雇用契約書は変更できる? 覚書など雇用条件の変更方法を弁護士が解説

2020年03月19日
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雇用契約書は変更できる? 覚書など雇用条件の変更方法を弁護士が解説

会社を取り巻く環境が変われば、会社の経営状況も変わってきます。厳しい状況に置かれたときには、雇用条件の見直しを考えることもあるでしょう。

ですが雇用条件の変更は、従業員の生活に大きく影響するものです。それだけに簡単には変更は認められません。会社が一方的に変更を行うと従業員が反発し、裁判に発展してしまうこともあります。

関西でも有数の商業の地である神戸市にも、今まさに変更を考えている会社もあるでしょう。では雇用条件はどのように変更すればいいのでしょうか? 雇用契約書の変更の際に気をつけなければいけないことはあるのでしょうか?
神戸オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、雇用条件の変更方法

一口に雇用条件の変更といっても「休憩時間を伸ばす」というような従業員にとって有利なものもあれば、「賃金カット」や「福利厚生の縮小」といった、従業員の反発が予想されるものもあります。内容がどのような性質であるかによって、変更方法は大きく変わってきます。

  1. (1)雇用条件の変更方法

    従業員を雇用する際、雇用条件を明示し、双方合意のうえで雇用契約書などを作成していることが多いでしょう。ですが雇用時に決めた条件は、その後絶対に変更できないというものではありません。

    労働契約法第8条では、以下のように変更が認められています。

    「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」

    つまり双方の合意があれば、変更は可能なのです。

    雇用条件の変更方法には、具体的には次のふたつがあります。

    • 従業員から個別に同意を得る
      (ただし、後述させていただきますが、就業規則を下回る同意を得たとしても、就業規則の内容が優先されます。)
    • 従業員に周知されている就業規則を変更する


    特定の従業員の雇用条件を変更する場合には、個別同意という形になるでしょう。新しい雇用契約書を作成したり、覚書を作成したりして対応することになります。

    ただし従業員の数が多く、全員の合意を取り付けるのが難しい場合などは、就業規則の変更を選択することになるでしょう。

    ですが就業規則の変更の場合、その内容が従業員にとってプラスとなるかマイナスとなるかによって、必要な対応が大きく変わってきます。

  2. (2)一方的な不利益変更はできない

    賃金カットや勤務時間の延長など、従業員にとって不利益となる雇用条件の変更は、会社が一方的に導入することは原則としてできません。

    なぜなら、従業員から個別に同意を得る方法の場合、その従業員が変更を受け入れなければ変更はできないからです。なお、たとえ従業員が個別に同意したとしても、変更後の内容が就業規則を下回っている場合には、就業規則の内容が優先されます。

    また、就業規則は会社が変更することができますが、その内容が従業員にとって不利益な場合、強制的に変更することは認められていません。

    労働契約法第9条でも、次のように規定されています。
    「使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」

  3. (3)合理性があれば変更は許される

    ただし全く変更ができないとなると、経営危機にある会社などでは困った状況になるでしょう。

    そこで、労働契約法10条や裁判例では、労働者にとって不利益な変更であっても、次のような点を考慮して「変更に合理性がある」として判断できる場合には、就業規則の変更が許容されるとしています。ただし変更後の内容については周知が必要です。

    • 労働者の受ける不利益の程度
    • 会社側にとっての変更の必要性の内容と程度
    • 変更後の内容の相当性
    • 代替措置などその他の労働条件の改善状況
    • 労働組合などとの交渉経緯
    • 他の労働組合や従業員の対応
    • 同種事項における社会一般の状況


    合理性の有無は事案ごとに判断されますが、特に賃金など従業員の生活への影響が大きいものについては、厳しく判断されます。

  4. (4)有益な変更でも説明は必要

    賃金アップなど、従業員にとって有利となる雇用条件の変更の場合には反発がでることはまずないでしょう。
    そのため従業員の同意なく、会社が一方的に就業規則を変更しても問題はありません。

    ただし実際に変更をしてしまう前に、従業員対する説明・周知は必要です。これは労使の信頼関係の問題でもあります。

2、雇用条件の変更に必要な手順

では就業規則の変更ではなく、雇用契約書の内容を変更により雇用条件を変えたい場合には、具体的にどのようにしたらいいのでしょうか。

  1. (1)雇用契約書の変更は覚書でも可能

    雇用条件を変更する場合には、新しい雇用契約書を締結することで対応ができます。ですがそれでは手間がかかるかもしれません。

    そこで活用できるのが「覚書」です。

    覚書は基本的に変更した部分についてのみ記載すれば良いため、雇用契約書を作り直すことに比べて利用しやすいといえます。

  2. (2)覚書とは

    覚書は法律に規定された文書ではありませんが、企業間の契約や従業員の雇用など、主にビジネスの場面で広く使われています。

    一般的には次のような趣旨で作成されます。

    • 契約書作成前の、双方の合意内容を書面にしたもの
    • 契約書の補足・変更を記したもの
    • 交渉などの場面において事実関係確認のために作成されたもの
  3. (3)覚書と契約書の違い

    契約書とは、双方の合意事項を文書にして示した書類です。契約自体は口頭でも成立しますが、内容の確認やその後のトラブルを避けるために、一般的には契約内容を書面にして残しておきます。

    覚書はあくまで契約書の補助的な文書です。
    ですが「覚書」というタイトルになっていても、内容的には契約書と同じである場合には、契約書と判断され、扱われます。

    これは覚書以外にも協定書、協議書、念書などの文書でも同様です。文書の性質はタイトルではなく、中身で判断されるのです。

  4. (4)覚書による雇用契約書変更の流れ

    覚書で雇用契約書の内容を変更する場合は、次のような流れで進めていくことになります。

    • 新しい雇用条件を説明し、同意を得る
    • 覚書を作成


    どのように変更をしたのか、変更後はどういう条件になるのか、必ず従業員に説明をしたうえで、覚書の作成を行いましょう。ただし雇用契約書と同様の効力を持たせるためには、作成の際に注意すべきことがあります。

3、覚書作成時の注意点

雇用契約書を作ることに比べて、覚書の作成は心理的なハードルが低いかもしれません。しかし法的な効力が生まれなければ、作成の意味がありません。契約書として扱えるような、しっかりとしたものを作成しましょう。

  1. (1)覚書にも法的拘束力がある

    覚書は契約書に比べて重要視されないイメージを持たれがちですが、必ずしもそうではありません。

    上記の通り、覚書も内容次第では立派な契約書類のひとつとなり得ます。決まった形式はありませんが、内容に気をつければ、契約書と同等の法的拘束力を持つため、慎重に検討して作成することが大事です。

    メモ書き程度の内容で署名・押印も無いような場合は、法的拘束力がないと評価されるときもあります。

  2. (2)覚書に記載すべき内容

    覚書により雇用契約書を変更する場合、有効なものとするためには中身に注意しなければいけません。
    次のような内容については、後に紛争の種を残さないためにもしっかり明記しておきましょう。

    • 覚書の作成年月日
    • 変更前の雇用契約書の締結日
    • 雇用契約書の変更内容
    • 覚書の効力発生日
    • 当事者の名前や住所
    • 署名・押印


    特に変更内容については、従業員が理解しやすいよう具体的に書き、口頭でも説明するようにしましょう。

  3. (3)覚書の変更

    覚書を作成した後に、再び雇用条件の変更が必要となることもあるでしょう。その場合には、もともとの覚書を変更することを示した新しい覚書を作成することで対応できます。

    新しい覚書にも法的拘束力を持たせるために、作成日や前の覚書のどの点をどのように変更するのかなど、必要な要素を具体的に盛り込みましょう。

  4. (4)覚書作成にはリーガルチェックが不可欠

    覚書はきちんと作成することで法的拘束力を持つことになります。そのため雇用契約書の変更のために使用する場合には、内容に間違いはないか、形式に不備はないかなどを、法律的な観点から慎重にチェックすることが必要です。

    覚書の作成が初めての場合や内容に不安がある場合には、弁護士にリーガルチェックを依頼しましょう。
    ビジネスに詳しい弁護士であれば、内容を細かくチェックし、修正点などを指摘してくれるのはもちろんのこと、作成の代行も依頼できます。

    雇用条件の変更は会社にとっても従業員にとっても、重大なことです。
    有効な覚書を作成すること、従業員からしっかり同意を得ることができていない場合には、後々従業員との間でトラブルになることがあります。

    変更内容によっては従業員から同意が得られないこともあるでしょう。その場合には無理に進めず、まずは弁護士に相談してアドバイスをもらうようにしましょう。

4、まとめ

雇用条件の変更は、従業員も敏感になりやすい部分であり、丁寧に対応を進める必要があります。特に覚書を利用した雇用条件変更は、作成に慣れていない企業もあり、内容もしっかりと精査することが必要です。

ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスでは、ビジネスに関わる幅広い相談をお受けしております。顧問弁護士としてご契約いただければ、必要なときに気軽にご相談をしていただくことが可能です。

雇用関係の問題は法律も複雑で、スムーズに対応できないことも多いものです。不安をお持ちの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています