営業秘密の3要件とは? 秘密管理性を満たすポイント
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会社が保有する顧客データ等の持ち出し事件や報道で、「営業秘密」について耳にした方も多いのではないでしょうか。
営業秘密を勝手に持ち出すと「不正競争防止法」に抵触するおそれがありますが、何をもって「営業秘密」となるかは3つの要件が必要です。そのため、会社は情報漏えいという有事に備え、営業秘密の要件についてしっかりと押さえておくことが大切です。
この記事では、不正競争防止法の営業秘密の要件を満たすためのポイント、情報漏えい回避のための社内体制の整備などについて、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説いたします。
1、不正競争防止法における営業秘密
従業員が、顧客情報や製品の製法など、会社の重要な情報を持ち出して売却したり、競合他社に移籍後に情報を利用したりして、逮捕されるケースがあります。
このように会社の情報を従業員が持ち出した際、適用される法律が「不正競争防止法」です。以下、詳しく解説します。
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(1)不正競争防止法とは
不正競争防止法は、1934年に制定され、その後、数度の改正を経て、1993年に全面的な改正が行われて、現在に至っています。
不正競争防止法は、不正競争の防止および不正競争に係る損害賠償に関する措置などを定めており、その目的は、公正な競争を確保して、経済の健全な発展に寄与することにあります。
不正競争防止法における「不正競争行為」とは、以下のようなものが挙げられます。- 周知された商品等表示主体の混同行為(同法2条1項1号)
- 著名な商品等表示の冒用行為(同法2条1項2号)
- 不正の手段により営業秘密を取得し使用・開示する行為(同法2条1項4号)
- その他
従業員が会社の重要な情報を売ったり競合他社で利用したりする行為は、営業秘密の侵害として同法の4~10号に規定されており、不正競争防止法の対象になっています。
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(2)営業秘密とは
営業秘密とは、以下の通り不正競争防止法に定義されています。
・秘密として管理されている
生産方法や販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報として「公然と知られていないもの」
従業員が会社から持ち出した情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する場合には、その持ち出し行為それ自体や漏えい、使用などの行為が「不正競争行為」や「営業秘密侵害罪」に該当する可能性があります。
これは、持ち出しのタイミングが在職時でも退職後でも同様です。 -
(3)不正競争防止法の罰則(民事・刑事)
不正競争行為に該当する場合、会社との間で退職後の秘密保持義務合意がなくとも民事上の責任を負うこととなり、侵害行為に対する「差止請求」や「損害賠償請求」が可能です。
さらに営業秘密侵害罪に該当する場合には、刑事上の責任追及もできます。営業秘密侵害罪の罰則は、10年以下の懲役もしくは2000万円(海外使用等は3000万円)以下の罰金、またはその両方です。
なお、秘密情報の持ち出し・漏えいに関しては、不正競争防止法違反の罪のみならず刑法上の電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)や背任罪(同法247条) 、不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反の罪などに該当する可能性もあります。
2、営業秘密にあたる3要件
営業秘密として保護される情報は、以下の3要件を満たす必要があります。
- 秘密として管理されていること(秘密管理性)
- 生産方法や販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)
- 公然と知られていないこと(非公知性)
この3つの要件について、それぞれ説明します。
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(1)秘密管理性│秘密として管理されていること
営業秘密の第一の要件として「秘密として管理されている」という事実が必要です。
ただし、どの程度の管理がなされていれば、秘密管理性が認められるのかについては、実務上よく問題になります。
まず秘密管理性の要件の前提として、会社などの情報保持者が「該当の情報を秘密にしたいと認識している」必要があります。この秘密管理しようとする意志は“秘密管理意思”と呼ばれます。
その上で、秘密管理性を満たすには、以下の2つが必要とされています。- 会社に応じた経済合理的な秘密を管理する措置(アクセスの制限等)をしている
- 会社の従業員や取引先などに“秘密管理意思”が明示され、認識できる状態である
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(2)有用性│事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること
第二の要件として、営業秘密は、「生産方法や販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報」である必要があります。
不正競争防止法における営業秘密の定義規定では、事業活動に有用な技術上または営業上の情報として、「生産方法」や「販売方法」が例示されています。たとえば、製品の設計図や顧客名簿が該当するでしょう。
その他には、失敗した実験のデータであっても今後の失敗防止や時間の節約などの意味のある使い道があるため、有用性をもつ情報であると考えられています。 -
(3)非公知性│公然と知られていないこと
最後に、営業秘密の要件として「公然と知られていないこと」が必要です。
公然と知られていないこと(=非公知)とは、その情報が、保有者以外には知られておらず、一般の公開情報などから簡単に取得することができないことをいいます。
ただし、保有者以外の者が情報を知っており、しかも複数名いる場合であっても、その情報を把握している者全員が守秘義務を負っているのであれば、保有者の管理下にあるとして、非公知とみなされます。
一方、1人であったとしても情報の保有者が管理していない第三者に知られたのであれば、非公知性は否定され、公知ということになります。
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3、秘密管理性を満たすポイント
ここでは、秘密管理性を満たすために、実務上、どのような点に注意するべきかポイントを解説します。
参考:「営業秘密管理指針」(経済産業省)
秘密管理は、以下のふたつのポイントを満たす必要があります。
- ① 営業秘密ではない情報からの合理的区分
- ② 当該対象情報について営業秘密であることを明らかにする措置
① 合理的区分の具体的ケース
・会社の金庫に厳重に保管されている書類
・アクセスできる者が制限されている内部ネットワーク
② 営業秘密であることを明らかにする措置の具体的ケース
・営業秘密であることを明らかにするための機密や対外秘、公開禁止といった記載
・社内規則に守秘義務の明示などがされている情報
ただし、要求される情報管理の程度について統一的な基準があるわけではなく、秘密として管理される情報の性質、保有形態、企業の規模などに応じて秘密管理措置の程度を決定するべきであると考えられています。
4、社内の体制整備や企業法務は弁護士へ
前述の通り、不正競争防止法上、保護を受ける営業秘密については、3つの要件(秘密管理性、有用性、非公知性)があります。
会社にとって有用で、しかも世間には知られていない非公知な情報であっても、秘密に管理されていないのであれば、営業秘密としての保護を受けることはできません。
どのような秘密管理の措置をとって、秘密管理性の要件を満たすようにするかは、画一的な基準がないため、情報漏えいトラブルの際などに問題になります。
適切な秘密管理の体制を構築できるようにするには、トラブルが起きる前から日常的に弁護士に相談すること、日頃から会社の状況を把握できる顧問弁護士に相談できる体制を整えておくことが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、幅広い法務弁護など、営業情報を保護し、企業としての競争力を保つためのサポートを行っております。月額3980円からのリーガルサービスもご提供しているため、まずはお気軽にお問い合わせください。
5、まとめ
不正競争防止法は、営業秘密の漏えいなどに備え、会社が十分に理解し活用するべき法律です。しかし、会社の情報がすべて対象になるのではなく、法的に見て「営業秘密」に該当する情報が対象となる点に注意が必要です。
営業秘密の管理については、実務の動向、学説、裁判例を踏まえて、会社の規模などに応じた個別的な対応を行う必要があるため、法務の実績がある弁護士に相談することが重要です。また、弁護士は、普段から会社の業務を把握している顧問弁護士に依頼することが非常に有益です。
ベリーベスト法律事務所は、不正競争防止法の取り扱いの実績を有し、幅広い分野の会社さまへ顧問弁護士サービスを提供しております。不正競争防止法の営業秘密に関しては、ぜひベリーベスト法律事務所 神戸オフィスへお気軽にご相談ください。
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