普通解雇と懲戒解雇の違いとは? 企業が知っておくべきトラブル回避法
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神戸市を管轄している厚生労働省 兵庫労働局は、令和元年度における個別労働紛争解決制度の施行状況を発表しています。その資料によると、民事上の個別労働紛争の相談件数は、1万3906件あり、そのうち懲戒処分に関する相談が257件、解雇に関する相談が1546件ありました。
社員による横領などの不正行為があった場合には、懲戒処分としての懲戒解雇を検討する会社もあるでしょう。懲戒解雇は、懲戒処分のなかでももっとも重い処分にあたりますので、慎重に判断しなければ、労働者から懲戒解雇の無効を主張され、訴訟トラブルに発展する等のリスクもあります。
今回は、普通解雇と懲戒解雇の違いと、社員を解雇する場合に会社が知っておくべきトラブル回避法などについて、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、解雇とは
会社が労働者を解雇しようとするときには、どのような解雇をするかを選択しなければなりません。解雇には、大きく分けて懲戒解雇と普通解雇の2種類があり、普通解雇にはさらに整理解雇と労働者に原因がある普通解雇があってそれぞれ考慮すべき要素が異なってきます。以下、懲戒解雇、整理解雇、労働者に原因がある普通解雇の3つに分けてご説明します。
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(1)懲戒解雇
懲戒解雇とは、労働者が悪質な非違行為(非行や違法行為のこと)を行った場合や、重大な規律違反があった場合になされる解雇のことです。懲戒処分には、会社によって定め方が異なりますが、一般的には軽いものから順に、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇(諭旨退職)、懲戒解雇があり、懲戒解雇は懲戒処分のなかで、もっとも重い処分として行われるものです。
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(2)整理解雇
懲戒解雇以外の解雇を普通解雇といい、その中でも特に会社が経営悪化などの経営上の理由から行う普通解雇のことを整理解雇といいます。
整理解雇は、労働者側に落ち度があることを理由とするものではなく、会社側の一方的な都合で行う解雇です。そのため、解雇の有効性については、労働者保護の立場から以下の4つの要件によって厳格に判断されます。- 人員削減の必要があること
経営が大きく悪化している等、人員削減措置が企業経営上、十分な必要性に基づいていること、またはやむを得ない措置といえること。 - 解雇回避努力が尽くされていること
解雇以外の雇用調整手段(賃金カット、残業削減、一時休業、配転、出向、希望退職者募集など)や経費削減手段(役員報酬カットなど)で、解雇を回避するための努力をできる限り行ったこと。 - 人選の合理性があること
客観的に合理的な選定基準を定めて(勤務成績、勤務態度、家族構成、勤続年数など)、その選定基準を適切に運用し、解雇対象者を選定していること。 - 適切な手続きが行われていること
使用者が、労働者または労働組合に対して、整理解雇の必要性や整理解雇の内容について説明を行い、真摯(しんし)に協議をしたこと。
- 人員削減の必要があること
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(3)労働者に原因がある普通解雇
労働者に原因がある普通解雇は、労働契約を継続していくことが困難となる事情があったときに、使用者から一方的に労働者との労働契約を解除するものです。具体的には、労働者の勤務成績や態度が悪く、改善の見込みがないような場合に行われる解雇がこれに当たります。
2、懲戒解雇と労働者に原因がある普通解雇の特徴と違い
懲戒解雇も労働者に原因がある普通解雇も、労働者に落ち度があることを理由として労働契約を終了させる処分ですが、それぞれ異なる特徴があります。以下では、懲戒解雇と労働者に原因がある普通解雇の違いについて説明します。
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(1)解雇の性質の違い
懲戒解雇は、労働契約の一方的な解約であるとともに、労働者の企業秩序違反行為に対する制裁としての性質を有します。
他方、労働者に原因がある普通解雇は、労働者が労働契約の債務不履行状態にあることをとらえて労働契約を終了させるものであり、法律上は制裁としての性質を有していません。
このように、懲戒解雇と労働者に原因がある普通解雇は、“制裁”という性質を有しているかどうかの違いがあります。 -
(2)解雇予告の違い
解雇をする場合、会社は労働者に対して、解雇日の30日前までに解雇予告をする必要があります。もし、30日前までに解雇予告をしない場合には、30日に不足する日数に対応した平均賃金を支払う必要があります。これを「解雇予告手当」といいます。これは、労働者に原因がある普通解雇であっても、懲戒解雇であっても変わりません。
ただし、懲戒解雇の場合は、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合で労基署の認定を受けた場合」に該当する可能性があります。この場合、解雇予告ならびに解雇予告手当の支払いは不要となります。 -
(3)退職金の違い
退職金制度がある会社の場合、普通解雇であれば、就業規則などの退職金規定通りに退職金を支払うのが一般的です。
これに対して、懲戒解雇の場合には、退職金規定などで「懲戒解雇の場合には退職金を支給しない」と規定しているケースが多いでしょう。このような定めがあるときには、退職金の減額または不支給とすることが可能となります。
3、懲戒解雇が認められ得るケース
懲戒解雇は懲戒処分のなかでも、もっとも重い処分となるため、解雇を選択することが労働者の行為と比較して相当なものであることが必要になります。
では、どのようなケースが対象になるのでしょうか。懲戒解雇にあたる具体的なケースについて解説します。
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(1)業務上の犯罪行為があったケース
たとえば、経理担当者が経費を流用するという行為は、業務上横領罪に該当する犯罪行為です。労働者と会社との信頼関係を著しく害するだけでなく、企業の信用失墜を招き、損害を与えるものであるため、懲戒解雇という選択が許容されやすいといえます。
ただし、横領行為について、綿密な調査をした上で十分な証拠を確保しなければ、不当解雇として争われる余地もありますので、注意が必要です。 -
(2)業務外の犯罪行為があったケース
業務外での犯罪行為があった場合には、私生活上の非行であって会社の職務とは直接関係しないわけですから、ただちに懲戒解雇が認められるわけではありません。当該労働者の職種、地位、行為態様、結果の重大性、会社の社会的評価に及ぼす悪影響の程度などを総合的に考慮して、懲戒解雇が相当かを判断することになります。
業務外の犯罪行為としてよくあるのが、飲酒運転や痴漢行為です。飲酒運転に対しては、社会としても厳罰化の傾向にあり、懲戒解雇などの厳しい処分が許容される余地があります。特に、トラック運転手やタクシー運転手が酒酔い運転をしたときには、企業に対する信用も失墜するおそれがありますので、懲戒解雇とすることが認められる可能性は高いといえます。
また、痴漢行為についても、常習で悪質性が高く、事件がマスコミに報道されてしまった場合などには、懲戒解雇が許容される余地があります。 -
(3)重大な経歴詐称があったケース
経歴詐称は、会社と労働者との間の信頼関係を壊し、労働力の評価を誤らせて、人事異動などに関する秩序を乱すため、一般的に懲戒事由になります。そして、労働者が詐称した経歴が重大なものであったときには、懲戒解雇が許容される余地があります。
経歴詐称が重大であるというためには、その経歴詐称を知っていれば会社は労働者を採用しなかったといえる程度のものであることが必要です。 -
(4)長期の無断欠勤をしたケース
従業員が長期間無断で会社を休んだときには、当該従業員への懲戒解雇が認められる余地があります。おおむね14日以上、正当な理由なく無断で欠勤したときには、長期の無断欠勤があったと考えられます。
もっとも、懲戒解雇するためには、正当な理由なく欠勤したということが必要ですので、体調不良やパワハラを受けたことが原因で欠勤したというケースでは、懲戒解雇は難しいでしょう。 -
(5)セクハラやパワハラをしたケース
従業員がセクハラやパワハラを行った場合も、懲戒事由にあたるでしょう。ただし、懲戒解雇が相当であるといえるためには、セクハラやパワハラが相当に悪質であり、執拗(しつよう)に繰り返し行われていたというような事情と、そのような事実を証明できる証拠が必要になります。
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(6)過去に懲戒処分を受けたことがあるケース
一般的に労働者に規律違反や非違行為があったときには、いきなり懲戒解雇とするのではなく、より軽い懲戒処分で対応することが多いでしょう。しかし、その行為を単体で見たときには重大性がなく懲戒解雇までは選択できない場合でも、労働者が何度も規律違反や非違行為を繰り返しているような場合には、徐々に懲戒処分の内容も重くなり、最終的には懲戒解雇を選択することはやむを得ないと判断されることもあります。
4、社員にとって懲戒解雇の影響は大きい
普通解雇と異なり懲戒解雇をされると、労働者は次のような多大な不利益を被ることになるため、会社は慎重な対応をとらなければいけません。
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(1)退職金などの給付がない
懲戒解雇と普通解雇の違いでも説明したとおり、懲戒解雇の場合は退職金の支給を受けられないなどの不利益を被ることになる場合が多いでしょう。退職金は、再就職するまでの生活費として重要な資金となりますので、不支給とされると労働者は、経済的に厳しい状況に置かれることになります。
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(2)就職活動での不利益
懲戒解雇を受けると、再就職にも不利な影響を及ぼす可能性があります。
懲戒処分を受けた場合、離職票には「重責解雇」と記載されることになります。採用先企業で離職票の提出を求められれば、懲戒解雇の処分を受けたということがわかってしまいます。
また、採用面接の際には、前職を辞めた理由を聞かれることがほとんどですが、前職で懲戒解雇を受けたことを隠して採用され、後日そのことが発覚したときには、解雇の理由とされる可能性もあります。
前職で懲戒解雇を受けたという事実は、就職活動をするにあたっては、マイナスな印象となることは避けられないでしょう。
5、会社が懲戒解雇をする際の注意点
懲戒解雇は、労働者にとっては多大な不利益を被る処分ですので、「処分が重すぎる」「そんなことはしていない」など、懲戒解雇に不満を持った労働者は、会社の処分に対して争ってくる可能性もあります。
懲戒解雇をする場合、会社はどのような点に注意するべきなのでしょうか。
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(1)懲戒事由に該当する証拠を収集する
たとえば、労働者による業務上横領行為を理由に懲戒解雇をするのであれば、当該労働者によって横領行為があったことやその金額について、証拠を収集し証明しなければなりません。単に疑わしいからという理由で懲戒解雇をしてしまうと、裁判になったときに、懲戒事由に該当することを立証できず、敗訴してしまうおそれがあります。
懲戒事由に該当する事実を証明する証拠をきちんとそろえたうえで、労働者から事情を聴取し、懲戒解雇の手続きをすすめていくようにしましょう。 -
(2)懲戒解雇が相当かを慎重に判断する
労働者の非違行為や規律違反があったときには、会社としては裏切られたという思いで感情的になり、重い処分を下してしまうことも少なくありません。
行為の内容と比較して、相当性を欠く処分がなされたときには、解雇は無効と判断される余地がありますので、懲戒解雇を選択するのが相当かどうかは慎重に判断しなければなりません。 -
(3)平等な取り扱いをする
同じ程度の非違行為に対しては、懲戒処分も同じ程度にする必要があります。例えば、過去に同じような非違行為をした従業員は懲戒解雇にしなかったのに、今回は懲戒解雇にするという場合、平等な取り扱いとはいえず懲戒解雇は無効と判断されてしまうおそれがあります。
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(4)適正な手続を行う
就業規則などに、懲戒処分を行う場合の手続が定められている場合には、定められた手続を行う必要があります。また、そのような定めがない場合でも、最低限、従業員に弁明の機会を与える必要はあるでしょう。
これらの手続を行わなかった場合には、懲戒解雇は無効とされる可能性が高いといえます。
6、まとめ
懲戒解雇が相当な処分かどうかを判断するのは、非常に難しいものです。その点、弁護士であれば、同種の裁判例などを調査し、相当性を適切に判断することができますので、懲戒解雇の判断に悩んだときには、弁護士に相談をすることをおすすめします。
なお、労働者との訴訟リスクを予防するためにも、解雇を実施する前に相談するということが重要です。
ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスでは、企業が抱えるお悩みについてのご相談を受け付けております。企業形態にあわせて選択できる顧問弁護士サービスもご用意しておりますので、労働者とのトラブルなどでお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。
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