経営者の配偶者と離婚! 不利な条件で離婚しないためのポイント

2020年05月19日
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経営者の配偶者と離婚! 不利な条件で離婚しないためのポイント

兵庫県が公表している人口動態調査によると、平成30年中の離婚件数は8969組で、前年よりも144組減少しました。
減少傾向にあるとはいえ、兵庫県の離婚件数が決して少ないわけではなく、数多くの夫婦がさまざまな決断を下して離婚に至っています。

離婚する際は、個人の事情によってさまざまなトラブルが起きることも少なくありません。特に、「配偶者が経営者」というケースでは、一般的な離婚と比較すると複雑になることが予想されます。
夫婦の一方が会社を経営し、その会社で他方が従業員として働いているといった場合には、離婚に踏み切った際のお金の問題やその後の勤務なども気になるところでしょう。

配偶者が経営者である場合の離婚で気をつけたいポイントについて、神戸オフィスの弁護士が解説します。

1、配偶者が経営者でも離婚の手順は同じ

まず基本的なこととして、配偶者が経営者であろうとサラリーマンであろうと、離婚の方法や手順が変わるわけではありません。
一般的に離婚の方法は3種類で、次に挙げるいずれかの方法によって離婚が成立します。

  1. (1)協議離婚

    夫婦がお互いに話し合い、条件などに合意して離婚する方法です。実際に離婚に至った夫婦の約9割が、協議離婚によって離婚しています。

    裁判所の手続きを必要としないため、双方が合意すれば財産分与や慰謝料、養育費などを柔軟に取り決めできるというメリットがあります。
    ただし、法的に有効な方法で取り決めを確定していないと、慰謝料や養育費の不払いなどのトラブルにも発展しやすいので注意が必要です。

  2. (2)調停離婚

    家庭裁判所に調停を申し立て、条件が話し合われたうえで双方が合意して離婚する方法です。

    夫婦間の協議だけでは離婚の合意に至らなかった場合や、離婚には合意していても慰謝料や養育費などの諸条件の合意が得られなかったなどの場合は、話し合いの場を調停に移すことになります。

    離婚調停では、裁判所の調停委員を介して夫婦間の話し合いが進められるため、公平な第三者を仲介にて話し合いを進めたい場合には有効な手段です。
    調停の場で合意した内容は裁判所によって調停調書にまとめられ、裁判の判決と同様の効果を持ちます。そのため、協議離婚の場合と比べて、慰謝料や養育費の不払いなどがあった場合、法的措置をとることができ、後のトラブルの回避につながります。

  3. (3)訴訟離婚

    協議や調停でも離婚や諸条件の折り合いがつかない場合は、裁判所に訴訟の申し立てをおこない、裁判官に判断を委ねることになります。
    これが訴訟離婚です。

    訴訟離婚は、民法において定められた法定離婚事由に該当するか否かが重視され、これに該当しない場合は離婚が認められません。法定離婚事由に該当する場合は、一方が離婚を拒否していても、判決により離婚することになります。

2、経営者との離婚で気をつけたい3つのポイント

もし、配偶者が経営者である場合、離婚に際してはいくつかの注意点があります。
経営者との離婚で気をつけたい3つのポイントを整理しておきましょう。

  1. (1)所得や資産が見えづらい

    一般的に、経営者の所得や資産は全体像がつかみにくく、ときに経営者本人でさえしっかりと把握できていないことさえあります。
    配偶者がサラリーマンであれば給与明細という具体的な証拠が存在しますが、経営者の場合は報酬等の額そのものが不明確であることが少なくありません。
    また、報酬等の額は少なくても、自社の大量の株式を保有しており多額の配当を得ている可能性もあります。
    経営者個人の財産なのか、会社の財産であるのかが曖昧であれば、さらに資産の全容は見えづらくなるでしょう。

    金融機関などに「妻だから」と情報の開示を求めても、個人情報保護の重要度が高まっている現代では開示は期待できません。
    配偶者の財産を調査する場合は、弁護士に離婚事件について依頼し、弁護士のサポートを得るのが賢明でしょう。

  2. (2)会社の財産は財産分与の対象外

    通常、夫婦が婚姻後ともに築いてきた財産は「共有財産」と呼ばれ、離婚に際しては2分の1ずつ均等に分与されるのが一般的です。

    ところが、「夫の財産だ」と思っていた土地・建物などの不動産や株式などが、実は法人名義の財産であるというケースも想定されます。

    夫婦の共有財産は夫・妻が均等に分与される権利を持っていますが、法人名義の財産は財産分与の対象になりません。この事実を知っている相手であれば、離婚前に個人の財産を会社名義に移すといった財産隠しをするおそれも考えられます。

    財産隠しがあったことが判明したときは、離婚が成立したあとでも離婚時の財産分与の合意の取り消しを主張することも考えられます。
    ただし、離婚が成立して2年以内に請求しないと時効が成立し、請求権が失われてしまうので、スピーディーに対策を講じる必要があります。

    また、個人経営や同族経営の場合、配偶者個人の財産と会社の財産が明確に区別できない場合があります。
    たとえ会社名義の財産でも財産分与の対象に含まれるケースがあるので、あきらめずにしっかりと分与を主張することをおすすめします。

  3. (3)親権が争われた場合の判断基準

    離婚する夫婦の間に未成年の子どもがいる場合は、夫婦のどちらか一方が子どもの親権を得ることになります。子どもが幼いうちは母性優先や、子どもと過ごす時間が長い側に親権が認められやすいといえます。
    親権争いに発展した場合、裁判所は「子どもの利益と福祉」を重視するため、経済力が豊かな経営者側に親権を認めるケースもあります。

    経営者である配偶者と子どもの親権を争う事態に発展した場合は、子どもの養育について自分が行うことが最良だと判断できる事実や主張が必要となるでしょう。

3、知っておくべきお金のこと

経営者である配偶者と離婚する際に、特に気をつけるべきなのが慰謝料や養育費、財産分与といったお金にまつわる事柄です。
配偶者が経営者である場合と、給与所得を得ているサラリーマンの場合とでは、扱いが異なる点があります。

  1. (1)給料の差し押さえが難しい

    離婚する配偶者がサラリーマンの場合、慰謝料・養育費などの不払いが発生し、養育費等の支払いについて調停調書等がある場合は、裁判所に強制執行を申し立てて給料を差し押さえることで回収が期待できます。

    ところが、配偶者が経営者の場合、裁判所から配偶者が経営している会社に差し押さえ命令が送達されても、その配偶者が素直に支払いに応じない場合があります。
    このような場合は、会社に対して取立訴訟を起こすことで会社から回収できる可能性があります。

    もっとも、配偶者が経営者であれば、離婚問題で会社相手に訴訟を起こされてしまい、会社の財産が差し押さえを受ける事態になってしまうので、そのリスクを回避するために慰謝料の支払いに応じる可能性もあります。

  2. (2)必ずしも高額の財産分与が認められるわけではない

    配偶者が経営者であれば「資産が多いし、財産分与も高額になるはずだ」と考えるかもしれません。婚姻中に築いた夫婦の共有財産は均等に分与されるため、経営者との離婚となれば、多額の財産分与を得られると考えても当然でしょう。

    ところが、配偶者が経営者だからといって、必ずしも多額の財産分与が認められるわけではありません。

    たとえば婚姻の前にすでに財産を形成していた場合は共有財産と認められず、その形成されていた財産は、財産分与の対象には含まれません。
    また、婚姻後に形成した財産であっても、スポーツ選手や芸能人のように一方の特殊な技能によって得た収入は、サラリーマンと同様の内助の功は認められず、総財産の一部が財産分与の対象外とみなされる可能性があります。

    会社経営にもこれに通じたものがあり、経営者である配偶者の手腕によって多額の収入を得ていたケースなどでは、財産分与の割合が均等にならないおそれがあります。

    多くの財産を手にしている配偶者と離婚するのに、これらの事情で財産分与の割合が著しく不均等である場合は、扶養的財産分与による解決が考えられます。
    扶養的財産分与とは、離婚後の一定期間において収入が少ない一方の生活を支えるためにおこなわれる財産分与です。数として多くはありませんが、経営者の妻などであれば、それまでの生活水準を維持するために扶養的財産分与が認められるケースがあります。

4、配偶者の会社で働いている場合の注意点

夫が社長で、妻がその会社の従業員として勤務しているようなケースでは、特に注意すべきポイントがあります。

  1. (1)離婚を理由にした解雇は違法

    配偶者が経営者であれば、離婚を理由に解雇されるケースも想定されます。
    離婚した元配偶者と同じ会社で働くのはお互いに気まずいところもあり、仕方がないことだと思えるかもしれませんが、実はこの手続きは労働契約法という法律に違反している可能性があります。

    労働契約法によると、解雇は「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と判断できる理由がある」場合にのみ認められます。
    勤務態度に問題がある、会社に対して重大な損害を与えたなどの合理的な理由がない限り、解雇は無効です。

  2. (2)経営権争いに発展するケースもある

    夫婦経営の会社や、夫が経営する会社の株式を妻が大量に保有しているケースなどでは、離婚問題が経営権争いに発展する事態も想定されます。

    夫が経営する会社で妻が役員に就任しているようなケースで、もし正当な理由なく離婚を理由に役員を解任された場合は先の不当解雇と同じく、役員であった期間の報酬等を損害として賠償請求することもできます。

    妻が夫経営の会社の株式を大量に保有している場合などでは、離婚問題が経営権争いに直結する可能性もあるため、株式の譲渡などを含めた協議が必要となります。

5、まとめ

配偶者が会社を経営している場合は、個人の財産が不透明で会社の財産との区別が難しいという特殊な事情があります。
高額な財産分与を期待していても、個人資産が少ないように装っていれば分与額が低くなるケースも想定されるので、徹底した財産調査が必要となるでしょう。

ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスは、離婚問題の対応実績が豊富な弁護士が、離婚にあたってお悩みを抱えている方を強力にサポートします。
離婚にまつわるトラブルの一切だけではなく、給料差し押さえを拒否された場合の取立訴訟や、不当解雇に対する損害賠償請求訴訟などに関する手続きも対応可能です。
配偶者が経営者であるという特殊な事情がある場合は、一方的に不利な条件での離婚を避けるためにも弁護士のサポートが必須です。

まずは、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています