同僚が会社のお金を着服していた! 見て見ぬふりは横領幇助になる?

2019年12月04日
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同僚が会社のお金を着服していた! 見て見ぬふりは横領幇助になる?

平成30年10月、兵庫県三木市で、会社の資金を一人で管理していた経理担当役員が会社のお金を着服しているとして業務上横領の疑いで逮捕・起訴されました。

この事件は、平成29年末に入社した経理部門の別の従業員が帳簿類を調べて発覚したものですが、もし、この従業員が着服の疑惑を黙って見て見ぬふりをしていた場合、この従業員も横領幇助などの罪になるのでしょうか。

1、横領罪には3つの種類がある

テレビやラジオのニュースなどで、時々「○○を業務上横領の疑いで逮捕した」などと耳にすることがあるかと思いますが、横領罪には3つの種類があります。

  1. (1)単純横領罪

    単純横領罪とは、他人から委託を受けて預かっている物を、その委託の任務に背いて、自分の物のように利用処分してしまうことを指します。

    たとえば、友人から10万円を預かったものの、そのお金を使って友人の許可なく自分のための買い物をした場合、単純横領罪が成立します。時効となる期間は5年です。

  2. (2)業務上横領罪

    業務上横領罪とは、業務上他人から委託を受けて預かっている物を、その委託の任務に背いて、自分の物のように利用処分してしまうことを指します。

    たとえば、ある営業マンが取引会社で預かってきた商品の代金をそのままパチンコに使ってしまった場合、業務上横領罪に問われることになります。時効となる期間は7年です。

  3. (3)遺失物等横領罪(占有離脱物横領罪)

    遺失物等横領罪とは、落とし物など意図せず他人の支配から離れた物を自分の物のように利用処分することを指し、別名「占有離脱物横領罪」とも呼ばれます。

    たとえば、道端に落ちていた誰のものかわからない財布を拾ったにもかかわらず、警察に届けず持って帰った場合、遺失物等横領罪が成立します。時効となる期間は3年です。

2、業務上横領罪ではどんな刑罰が科せられるのか

業務上横領罪では、被害額の多寡や初犯・再犯であるかどうかなど、さまざまな事情により量刑が異なります。業務上横領がどれくらいの量刑になるのかについて、刑法上の規定と判例も併せてみていきましょう。

  1. (1)業務上横領罪で科せられる刑罰

    業務上横領罪が成立すると、刑法上10年以下の懲役に処せられる可能性があります。業務上横領罪には罰金刑がなく、逮捕・起訴されると執行猶予がつかなければ刑務所に収監されることになるのです。ただし、被害額が極めて小さい場合や、被害者側(会社側)と示談の上被害弁償がすでに行われている場合は、そもそも刑事事件として立件されないことや起訴されないこともあります。

  2. (2)業務上横領は民事上の責任も生じる

    業務上横領をすれば、被害者の財産を侵害したとして、民法上の不法行為責任が生じます。そのため、業務上横領罪を犯した人物は、刑事上だけでなく民事上の責任も問われることになり、横領した分のお金を支払うよう損害賠償請求を受ける可能性が高くなります。

3、横領の見て見ぬふりは横領幇助になる?

これまで、業務上横領を自分がしてしまった場合にどのような量刑になるのかについて見てきました。ここからは、他人が業務上横領をしているのを見て見ぬふりをすることが、横領幇助など何らかの罪になるのかについて見ていきましょう。

  1. (1)正犯と幇助犯の違いとは

    まず、「正犯」と「幇助犯」の違いについて考えていきます。

    正犯とは実際に罪を犯した本人のことを指しますが、幇助犯とは犯罪を手助けした人のことを指します。つまり、正犯と幇助犯の違いとは、自ら犯罪を実現させる意思があるか、他人の犯罪の手助けにすぎないかにあります。

    具体的には、以下のような要素の有無で判断されます。

    • 犯罪に加担する動機の有無
    • 犯罪に加担することで得られる利益の有無や大きさ
    • 犯罪に加担することになった経緯
    • 犯罪にどれくらい主体的に関与したか
    • 犯罪を実行するときの役割
    • 正犯との関係性    など
  2. (2)物理的幇助(有形的幇助)と精神的幇助(無形的幇助)

    幇助には、物理的幇助(有形的幇助)と精神的幇助(無形的幇助)の2種類があります。

    物理的幇助とは、物理的に犯罪の成立を手助けすることで、犯行現場までの交通費を貸す、凶器となるナイフを渡す、犯行現場に案内するなどのことを指します。

    精神的幇助とは、犯行への助言や励ましなど精神的に犯罪の成立を助けることです。つまり、「犯行時にはこういうルートで侵入すればいい」とアドバイスしたり、犯行を実行するときに「がんばって」と励ましたりすることを指します。

  3. (3)幇助の4つの成立要件

    幇助の成立要件は、幇助行為・幇助の意思・正犯者の実行行為・幇助の因果関係の4つあります。それぞれ具体的に中身を見ていきましょう。

    ①幇助行為
    犯行を実際に手助けしたことが必要となります。

    ②幇助の意思
    幇助犯が成立するには、「犯行の手助けをしよう」という意思があることが必要です。
    たとえば、犯人に凶器となったナイフを販売したお店は、ナイフが犯罪に使われることを明確に認識していた場合でない限り、凶器を提供したといえども犯行を手助けする目的で販売したわけではないでしょう。そのため、お店の店員は幇助犯とは言えないことになります。

    ③正犯者の実行行為
    正犯者が実際に犯行に及んだことも、成立要件のひとつとなります。

    ④幇助の因果関係
    「自分のサポートによって犯行が可能になった」「犯行を容易にした」などの事実がなければ、幇助犯は成立しないことになります。
    たとえば、人の家に侵入して盗みを働こうとする人に対してその家の合鍵を提供した場合、提供した合鍵によって侵入が容易となったケースでは、幇助罪が成立します。
    逆に、合鍵を提供しても、その合鍵が実際に使えるものかどうか疑わしいと正犯者が考え、合鍵を使わない計画を立てて別の方法で侵入したケースでは、合鍵を提供したことで犯行を容易にしたとはいえないので、因果関係がなく幇助犯とならない可能性があります。

  4. (4)幇助犯と教唆犯の違いとは

    幇助犯と似た言葉に「教唆犯」があります。教唆犯とは、まだ犯罪を行うことを決意していない人に対し、犯行をそそのかして他人に犯罪行為をさせた人物のことを指します。幇助犯は既に犯行を決意している者に対し、助言や励ましをして犯罪の実行を容易にした者を言いますが、「教唆犯」はまだ犯行を決意していない人に対して犯行を唆す点に違いがあります。
    教唆の手段や方法に決まりはなく、口頭でもメールでもSNS上のやり取りでも構いません。また、犯行の日時や場所を指定する必要もありません。他人の教唆によって犯罪を実行しようと決意をさせることが、教唆犯の成立要件となるのです。

  5. (5)見て見ぬふりは横領幇助にあたるか

    ここで、同僚など他人の横領について見て見ぬふりをするのは横領幇助にあたるかを考えてみましょう。
    幇助は犯行について何らかの手助けをすることなので、だまって見ていることによって発見を免れて犯行が容易になったと考えることも可能です。しかし、「何もしなかった」ことを処罰することは、人が特定の行動を取ることを法律が刑罰をもって強制することになってしまいますので、限定的な場合にしか認められていません。
    たとえば、他人の横領について見て見ぬふりをする場合に幇助犯が成立するのは、立場や状況などから考えて、見て見ぬふりをした人が他人の横領を止めるべき強い義務を負っていた場合に限られると考えられています。
    そのため、単なる同僚であれば見て見ぬふりをしても幇助犯が成立する可能性は低いでしょう。しかし、経理の責任者や監査の担当者であるなど横領を防ぐ特別の職務を負っている人の場合には、見て見ぬふりをすることで幇助犯が成立する可能性が高くなります。

  6. (6)雇用契約上の違反になる可能性はある

    他人の横領を見て見ぬふりをする行為は、刑法上の犯罪にならない場合でも、雇用契約上の違反になる可能性はあります。就業規則に「不正行為を未然に防止する」と明確に定められている場合はもちろん、就業規則上に何ら規定がなくとも、信義誠実の原則に基づいて、「労働者としての義務を忠実に履行し、使用者の利益を不当に侵害してはならない」という雇用契約上の義務に違反するとされることもあるかもしれません。

4、横領で逮捕された後の流れ

もし、横領で逮捕されたとき、どのような流れになるのでしょうか。

  1. (1)逮捕・取り調べ

    まず、警察に逮捕され、48時間以内で取り調べを受けます。大手有名企業の社員や官公庁、弁護士や司法書士などの場合は、重大事件になることが多いため、厳正な対処が必要となることから逮捕となるケースが多く見られます。

    ただし、横領をしたからと言って100%逮捕されるとは限りません。被害金額が少額の場合は立件されないこともあります。また、在宅のまま捜査が進み、書類送検となることも考えられます。

  2. (2)送検・勾留となるケースが9割

    取り調べを受けた後、警察署から検察庁へ身柄を送致(送検)されます。ここでは24時間以内で検察官が取り調べを行い、勾留が必要かどうかを決定します。
    業務上横領の場合は、反復継続して行われることが多いので、捜査に時間がかかる傾向があります。実際、2018年の検察統計によると、横領事件で逮捕された事件のうち勾留となったケースは9割を超え、そのうち20日間近く勾留されるケースが半数以上を占めています。

  3. (3)起訴・不起訴の決定

    捜査が終わると、検察官が起訴・不起訴を決定します。政府統計によれば、横領罪全体の起訴率は平成16年から30年にかけて14~18%台で推移しています。ただ、捜査期間中に示談交渉が成立しているなどの場合は、不起訴処分や起訴猶予処分となることもあります。

  4. (4)刑事裁判へ

    起訴されると、裁判となります。実際の量刑は業務上横領の被害金額や動機、社会的な影響、示談成立の有無などにより異なります。被疑者の私利私欲を満たすためにお金を着服した場合や、銀行員や弁護士・司法書士などお金をきちんと管理すべき立場の者が犯行に及んだ場合は罪が重くなる傾向にあります。また、一概には言えませんが、おおよそ被害金額が100万円を超えると実刑判決を受ける可能性が高くなります。

5、まとめ

業務上横領罪を犯すと、連日長時間にわたる捜査を受けなければならず、身柄を拘束される期間も長期化する傾向にあります。また、自ら業務上横領をした場合のみならず、それを手助けした場合には、幇助犯として罪に問われる可能性があります。単なる同僚の場合に横領を見て見ぬふりをすること自体は罪になる可能性は低いものの、立場や状況によっては、見て見ぬふりをすることで横領幇助罪となることも考えられます。一刻も早く問題を解決するには、できるだけ早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。初動が早いほど、起訴を免れられる可能性も高くなるからです。

もし、業務上横領罪や横領幇助で逮捕された場合、もしくは逮捕されそうになった場合は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスまでご連絡ください。

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