、借金を知った時点であると裁判所に判断してもらえるかどうかは、それぞれのケースの個別具体的な状況によって異なります。まずは弁護士に相談し、どのような対応がとれるのかを相談するのが得策でしょう。
このように、相続財産をしっかりと調査していないことで、思いもよらないトラブルに発展することも少なくありません。そこで、相続が発生した時点で弁護士へ相談し、原則の熟慮期間内に相続財産の調査と相続方法の選択を行うようにすることが重要です。
4、相続問題を弁護士に相談するメリットとは
相続問題を弁護士に相談すると、最小限の手間や時間で解決することが期待できるのは、大きなメリットといえます。
具体的には、相続財産や相続人の調査、相続放棄の手続きなどを、弁護士に一任することが可能です。また、複数の相続人がいる場合は、遺産分割を行う必要もありますが、弁護士は遺産分割協議書の作成や遺産分割に関するアドバイスもできます。
その他、ご相談者様の権利を確実に守り、相続問題の解決を円滑に進めることができるメリットもあります。
相続は金銭が絡むため、ただでさえトラブルが起きやすいといえます。そのうえ親族間で話し合わなければいけないので、立場によっては主張がしにくいケースや、それぞれの主張がまとまらず、いさかいが起こることもあるでしょう。弁護士であれば、ご相談者の代理人として他の相続人と交渉することができます。第三者である弁護士が交渉することで、円滑に解決することも少なくありません。
弁護士は法律に関する専門家ですから、法的知見をもとに、可能な限りご相談者の権利を守ることができるよう対応することができるので、非常に心強いでしょう。
5、まとめ
相続の熟慮期間は、「被相続人が亡くなったこと」および「それにより自分が相続人になったこと」を知ったときから3か月以内です。この期間内に被相続人の相続財産の調査を行い、相続人となる方は相続するかどうかを決めなければなりません。
親族が亡くなった直後という気持ちが落ち着かない中で、さまざまな手続きや対応が必要になります。そのような状況で相続のあれこれを確認し、法に準じた対応をするのは大きな負担になるでしょう。
ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士は、少しでもご負担を軽くするために全力でサポートしスムーズな解決につながるよう尽力します。
相続に関するお悩みがある方や、トラブルを抱えている方は、ぜひご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています