特定少年として実名報道された! 受ける影響を最小限に抑える方法
- 少年事件
- 特定少年
- 実名
令和6年8月、兵庫県内で通行人にケガを負わせて現金を奪ったなどとして、当時19歳の男性が実名起訴されました。少年法改正後、兵庫県内で初の「特定少年」の実名公表となりました。
令和4年4月1日から施行された改正少年法では、18歳・19歳の少年を「特定少年」と位置付けて、特別な規定が設けられました。この規定に伴い、特定少年が罪を犯した場合には、通常の少年事件と異なり、実名報道がされる可能性が生じるようになったのです。
本コラムでは、特定少年として実名報道をされることのデメリットや、実名報道による影響を最小限に抑えるための方法について、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、未成年なのに実名報道が可能になった理由
少年法の改正されたことで、以下に述べる「特定少年」については実名報道される可能性が生じました。
以下では、令和4年4月1日施行の改正少年法のポイントについて説明します。
-
(1)18歳・19歳の少年が「特定少年」に
民法の成年年齢が20歳から18歳へと引き下げられたことにより、18歳以上の人に対しても選挙権が与えられるなど、社会において責任ある立場に位置付けられるようになりました。成年年齢の引き下げに合わせて、「少年法の適用年齢も20歳から18歳に引き下げるべきだ」との議論もありました。
しかし、改正少年法では、20歳未満の人については少年法の適用対象とすることは維持するものの、18歳・19歳の人については「特定少年」という特例を新たに設けて、17歳以下の少年とは異なる取り扱いをすることになったのです。 -
(2)原則逆送対象事件の拡大
少年法では、少年に対する処罰ではなく更生を目的とした保護処分を下すことを目的としています。
したがって、罪を犯した少年は、刑事裁判ではなく家庭裁判所の審判という非公開の手続きにおいて処分が下されることになります。
しかし、一定の重大な少年犯罪については、少年審判ではなく成人と同様に一般的な刑事裁判の手続きに付すこととされています。これを「逆送」といいます。
改正法では、原則として逆送決定される事件の範囲が拡大されることになりました。したがって、特定少年について、これまでよりも刑事裁判によって刑罰が言い渡される範囲が拡大したことになるのです。 -
(3)実名報道の解禁
改正前の少年法では、罪を犯した時点で少年であれば、その後に成年年齢に達していた場合や逆送された場合であっても、本人の特定につながるような実名報道が禁止されていました。
しかし、改正少年法では、特定少年のときに犯した罪に関しては、逆送によって起訴された場合に限って、実名報道が解禁されることになりました。
これにより、18歳・19歳の「特定少年」については、氏名・年齢・職業・住居・容姿などが報道される可能性があります。
2、特定少年とは?
以下では、特定少年の定義や改正前少年法との扱いの違いについて解説します。
-
(1)特定少年の定義
特定少年とは、罪を犯した少年のうち18歳か19歳の少年のことをいいます。
少年法では、20歳未満の人を「少年」と定義して、少年法の適用対象としています。
18歳や19歳の人についても少年法が適用される少年にあたることになりますが、特定少年として区別されるため、17歳以下の少年が罪を犯した場合とは異なるルールが適用されることになります。 -
(2)特定少年に対する扱いの違い
改正前の少年法と改正後の少年法を比較すると、特定少年に対しては、以下のような扱いの違いが生じています。
① 逆送される対象事件が増加
改正前の少年法では、以下のような場合に、逆送が行われてきました。- 死刑、懲役または禁錮にあたる罪の事件について刑事処分を相当と認める場合
- 16歳以上の少年が故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた場合
これに対して、改正少年法では、特定少年について、以下のような場合に、逆送がされることになります。
- 刑事処分を相当と認めるとき(対象事件の制限なし)
- 16歳以上の少年が故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた場合
- 死刑または無期もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯した場合
以上の通り、特定少年については、対象事件の制限なく、刑事処分が相当であると判断された場合には、逆送がされることになります。
また、改正前の少年法では原則として逆送の対象とはなっていなかった、強盗罪、強制性交等罪、非現住建造物等放火罪についても原則逆送の対象に含まれることになりました。
② 実名報道が可能
改正前の少年法では、罪を犯した時点で少年であれば、当該少年について実名報道をすることは禁止されていました。
これに対して、改正少年法では、特定少年のときに犯した罪については、逆送されて起訴(公判請求)された場合に限り、実名報道が可能となりました。
実名報道をするかどうかについては報道機関の裁量に委ねられていますが、起訴された場合の実名報道をすることに対する法律上の規制はなくなったことになるのです。
③ 保護処分の内容が限定
改正前の少年法では、少年審判の際に保護観察や少年院送致が選択された場合には、その期間を明示することなく、実態に即して柔軟な運用がなされていました。
これに対して、改正少年法では、特定少年に対する保護観察については、6カ月または2年のいずれかの期間として、少年院送致については3年の範囲内で期間を明示することとなりました。
お問い合わせください。
3、実名報道をされることで受けるデメリット
以下では、特定少年として実名報道をされた場合のデメリットを解説します。
-
(1)本人の更生が困難になるおそれがある
特定少年として実名報道がなされると、少年の氏名や顔写真などが、新聞・テレビ・インターネットなどで報道される可能性が十分あります。インターネット上の記事は、新聞やテレビの記事とは異なり、事件後も半永久的に残ってしまう可能性が高く、いつでも簡単に閲覧することができます。
そのため、特定少年が罪を償って社会に復帰するために就職活動をしようとしても、採用担当者が過去の犯罪事実を知ることになり、採用を見送られる可能性があります。
また、採用してもらうことができたとしても、その後に過去の犯罪事実が知られることになれば、会社に居づらくなることもあるでしょう。
このような事態になると本人の更生にあたって著しい支障が生じるといえます。 -
(2)家族に対して誹謗中傷がなされるおそれがある
近年では、インターネットやSNSなどの発達により、実名報道をされてしまうと、自宅や家族関係が特定されてしまうことがあります。
事件の内容によっては、無関係な家族も周囲の人から誹謗中傷をされるなどの被害を受ける可能性があります。
このように、実名報道は、本人だけでなく家族に対しても影響が及ぼす場合があります。
4、未成年者でも事件を起こしたときは弁護士に依頼を
20歳未満の方で少年法の適用対象とされる方であっても、罪を犯してしまった場合には、速やかに弁護士に相談しましょう。
-
(1)有利な処分獲得に向けたサポートが可能
少年事件では、成人の刑事事件とは異なり、少年本人の更生を目的として処分を決めていくことになります。
そのため、少年審判までに家庭環境や職場環境を調整して、社会内でも十分に更生が可能であることを示すことによって、少年院送致などの重い処分を回避することができる可能性があるのです。
また、特定少年の場合には、逆送対象が拡大されたことによって、成人と同様に刑事裁判を受ける可能性が高くなりました。
刑事裁判では、被害者との間で示談が成立しているかどうかによって、処分の重さが大きく変わってきます。
そのため、少年事件であるからとって、被害者との示談を軽視することは禁物です。
少しでも有利な処分を獲得するためには弁護士のサポートが不可欠となりますので、何らかの事件を起こしてしまったという場合には早めに弁護士に相談をするようにしましょう。 -
(2)実名報道については逮捕歴の削除対応も可能
特定少年については、実名報道が解禁されたこともあり、インターネット上に逮捕歴などの情報が残ってしまう可能性もあります。
このような状態では、その後の就職や生活において大きな支障が生じることが考えられるので、適切な対応が必要になります。
弁護士であれば、法的手段によって逮捕歴などの情報の削除請求をすることができます。
逮捕歴を削除することができるかどうかについては一定の基準もありますので、逮捕歴が掲載されていることによって不利益を被っているという方は、一度弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。
5、まとめ
少年法が改正されたことによって、18歳と19歳の少年は特定少年として扱われ、一般的な少年とは異なる取り扱いがなされることになります。
具体的には、逆送事件の範囲が拡大されている、実名報道が可能であるなどの違いがあります。付添人活動や弁護活動についても、これらの違いをふまえた対応が重要になります
もし、20歳未満の子どもが罪を犯してしまったという場合には、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています