公正証書遺言に必要な証人は誰に頼めるの? 作成方法や注意点

2022年11月30日
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公正証書遺言に必要な証人は誰に頼めるの? 作成方法や注意点

日本公証人連合会の発表によると、令和3年1月から12月までに全国の公証役場で作成された公正証書遺言は、10万6028件でした。平成26年以降は、毎年10万から11万件の作成件数で推移してきましたが、令和2年のみ、9万7700件に減少しています。これは、相続法改正によって、法務局で自筆証書遺言の保管が可能になったためであると考えられます。

公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べて要件の不備により無効になるリスクや紛失、改ざんのリスクが低いため、有効な遺言書を確実に残したいという方にとって人気のある遺言書です。

しかし、公正証書遺言の作成にあたっては証人が必要になりますので、「誰に頼めばいいのか…」と悩まれている方もおられるでしょう。本コラムでは、公正証書遺言の証人になることができる人や公正証書遺言の作成方法について、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。

1、公正証書遺言とは

生前の相続対策として利用される遺言書ですが、その種類には、主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。

自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆で書く方式の遺言です。
紙とペンと印鑑さえあれば、いつでも手軽に作成することができ、費用もかからないため多くの方に利用されています。
しかし、遺言書には、民法で厳格な要件が定められています。そして、要件の一つでも欠いてしまうと、遺言自体が無効になってしまうリスクがあるのです
そのため、法律の知識がない方が作成する場合には注意が必要になります。また、法務局で保管をしない場合には、家庭裁判所での検認手続きが必要になりますので、相続人の負担が大きくなるというデメリットもあります。

公正証書遺言とは、公証役場の公証人が作成する遺言です。
公正証書遺言は、公証人という専門家が作成に関与することになりますので、自筆証書遺言のように形式面の不備によって遺言が無効になってしまうというリスクを回避することができます。
また、作成された公正証書遺言は、公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクもありません。さらに、公正証書遺言であれば、遺言者の死後、家庭裁判所での検認が不要であるため、直ちに遺言の執行が可能になるのです。
このように、公正証書遺言は自筆証書遺言に比べて多くのメリットがあります
しかし、公正証書遺言を利用するためには2人以上の証人がいなければならない、というデメリットもあるのです。

2、公正証書遺言の証人になれない人

公正証書遺言の作成にあたっては、2人以上の証人の立ち会いが必要になります。
証人になるために特別な資格は必要ありませんが、以下に該当する人については、証人になることができません。

  1. (1)未成年者

    公正証書遺言の証人は、遺言書の内容が正しいものであるかどうかを確認する必要があります。したがって、証人には、遺言書の内容を把握する能力が必要とされるのです。

    未成年者は知識も経験も未熟であると判断されるため、公正証書遺言の証人にはなることはできません
    なお、民法改正によって成年年齢が引き下げられたことにより令和4年4月1日以降は、18歳以上の方であれば未成年とは見なされず、公正証書の証人になることができるようになりました。

  2. (2)推定相続人、受遺者またはこれらの配偶者、直系血族

    公正証書遺言の作成にあたっては、遺言者が第三者から影響を受けることなく、自らの意思で作成することが必要になります。
    公正証書遺言の証人が、将来遺言者が亡くなったときに相続人や受遺者になる可能性のある方であった場合には、不当な影響を受けるおそれがあるため、公正証書遺言の証人にはなることができません。
    また、推定相続人や受遺者でなかったとしても、その人の配偶者や直系尊属である人には一定の利害関係が生じることになりますので、公正証書遺言の証人になることができないのです。

    このように推定相続人や受遺者とこれらの配偶者または直系尊属である人が公正証書遺言の証人から除外される結果、ほとんどの親族は、証人になることができません
    このため、家族には頼めないことから、「誰に証人を依頼すればいいのか……」と悩まれる方が多くおられるのです。

  3. (3)公証人の配偶者、四親等内の親族、公証役場の職員

    遺言書を作成するのは公証人であるため、公証人が自己に有利な内容の遺言書を作成することを防止するために、公証人と配偶者や四親等内の親族である人も、証人になることはできません。
    また、証人になる方が見つからないからといって、公証役場の職員に頼むこともできないのです

3、公正証書遺言の作成のための手続き

遺言公正証書を作成する場合には、以下のような手続きが必要になります。

  1. (1)遺言書の内容を考える

    公正証書遺言を作成する前提として、まずは、「誰に対してどのような財産を渡すか」という点について整理しておく必要があります。
    細かい文言については、公証人が作成してくれますので、遺言者としては、「どのような遺言にしたいか」について、箇条書きでもよいのでメモなどに記載しておくようにしましょう。

    なお、遺言書の内容を考えるにあたっては、ご自身がどのような財産を持っているのかを正確に把握する必要があります。
    公正証書遺言の作成を行う前に、現金、預貯金、不動産、株式、保険などの財産を洗い出して、財産目録を作成しておくようにしましょう

  2. (2)証人の依頼

    公正証書遺言を作成するためには、2人以上の証人が必要になります。
    証人を準備することができなければ、公正証書遺言を作成することができませんので、公証役場に行く前に証人になってくれる方を探す必要があります。
    証人になるには、特別な資格は必要ありませんが、先述したとおり親族の方などには証人を依頼することはできない点に注意してください

  3. (3)必要書類の収集

    公正証書遺言の作成にあたっては、以下の書類等が必要になります。

    • 遺言者の印鑑証明書
    • 遺言者と相続人の関係がわかる戸籍謄本
    • 相続人以外に財産を渡す場合には、その方の住民票の写し
    • 財産に不動産が含まれている場合、固定資産納税通知書又は固定資産評価証明書及び不動産の登記簿謄本
    • 証人予定者の名前、住所、生年月日、職業を記載したメモ


    遺言の内容によって必要とされる書類は異なってくるため、事前に公証役場に連絡して確認するようにしましょう。

  4. (4)公証人との打ち合わせ

    公証役場に行っても、その日のうちに公正証書遺言を作成することができるわけではありません。
    まずは公証役場に連絡をし、予約をした上、遺言者の希望する遺言内容を公証人に伝えて、公証人と打ち合わせをしながら、公正証書遺言の内容を詰めていく必要があります。
    複雑な内容の遺言書であったり、書類に不備があったりする場合には、複数回の打ち合わせが必要とされるケースもあります。
    できる限り少ない数の打ち合わせで済ませるためには、遺言書の原案の作成や必要書類の収集をあらかじめ完了させておいてから公証役場に行くことが重要です

  5. (5)公証役場での遺言書の作成

    公証人との打ち合わせが終わったら、公正証書遺言の作成日に証人2人と一緒に公証役場に出向きます。
    健康上の理由などで公証役場に出向くことができない場合には、公証人が自宅や病院に来てくれることもあります。
    公証役場での遺言書の作成は、以下のような流れで進みます。

    • 遺言者、証人の本人確認
    • 遺言者が遺言内容を口授して公証人が筆記
    • 公証人が筆記した内容を遺言者と証人に読み聞かせ
    • 遺言者と証人が内容を確認し、間違いなければ署名押印
    • 公証人の署名押印


    なお、完成した公正証書遺言の原本は、公証役場で保管され、正本と謄本が遺言者に渡されます。

4、遺言作成は遺留分の配慮が必要

遺言書を作成する場合には、相続人の遺留分にも配慮する必要があります。

  1. (1)遺留分とは

    「遺留分」とは、被相続人が有していた相続財産の中で、法律上その取得が一定の相続人に留保されていて、被相続人による自由な処分に制限が加えられている持分的利益をいいます。
    遺留分が認められているのは、兄弟姉妹以外の相続人であり、各相続人の遺留分割合は、以下のように定められています。

    • 父母などの直系尊属のみが相続人である場合:法定相続分×3分の1
    • それ以外の場合:法定相続分×2分の1
  2. (2)遺留分を侵害する遺言は遺留分侵害額請求をされるリスクがある

    相続人には遺留分が保障されていますが、遺留分を侵害するような内容の遺言書も、それ自体は有効です。
    したがって、「長男にすべての遺産を相続させる」という遺言であっても、有効な遺言として成立するのです。
    しかし、このような不公平な内容の遺言書を作成した場合には、相続人間で不満が生じてしまいます
    少ない遺産しかもらえなかった相続人は、法律上保障されている最低限の取り分を取り戻すために、遺留分侵害額請求をすることができます。
    つまり、相続人同士の争いを防止しようとして遺言書を作成したにもかかわらず、遺留分への配慮をしなかったばかりに、遺留分をめぐる争いを招いてしまうおそれがあるのです。
    このような事態を回避するためには、相続人の遺留分にも配慮した内容で遺言書を作成することが大切です。

5、まとめ

公正証書遺言書を作成する場合には、2人以上の証人が必要になります。
証人になること特別な資格は必要とされませんが、推定相続人や親族など、利害関係のある方は証人になることができません。

身の回りで証人になってもらえる方が見つからないという場合には、遺言書の作成とともに証人についても弁護士に依頼するとよいでしょう。
遺言書についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスまでお気軽にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています