生命保険金は遺産分割や遺留分請求の対象に含まれる? 弁護士が解説
- 遺留分侵害額請求
- 生命保険
- 遺留分
大阪国税局の報道発表資料をみると、平成30年に神戸市のある兵庫県で発生した相続の9.2%に、相続税が課税されていることが分かります。相続した財産には、さまざまな資産があると思います。なかには、生命保険金を受け取った方もいるでしょう。
ここで疑問になるのが、生命保険金が相続財産に含まれるのか、という点です。たとえば生命保険金を受け取ったことを快く思わない他の相続人が、生命保険金も含めて相続財産だと主張して、遺留分を請求してきた場合はどうなるのでしょうか。
本コラムでは、生命保険金と遺産、遺留分の関係についてベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、生命保険の死亡保険金は遺産分割・遺留分請求の対象になる?
生命保険金は、原則として相続財産には該当しません。では、遺留分には含まれるのでしょうか。生命保険と相続財産の関係について、理解していきましょう。
-
(1)生命保険の死亡保険金は遺産分割に含まれない
生命保険は、被保険者である被相続人が死亡すれば保険会社から指定されている受取人に死亡保険金が支払われます。死亡保険金は受取人の財産になるので、遺産分割の対象になることは原則としてありません。
なお、死亡保険金は税金の面ではみなし相続財産となるため、相続税の課税対象にはなります。 -
(2)遺留分とは
死亡保険金が、遺産分割の対象外であることは前述のとおりですが、遺留分の請求対象にはなるのでしょうか。遺留分とは、被相続人の子どもや配偶者などの法定相続人(兄弟姉妹を除く)が有する最低限の取り分と言えます。
つまり、最低限の取り分を侵害するような相続が行われた場合、遺留分を有する相続人は遺留分侵害額請求をすることが可能です。遺留分侵害額請求が認められれば、遺留分に相当する財産を取得することができます。
遺留分の具体的な割合は、法定相続人の立場によって異なります。
たとえば、配偶者と子どもひとりが遺留分権利者であるケースの場合、それぞれ1/4ずつがそれぞれの遺留分になります。
遺留分の請求対象になる財産は、下記のとおりです。- 相続開始時の被相続人の財産
- 相続開始前の1年間になされた贈与
- 遺留分権利者に損害を加えることを知っていながら行われた贈与
- 特別受益
-
(3)遺留分請求の対象になるのか
財産が多ければ多いほど、遺留分の金額も当然増えることになります。そのため生命保険が遺留分の対象になるかどうかは、重要な問題でもあるのです。
では、生命保険の死亡保険金は、遺留分請求の対象になるでしょうか。
結論として、死亡保険金は受取人の固有の財産とされるため、遺留分の計算対象にならないのが原則です。
ただし、例外となるケースがあるので注意が必要です。詳しくは、次の章で解説します。
2、特別受益と生命保険
原則として遺留分の計算対象にはならない生命保険ですが、あまりに不公平で過大な生命保険は「特別受益」に準ずるものと評価され、遺留分を算定する基礎と判断されるケースもあります。では、この点について解説していきます。
-
(1)特別受益とは
特別受益の制度は、被相続人からの遺贈や贈与で特別に利益を受けた相続人とその他の相続人の間の不均衡を是正するためにあります。
-
(2)特別受益と遺留分
特別受益にあたる遺贈や贈与は、遺産分割や遺留分の算定に当たり、遺産の算定基礎となります。
遺留分請求における特別受益の要件は次のとおりです。- 遺贈または婚姻もしくは生計の資本として贈与があったこと
- 遺贈または贈与を受けたのが共同相続人であること
- 贈与が相続開始前の10年間にされたものであること
遺留分の制度の趣旨は、遺言などで奪うことができない法定相続人に対しての最低限の相続分を確保することにあります。
法が保証する最低限の相続分である遺留分は、被相続人の持ち戻し免除の意思表示によっても侵害することはできないとするのが一般的な考え方です。
したがって、仮に死亡保険金について持ち戻し免除の意思表示があったとしても、特別受益に準ずると判断されるときには、遺留分算定の基礎財産には含まれることになります。
