法的に有効な遺言書を作成するために、知っておきたい書き方や注意点
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自分の死後、あなたがこれまで築きあげた財産は、遺産となります。具体的に、誰にどのように分けられるものなのか、考えたことはありますか? 相続トラブルは非常に多く、遺産の額が多額でなくとももめごとになり、一家離散となってしまうケースもあります。 そこで、生前から「遺言書」を残しておけばトラブルを回避することができます。しかし、その遺言書も、書き方や残し方を誤ると、逆に大きな火種を生む原因ともなってしまいます。 せっかく遺言書を書くのであれば、自分が見届けられなくなったあとからトラブルにならないようにしたいと考えるものでしょう。そこで今回は、効力のある遺言書を残す方法を、神戸オフィスの弁護士が解説していきます。
1、遺言書の種類や特徴を知っておこう
故人が遺産の分割などについて自らの意思をしたためておくことで、残された家族にその扱いを託す書類を「遺言書」と呼びます。遺言書といえば、直筆で書く遺言書を思い浮かべる方も多いと思われますが、法的に認められた遺言書の形式は、5つの形式があることをご存じでしょうか。
それぞれ書き方や保管方法などが異なることから、遺産相続トラブルを避けるためにも、種類や特徴を知ったうえで、もっとも有効な遺言書を作成する必要があります。まずは、遺言書の基礎知識として、それぞれの特徴を知っておきましょう。
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(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言の全文を自分で書いた遺言書になります。他人による代筆やパソコンによる作成ではなく、遺言の内容はもちろん、署名や日時など、すべて自書する必要があります。
紙とペンと印鑑さえあれば、自分ひとりで作成することができるため、手数料や手間がかからないというメリットがあります。しかし、法で定められている条件を満たさない遺言書は、法的な効力を有さないこととなります。また、偽造されたり紛失したりする可能性が少なからずあり、相続人に遺言書の存在を気付かれないまま遺産分割されてしまうこともあります。
相続人が自筆証書遺言書を発見した後、家庭裁判所を通じて検認という手続を経て、開封する必要があります。 -
(2)公正証書遺言
「公正証書遺言」は、公証人と呼ばれる公正証書の作成者によって作成され、公証役場に保管される遺言書です。原本が役場に保管されるので、紛失や偽装の恐れが少ない点が最大のメリットです。
公正証書遺言を作成する際は、遺言内容を明確に示す書類と、二人以上の証人を準備しておく必要があります。最終的には、公証人が作成した遺言書を確認し、遺言者が実印を、証人は押印して署名すれば完成します。
公正証書遺言のデメリットとしては、財産価値によって手数料が異なることでしょう。財産が多いほど手数料は高くなり、しかも相続人・受遺者ごとに分けて支払わなければなりません。詳しくは公証役場でご確認ください。
相続人が遺言書を確認する際は、公証役場へ出向き、コピーを発行してもらうだけです。開く場所などの限定はありません。もっとも正確でかつトラブルを起こしにくい遺言書の作成方法といえます。 -
(3)秘密証書遺言
「秘密証書遺言」は、自らしたためた遺言書を公証役場へ持参し、公証人と二人以上の証人に遺言の存在を証明してもらうことで完成します。遺言の内容を自分の死後まで誰にも知られたくないが、遺言書があることは証明しておきたいというケースで用いられます。
この秘密証書遺言は、自書する必要がなく、パソコン等で作成できるところが大きなメリットです。
一見、自筆証書遺言に公正証書遺言の要素を足して2で割ったかのように感じるかもしれませんが、以下のとおり、デメリットも存在します。
たとえば、自筆でなくともパソコンなどで本文を作成した遺言書でも作成できますが、誰も内容のチェックができません。あなたの死後、いざというときに内容に不備が見つかれば法的効力が認められません。また、遺言書があることは証明されますが、原本の保管は自分で行わなければなりません。自分で遺言を作成して保管するにもかかわらず、手続などの手間や手数料も発生するうえ、紛失や改ざんの可能性が残ってしまうのです。
相続人が「秘密証書遺言」を開封するときは、自筆証書遺言同様、家庭裁判所による検認の手続が必要となります。 -
(4)特別方式遺言書
特別方式遺言書は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言を作成することが物理的に不可能な場合に用いられる遺言書です。具体的には、病気などで死期が迫っているケース(危急時遺言)や、飛行機などの乗り物で隔絶されている状況(隔絶置遺言)などです。
あくまでも緊急時に対応するための形式であるため、平時の状況に戻り、遺言者が特別方式で遺言書を作成したあと6ヶ月生存したときは、その遺言書は効力を生じないこととなります。
2、法的に有効・無効な遺言とは?
遺言書を作成したとしても、法的に無効な内容だった場合、せっかく残した遺言の意味が失われてしまいます。せっかく作成するのですから、法的に効力を有する遺言について知っておき、無効となるケースなどに注意しておく必要があるでしょう。
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(1)法的効力がある内容について
残念ながら、遺言書に記載したことすべてが法的に効力を有する訳ではありません。法律によって、遺言書で法的に効力を有する内容が限定されています。
遺言として法的に効力を有する「遺言事項」は、以下のとおりです。
●相続に関すること
相続は被相続人の財産を分けることです。本来、法定相続人に関しては、民法によって、相続できる親族の範囲やそれぞれの割合が決められています。しかし、遺言書によって相続してほしい人やそれぞれの割合を任意で指定できます。
●財産の遺贈などに関すること
遺言によって、自らが他界した後、一定の財産を法人などの団体や第三者に遺贈することを指定しておくことができます。
●身分に関すること
たとえば、婚姻関係のない相手の子どもを認知すれば、法定相続人に加えることができます。もし生前、諸事情で認知できなかったときは、遺言書に残しておくことによって、認知することができます。また、家族に未成年者がいれば、その後見人や後見監督人を指定することもできます。
●遺言執行に関すること
遺言者は、遺言書の内容を法的に実現させ、完了するために、適切な者を指定することができます。その指定する人物は「遺言執行者」といいます。遺言執行者は、自然人でも法人でもかまいません。
●その他の指定
生命保険の受取人の指定や、仏壇や墓などといった祭祀財産の承継者の指定等も遺言書によって法的な効力を認めることができます。 -
(2)法的に無効な遺言書
どのような形式で遺言書を作成したとしても、法的に無効又は意味がないとされてしまうことがあります。準備していた遺言書が法的に無効になってしまうことほど切ないものはありません。あらかじめ、確認しておきましょう。
●感情等を記載した内容
「ひとり残る妻を大切にしてほしい」など、気持ちの問題となる願いについては、もちろん書き残すことはできますが、法的な意味はありません。
●遺言書に記載された財産内容と現実の財産が大きく異なるケース
相続を行う際は、詳細に財産を洗い出す必要があります。記載されている財産と、実際の財産に大きな違いがあるときは、遺言書の内容が無効になってしまうこともあるでしょう。遺言書には書いていない財産があるときなど、注意が必要です。
●自筆証書遺言で無効となるケース
自筆証書遺言の規定については、民法第968条によって「全文、日付、氏名を自書し、これに印を押さなければならない」とされています。次のようなケースで無効となりますので注意が必要です。
<無効になるケース>- パソコンで書かれた遺言書や遺言者以外が代筆した遺言書
- 押印がない
- 日付の書き忘れがある、日時が特定できない
- 署名がない、あるいは他人が署名した場合
- 相続する財産内容が不明確な遺言書
●公正証書遺言で無効となるケース
公正証書遺言に関しては民法第969条に定められています。そもそも専門家によって正確を期して作成されるため、無効となるケースは少ないのですが、まれに無効となってしまうケースがあります。
<無効になるケース>- 本来、証人になれない人物が証人となっていたケース
- 遺言書を残した人物が自らの財産や相続人となる人のことを把握できないほどに意思能力が低下してしまっているようなケース
3、遺言書を作成するメリット3つ
それでは、遺言を作成することのメリットとはどういったものがあるのでしょうか? 遺言は必要ないと考えている人もいるかもしれませんが、少しの財産でも遺言を作成しておくことで相続人は財産をスムーズに分配できるのです。
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(1)自分で思うように財産を分配することが可能
遺言書では自分の望むように財産を分配することができます。
土地や金銭など自分で思ったとおりに分配することができるため、死後に自由分配されることを防げます。
また、遺言で財産の分配が決められていた場合、相続人が遺産分配に悩まずに済みます。 -
(2)残された家族が相続でもめるのを防ぐ
遺言のもっとも大きなメリットともいえる部分ですが、家族間の相続トラブルを防ぐことができます。
遺言がなければ遺産分割協議によって相続を決めるため、相続人同士でもめることも非常に多くなっています。
家族のもめごとを避けるためにも遺言書は残しておくべきでしょう。 -
(3)法定相続人以外にも財産を分けることができる
法定相続で決められた分配に納得できない場合や、第三者や法人に財産を分配したいと考えている場合にも可能になるのです。
法定相続人に含まれない人物にも財産を分けたいと考えている場合には遺言書が必要です。
4、まとめ
遺言書は、遺族に気持ちを伝えたいだけであればどのように書いても問題ありませんが、遺産分割などに自分の意思を反映させたい場合には、ただ残しておけばいいというものではありません。法的に有効であるかどうか考えたうえで作成する必要があります。
自身の財産をすべて把握したうえで作成する必要もあり、形式をミスすることで無効となる危険性もあります。相続問題に詳しい専門家に相談しながら作成することをおすすめします。
神戸で遺言書の作成を考えているのであれば、ベリーベスト法律事務所・神戸オフィスへご相談ください。税理士との連携を組みながら、あなたの大切な財産をより適切な方法で相続人に受け取ってもらうための遺言書づくりをサポートします。
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