執行猶予付き判決とは?実刑判決との違いや執行猶予が付くための条件
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令和4年11月、神戸地裁にて高校生や大学生を対象にした模擬裁判が企画されました。模擬裁判では、架空の事件をもとに、最終的に裁判員役の高校生らが判決を下しましたが、多数決の結果、「実刑判決」と「執行猶予付きの判決」が拮抗(きっこう)する形となりました。
「実刑判決」と「執行猶予付きの判決」は、ニュースなどでもたびたび登場するフレーズですが、どういった意味があるのかを知らない方も多いのではないでしょうか。
このコラムでは、刑事事件の処分である「実刑判決」と「執行猶予付き判決」の違いを神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、「実刑判決」と「執行猶予付き判決」の違い
刑事裁判は、裁判所が被告人に判決を言い渡し、手続きが終結します。
懲役・禁錮・罰金といった刑罰の内容は、この時点で明らかになりますが、ニュースなどでは単に『実刑判決が下された』『執行猶予付きの判決を受けた』などと報じられることも多く、実際にはどのような処分となったのかわからない方も多いでしょう。
まずは「実刑判決」と「執行猶予付き判決」の違いを確認します。
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(1)実刑判決とは
刑事裁判で有罪となり、懲役・禁錮の刑が選択され、直ちにこれを執行するという内容の判決のことを「実刑判決」といいます。
実刑判決が下された場合は、基本的に刑務所に収監されることになるため、その後は数か月・数年にわたって社会生活から隔離されることになります。
なお、懲役や禁錮のほかに罰金刑などの判決が下されるケースもありますが、これら刑罰が科せられる場合は、簡易的な手続き(略式手続)によることが多い傾向にあります。本コラムでは、懲役・禁錮が科せられるケースを中心に解説します。 -
(2)執行猶予付き判決とは
刑事裁判で懲役・禁錮の有罪判決が下されても、刑務所へ収監されるとは限りません。判決に「執行猶予」が付されている場合は、刑罰の執行が1年から5年の範囲で、現に言い渡された執行猶予の期間猶予されます。
執行猶予付き判決が下される場合、判決文には「×年の懲役に処する。この裁判が確定した日から◯年間その刑の執行を猶予する」といった記載がなされます。
つまり、執行猶予付きの判決が下された場合でも「懲役×年」という刑罰が下されたという事実に変わりはありません。ただし、その刑の執行が一定期間に限って猶予されるため、刑務所へは収監されず、社会生活を送りながら更生を目指すことになります。
なお、刑法の規定上は50万円以下の罰金に処する場合は執行猶予の対象ですが、罰金に執行猶予が付されることはほとんどありません。 -
(3)実刑判決と執行猶予付き判決の違い
実刑判決と執行猶予付き判決の違いは、大まかにいえば刑務所に収監されるか、されないかという点に集約されるでしょう。
報道などをみていると、多くのケースで実刑が下されているように感じるかもしれません。令和2年版の犯罪白書によると、通常第一審において有期の懲役・禁錮が下された件数は3年超で3150人、3年以下で4万2564人、合計で4万5714人でした。そのうち、実刑判決を受けたのは1万7025人で、残る2万8689人には執行猶予付き判決が下されています。
実刑判決は37.2%、執行猶予付き判決は62.8%となり、執行猶予付き判決が下される割合のほうが圧倒的に多数です。
なお、執行猶予付き判決を受けた場合、直ちに刑務所へと収監されるわけではないため、この点から、執行猶予付き判決を受けることを『前科にならない』と考えている方も少なからず存在するようです。しかし、実刑・執行猶予のいずれの場合でも懲役の刑罰が科せられていることに変わりはないので、執行猶予付き判決を受けた場合も前科になります。
2、執行猶予が認められる条件
執行猶予付き判決が下されるのは、法律で定められた厳格な要件を満たす場合です。
また、要件を満たしているからといって、必ず執行猶予が付くわけではないという点には注意が必要でしょう。
なお、執行猶予には、「刑の全部の執行猶予」と「刑の一部の執行猶予」があります。言葉のとおり、刑のすべての執行を猶予するか、刑の一部のみの執行を猶予するかの対象になるかという違いがあり、適用要件も異なります。
本章では、「刑の全部の執行猶予」について解説します。
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(1)刑法で定められた条件を満たす必要がある
執行猶予に関する規定は、刑法第25条に明記されています。
まず、「刑の全部の執行猶予」の対象となるのは、3年以下の懲役、もしくは禁錮、または50万円以下の罰金の言い渡しを受けたときです。
刑法などの条文で定められている法定刑ではなく、あくまでも言い渡される判決がこの範囲に合致している必要があります。
さらに、次の要件も満たす必要があります。- 以前に禁錮以上の刑に処されたことがない
- 以前に禁錮以上の刑に処されたことがあり、その執行が終わった日、またはその執行の免除を得た日から5年以内に、禁錮以上の刑に処されたことがない
つまり、判決の言い渡しの時点で、過去に懲役・禁錮の有罪判決を受けたことがあり、刑務所を出所して5年以内、または執行猶予の期間が終了して5年以内に懲役・禁錮の刑に処せられたことがあると、執行猶予は認められません。
ただし、これらの条件を満たさない場合でも、言い渡される判決が1年以下の懲役・禁錮の場合は、情状に特に酌量すべきものがあるときに限って執行猶予の対象となります。 -
(2)執行猶予が認められる基準
刑法第25条1項の条文は、執行猶予の要件を明記したうえで「執行を猶予することができる」と示しています。つまり、要件を満たしているだけでは、執行猶予ができるだけであり、執行猶予が付されるわけではありません。
執行猶予を付するかどうかは、裁判官の判断に委ねられています。
そして、裁判官が執行猶予の可否を判断する基準となるのが、情状です。
刑事裁判における情状とは、犯行に至る経緯、犯行の動機、目的、犯行の計画性の有無、犯行の手段、方法、態様、結果発生の有無、程度、被害回復の有無、被告人の性格・年齢・境遇・犯罪の軽重・犯罪後の状況などから、どの程度の処分が適当であるのかを判断するために考慮する事情のことです。
裁判官からみて情状面が良好であれば、再犯のおそれがなく更生が期待できると判断されて、執行猶予が付く可能性が高まります。一方で、再犯のおそれが高い、反省がみられない、社会的に許されないといった事情があれば、厳罰に処するべきだと判断されて実刑判決が下されやすくなると考えられます。
3、執行猶予を獲得するためにできること
実刑判決が下されるのか、それとも執行猶予付きの判決となるのかは、被告人にとってはもちろん、その家族にとっても重大な問題です。できることなら、執行猶予付きの判決を望むというのが当然の心情でしょう。
では、執行猶予付き判決を獲得するためには、被告人本人やその家族はどのようなアクションを起こすべきなのでしょうか。
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(1)情状を良好にするための対策を尽くす
情状面を良好にするための対策としては、次のようなことがあげられます。
- 被害者との示談交渉を進めて、謝罪のうえで弁済・賠償の責任を果たす
- 反省を示すために反省文を作成し、裁判官に提出する
- 家族などによる監督を約束する
- 自助グループへの参加など、中毒症や依存症の治療に取り組む姿勢をみせる
- 社会復帰のため再就職先を確保する
これらは、情状面で良い評価につながりやすい対策の一例です。被告人自身の性格や生活状況、事件の内容、被害者の処罰意思など、さまざまな事情に照らせば、ほかにも有効な対策があるでしょう。
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(2)弁護士のサポートを受ける
執行猶予付き判決の獲得を目指すなら、弁護士に相談してサポートを求めるのが得策です。
また、弁護士は、これまでの知見や経験を基に、事件内容に応じた有効な対策を検討することができます。
できる限り早い段階でサポートを得たほうが、対策を講じる時間的な余裕も生まれます。特に、被害者との示談交渉には時間が必要になるので、素早くアクションを起こすことが大切です。なお、加害者やその家族が、直接示談交渉を行うのは難しく、弁護士のサポートは不可欠です。そういった面を考えても、早期に弁護士のサポートを得ることは、非常に重要な意味を持ちます。
4、執行猶予中の生活で注意するべきこと
実際に執行猶予付きの判決が下されると、一般社会へと復帰することになります。しかし、あくまでも、刑の執行を猶予されているだけであり、無罪放免になったわけではありません。
執行猶予中の生活で注意するべき点を確認しておきましょう。
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(1)罪を犯さない生活を心がける
執行猶予は、更生を期待したうえで刑の執行を猶予する、ある意味では温情的な処分ともいえます。
その期待を裏切って再び罪を犯すようなことがあれば、執行猶予が取り消されたうえで、新たな事件についても『反省がうかがえない』と評価されて、厳罰が下されるおそれがあります。くれぐれも、罪を犯さない生活を心がけるのは当然のことでしょう。 -
(2)執行猶予の条件を厳守する
家族がいないため被告人を監督する人物がいない、自力による更生が難しいと判断された場合は、執行猶予の条件として「保護観察」が付されることがあります。保護観察付きの執行猶予では、定期的に保護司との面談を受けて、保護司の指示に従った生活を送らなくてはなりません。
保護司の指示に従わなかった場合も、やはり執行猶予が取り消されてしまうことがあるので、条件を順守するよう心がける必要があります。
5、まとめ
刑事裁判で有罪となり、懲役・禁錮の刑罰が決まると「実刑判決」か「執行猶予付き判決」のいずれかが下されます。刑務所に収監されてしまうか、それとも社会生活を通じて更生を目指せるのかは、刑事事件の責任を問われている立場の方にとっても、その家族の方にとっても大きな問題でしょう。
執行猶予付き判決を獲得するためには、刑法で定められた要件を満たすだけでなく、情状面において有利な事情をそろえて裁判官にアピールしなくてはなりません。
勾留によって身柄を拘束されている場合は被告人本人が対策を講じることはできず、また、保釈中であっても被告人やその家族が個人的に有効な対策を講じるのは難しいといわざるを得ません。そのため、弁護士のサポートを得ることを、おすすめします。
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