3、生命保険の死亡保険金が遺留分の対象になるケース・ならないケース
では、死亡保険金が遺留分の対象になるケースと、ならないケースについて、具体例をもとにみていきましょう。
【ケース】
相続人は、前妻の子・Aさんと後妻さんである配偶者・Bさんの2人です。故人である被相続人はBさんのみを受取人とする生命保険に入っており、Bさんにすべての財産を相続させる遺言をしていました。
なお遺留分は、AさんとBさんともに4分の1ずつになります。
-
(1)遺留分の対象にならないケース
被相続人の相続財産が4,000万円で、Bさんのみを受取人に指定していた死亡保険金が400万円であったとします。相続財産4,000万円に対して死亡保険金400万円は、一般的に著しく不公平であるとは言えないでしょう。
そのためこのようなケースでは、前妻の子Aさんが主張できる遺留分は、相続財産の4,000万円の1/4にあたる1,000万円相当になると考えられます。 -
(2)遺留分の対象になるケース
被相続人の相続財産が400万円で、Bさんのみを受取人に指定していた死亡保険金が4億円だったとします。このようなケースでは、死亡保険金が不相当に過大と評価される可能性が十分あります。
こういったケースでは、死亡保険金が特別受益に準じるものとして遺留分の計算対象になる可能性があります。
このケースで死亡保険金が特別受益に準じて扱われるとすると、Aさんは4億400万円の1/4である1億100万円相当を遺留分として請求できることになります。
4、遺産相続トラブルを弁護士に相談するメリット
生命保険が遺留分算定に含まれるのかなど、遺産相続においてはさまざまな疑問やトラブルが生じることは少なくありません。
遺産相続が発生した際は、できるだけはやく弁護士に相談することをおすすめします。また、弁護士に相談することで、多くのメリットを享受することができます。
-
(1)他の相続人との交渉を任せられる
弁護士に遺産相続トラブルを一任することで、弁護士が代理人として他の相続人との話し合いを進めることができます。
遺産相続トラブルの場合、親族間で話し合いをしなければならないため、立場によって言いたいことが言えない、といった状況になることも少なくありません。弁護士が代理人となることで、正当な主張ができるのはもちろんのこと、トラブルの相手と直接顔を合わせずにすむため、精神的な負担を減らすことができるでしょう。 -
(2)法的知見に基づくアドバイスを受けられる
本コラムで取り上げていた生命保険に関するトラブルのように、遺産相続は家族構成や遺産の状況といった具体的な事情によって、とるべき対応、手続きが異なります。
弁護士であれば、法的知見や判例をもとに、適切なアドバイスをすることが可能です。
また、遺産相続の場合は、期限が定められている手続きや、用意するべき書類など対応しなければならないことも多岐にわたります。そこに、親族間でのトラブルが発生してしまうと、個人で解決しようとするのは困難と言わざるを得ないでしょう。
トラブルが発生した場合は、法的知見などに基づき適切な対処法をアドバイスするほか、煩雑な作業についても、弁護士と相談しながら進めていくことで、余計な時間や労力をかけずにすみます。また、それらの対応を一任することも可能です。
弁護士に依頼することで、複雑になりがちな遺産相続一切の手続きを、滞りなく進められることが期待できます。
5、まとめ
本コラムでは、生命保険と遺留分の関係について解説していきました。
特定の相続人が受け取った死亡保険金は、基本的には相続財産の対象とならず遺留分請求の対象にもならないことがお分かりいただけたでしょうか。しかし、特別受益に準ずる場合は、遺留分請求の対象に含まれます。
生命保険の死亡保険金に関して、トラブルを抱えてしまったときは、早期に弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスには、遺産相続に関するトラブルの対応実績が豊富な弁護士が在籍しています。ご相談者のお話をしっかりとうかがいながら、遺産分割トラブルを解決できるように尽力します。まずは、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています