人事担当者必見! 身元保証契約は2020年4月からどのように変わった?
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兵庫県神戸市には多くの企業が集積しており、市は新たな企業の進出にも積極的な支援を行っています。神戸市のように多くの企業が集中する地域では、優秀な人材の確保が重要な課題になります。優秀な人材を確保するためには、会社は適切な人事労務の運用を行っていくなど、会社の信頼度を高める必要があるといえるでしょう。
2020年4月に施行された改正民法は、企業の人事労務にも影響を及ぼすことをご存じでしょうか? 改正による影響のひとつとして、社員の身元保証契約が挙げられます。2020年4月1日以降に入社する社員に関しては、改正を反映した身元保証書を提出してもらわなければなりません。
本コラムでは、2020年4月から身元保証契約はどのように変わったのかを、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、「身元保証契約」とは
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(1)身元保証契約
「身元保証契約」とは、入社する従業員が将来会社に与えるかもしれない損害を、第三者があらかじめ保証する契約をいいます。
たとえば従業員が故意に会社の備品などを壊したときの損害や、会社のお金を使い込んだときの損害などが補償対象になると考えられます。
一般的には、入社内定者の親や兄弟などが身元保証人になることが多いでしょう。
どのような身元保証契約を結ぶかは、会社によって異なります。身元保証人となる人の、実印の押印と印鑑証明書の添付を必要とするケースもあれば、署名のみで良いとするケースもあり、さまざまです。 -
(2)身元保証契約で知っておくべきこと
身元保証契約は、「身元保証ニ関スル法律」(身元保証法)の適用を受けます。
本法律では、身元保証人が不当に大きな責任を負うことのないように有効期間、解除権や責任範囲などについて責任を限定しています。
●身元保証契約の有効期間
身元保証契約の有効期間は、契約で期間を定めなかったときには原則として3年、期間を定めたときでも5年が上限とされます。また、身元保証契約を自動的に更新することはできないとされています。
したがって、会社で身元保証契約を継続する必要があると判断するときには、一定期間ごとに身元保証書の提出が必要である旨を就業規則などで定めておくとよいでしょう。
●身元保証人の解除権
使用者である会社は、従業員がたとえば次のようなケースに該当するとき、そのことを身元保証人に通知しければならないとされます(身元保証ニ関スル法律 第3条)。不適任や不誠実で会社に損害を与えるおそれがあるとき
重要ポストに就くため想定以上の責任が生じるとき
身元保証人が監督できない遠隔地で働くとき
なお、身元保証人は、会社からの通知を受けたときや、このような事実を自ら知ったときには、身元保証契約を解除することが可能とされます(身元保証ニ関スル法律 第4条)。
●身元保証人の責任範囲
従業員が会社に損害を発生させ身元保証人の責任が生じるときでも、会社は無制限に身元保証人の賠償責任を問うことができるわけではありません。
身元保証人の損害賠償責任が裁判で争われるとき、裁判所は次の事情を考慮して損害賠償額を決めることができるものとされています(身元保証ニ関スル法律 第5条)。会社側の監督に関する過失
身元保証人になった事情
身元保証人として注意をしてきたかどうか
従業員の地位の変化 など
2、身元保証契約は2020年4月からどのように変わった?
では身元保証契約は、具体的に2020年4月からどのように変わったのでしょうか。
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(1)身元保証契約は改正民法の影響を受ける
平成29年5月に成立した「民法の一部を改正する法律(改正民法)」は、令和2年4月1日に施行されました。
今回の民法の改正では、主に契約に関する債権関係の規定を中心に見直しが行われていますが、そのなかの「個人根保証(こじんねほしょう)」の保護を厚くする内容の見直しが、身元保証契約に影響を及ぼします。
「個人根保証」とは、ある債務者の特定の債務だけでなく、将来的に生じる不特定の債務も含めて包括的に個人が保証することです。
わかりやすく説明すると、たとえば10万円を継続的に借りる場合、最終的に借り入れた総額分を全て保証するということです。
身元保証契約も、従業員が会社に対して生じさせる可能性のある債務を、身元引受人が保証するものなので、個人根保証の性質を有しているといえます。
そのため身元保証契約は、身元保証法の適用だけではなく、民法の適用も受けることになります。 -
(2)2020年4月からは「極度額」の定めが必要になる
改正民法では、個人根保証について保証人の保護を厚くするために「極度額」を契約時に定めなければならないこととされます(民法 第465条の2 第2項)。
たとえば、「極度額200万円」などと契約書で定めていれば、保証人が負う可能性がある責任の限度は200万円が上限になるということです。
また、「極度額」の定めは、書面または電磁的記録で定めなければならないものとされます(民法 第465条の2 第3項)。
したがって身元保証契約を締結する際には、会社は身元保証契約書に極度額の定めを記載しておく必要が生じます。
3、身元保証契約における改正対応
身元保証契約の締結は法的に義務付けられているわけではないので、入社時に身元保証人を必要としない会社も少なくないでしょう。
しかしこれまで身元保証書を取得している会社は、改正によって何らかの対応を迫られることになります。
選択肢としては、次の対応が考えられます。
- 極度額の定めを身元保証書に記載する
- 損害賠償の定めをなくして人物を保証する身元保証書にする
- 身元保証契約を廃止する
「極度額の定めを身元保証書に記載する」方法を選択したときには、具体的な金額が保証書に記載されることから、身元保証を引き受けてもらえないといったケースが発生することが考えられます。そのため、極度額の定めについて会社側から身元保証人に説明を行うなどの対応が必要になるでしょう。
なお、これまで取得した身元保証書は、極度額の記載がなくても問題はありません。
しかし、2020年4月以降に損害賠償の記載がある身元保証書を取得するときには、極度額の定めがなければ無効になるので注意しなければなりません。
4、民法改正が人事労務に与える影響とは
民法改正が契機となり、労働基準法が改正され、身元保証契約以外にも人事労務分野に主に次のような影響を与えます。
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(1)消滅時効
民法改正では、消滅時効に関する見直しも行われました。それに伴い、労働基準法においても賃金請求権の消滅時効の延長が議論されるようになりました。
時効期間は「2年」から「5年」に延長されています。ただし、経過措置として、当分の間、時効期間は「3年」となっています。
「3年」が適用されるのは、2020年4月1日以降に発生する賃金請求権です。それ以前に発生した賃金請求権に関しては、従来の時効期間が適用されます。 -
(2)法定利率など
民法改正に伴い、年6%による商事利率が廃止されました。そこで、賃金不払いの場合に会社が労働者に支払う遅延損害金が、変動制の年3%になりました。ただし、退職した労働者に対して、賃金の不払い(退職金は除く)があったときに支払う遅延損害金については、従来通り、年14.6%で変更はありません。
5、まとめ
本コラムでは、「2020年4月から身元保証契約はどのように変わったのか」を解説しました。
これまで、損害賠償に関する規定がある身元保証書の提出を義務付けきた会社は、極度額の記載のある保証書に変更するなどの対応が求められます。
2020年4月入社の新入社員や転職者は、改正後の法律が適用されるので、早急な対応が必要でしょう。
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