通勤手当の不正受給が発覚! 企業がとるべき対処法と防止策
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神戸市の記者発表によると、令和2年6月、市職員の男性が公共交通機関で通勤しているかのように装って通勤手当を不正に受給していたという事案が発生し、当該職員は減給の懲戒処分を受けています。
通勤手当の不正受給は単なるモラル違反という域を超えて、会社や組織をだます悪質な行為といえます。不正受給が発覚した場合、企業は直ちに適切な対策を講じる必要があります。
このコラムでは、通勤手当の不正受給が発覚した場合に企業がとるべき対策について、神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、通勤手当の不正受給|典型的な3つのケース
通勤手当を受給するには、現在の住所、通勤方法、通勤経路などを会社に示して申請するのが一般的です。正しい内容で申請すれば不正受給などは起きるはずもありませんが、実際には多くの会社で大なり小なりの不正受給が発生しているようです。
では、どのような方法で通勤手当の不正受給がおこなわれているのでしょうか?
典型的な3つのケースを解説します。
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(1)実際には使用していない交通機関で申請
実際には徒歩・自転車・自家用車などを利用して通勤しているのに、電車・バスといった公共交通機関を利用しているかのように装って申請しているケースです。
自宅から最寄りの駅を起点として申請しながら、1駅~2駅先までは徒歩・自転車を利用するなどのケースはめずらしくないでしょう。 -
(2)最短経路を避けて申請
通勤経路を最短経路ではなく、わざと遠回りをするルートで申請するケースです。
通勤費用が高くなるように申請し、実際には最短・最安になるルートで通勤することで、差額分を不正受給する方法です。 -
(3)実際とは異なる住所で申請
実際には会社に近い場所に住んでいるのに、遠い住所で申請して不正に通勤手当を受給するケースです。
会社に近い場所で新居を構えたのに、引っ越しの事実を会社に報告せず通勤手当を不正受給する、遠方からの通勤で申請しながらセカンドハウスを構えて通勤しているといった状況が考えられます。
2、通勤手当の不正受給が発覚! 対処法は?
会社の独自調査や、ほかの社員からのリークによって通勤手当の不正受給が発覚したとき、どのように対処すれば良いのでしょうか?
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(1)不正受給を行った事実を確認する
まずは事実関係を精査し、不正受給の理由を確認する必要があります。
不正受給には、大きくわけて2つのケースが考えられます。●ミスが原因で不正受給が発生している
引っ越し後の住所変更を失念していた、通勤経路の変更を申請していなかったなど、人為的なミスが原因となって不正受給が生じているケースです。
●故意に虚偽の申請をして不正に通勤手当を受給している
故意に虚偽の申請をして不正受給する悪質なケースです。
単なるミスなのか、あるいは故意によるケースなのかの確認は最優先事項でしょう。
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(2)適切な処分を検討する
不正受給の理由に応じて、適切な処分を検討する必要があります。
申請漏れなどのミスが原因であれば、厳しく注意・警告をした上で申請の修正を求めることになります。懲戒処分を下す場合も、戒告やけん責などで済ませるケースが多いでしょう。
一方で、不正受給を目的に虚偽の申請をおこなっていた悪質なケースや、不正受給が長期・多額にわたる場合は、降格や懲戒解雇といった厳しい処分も含めて検討することになります。 -
(3)不正受給分の返還を求める
不正受給の全容を解明し、どれだけの不正受給があったのかを精査した上で、返還を求めます。
不正に受給された通勤手当は、民法第703条の「不当利得の返還義務」の規定に従い、他人に損失を及ぼした者には返還の義務が課せられます。返還義務の時効は、不正受給があったことを企業が知った時から5年または不正受給が行われた時から10年です。
なお、返還を求める際に、給与等から不正受給分を相殺することは、労働基準法における賃金全額払いの原則に反します。例外はあるものの、別途請求するのが基本になります。
3、通勤手当の不正受給と労働災害の関係
通勤手当の不正受給において典型的なケースとして「申請している通勤方法とは異なる」、「申請しているルートとは異なる」といった方法が考えられます。
不正受給も大きな問題ですが、社員が申請外のルートで通勤している途中で交通事故に遭うなどの事態があれば、問題はさらに深刻化します。
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(1)通勤中の事故も労働災害になる
勤務中に負傷などをした場合は「労働災害」として扱われます。
そして、出社・帰宅の途中も勤務中と同じ扱いを受けるので、通勤時間中の事故などによって負傷した場合は労働災害となります。 -
(2)虚偽申請の場合は?
通勤手当の申請において虚偽の通勤方法・ルートを提出していれば、事故の状況から「不正受給だ」と発覚するでしょう。すると、会社としては申請に虚偽があったことや、通勤手当の不正受給を理由に労働災害としての扱いを拒否したいところです。
ところが、たとえ申請に虚偽があっても、合理的なルートで通勤していることが明確であれば労働災害として認めざるを得ません。たとえば、通勤手当を不正受給するためにわざと遠回りのルートで申請しながら、実際は最短距離のルートで通勤していて事故に遭ったというケースでは「合理的な通勤ルート」として労働災害の扱いを受ける可能性があります。
虚偽申請による不正受給であることだけを理由に労働災害としての扱いの回避はできません。最終的な結論を下すのは労働基準監督署なので、その判断を待つことになるでしょう。
4、通勤手当の不正受給を防ぐ方法
通勤手当の不正受給をはたらいている人の多くは、罪の意識がないことも少なくないでしょう。しかし、会社としては不正によって余分な人件費が発生することは、なんとしてでも防ぎたいところです。
通勤手当の不正受給を防ぐには、どのような対策が有効なのでしょうか?
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(1)就業規則の見直し
通勤手当の不正受給を防ぐために、または発覚した際の処分を明確化するためにも、就業規則の見直しは必須です。
通勤手当の支給条件や支給額、証明書類の提出などを厳格に定めることに加えて、不正が発覚した際の懲戒処分の内容、返還の方法・金額なども詳細に取り決めることを検討しましょう。ミスを防止するために、住所や通勤方法・経路の変更が生じた場合は直ちに報告・修正するよう義務付ける必要もあります。
また、出張費用などのように実費精算にすることや、定期券などを支給する現物支給への切り替えも有効です。
ただし、現物支給にする場合は、労働協約の締結が必要です。就業規則の改変も必要となるので、弁護士や社会保険労務士などのサポートを得ながら進めると良いでしょう。 -
(2)チェック体制の見直し
従業員から提出を受けた通勤手当の申請について、従前に増したチェック体制の強化が必要です。
電車やバスの経路を検索できるサービスやネット上の地図などを利用し、提出を受けた通勤経路が適切であるのかをチェックする、定期券などのコピーの提出を義務付けるといった方法が考えられます。 -
(3)勤務地の近くに住むことを優遇
通勤手当の不正受給が発生する要因のひとつに「遠方から通勤するほど手当が高額になる」という点が挙げられます。このようなことを踏まえると、勤務地の近くに住むことを優遇する制度を採用する企業が増えていることは、注目に値するでしょう。
会社から一定の距離範囲内に住居を置くことで、公共交通機関を利用せずに通勤できる可能性が増えるほか、使用する交通機関も限定されるので、そもそも虚偽申請が起こりにくい状況になります。
もちろん、このような方法を採用しても、次は「近隣に住んでいると虚偽申請をする」といった不正が生じるリスクがあるので、就業規則の改変や申請にかかる証明の提出などは必須です。
5、まとめ
多人数、長期間に及ぶ通勤手当の不正受給がおこなわれていたとすれば、多額の人件費が不当に支給され続けていることになります。
従業員による通勤手当の不正受給が発覚したら、直ちに事実関係を精査した上で、不正を正し、適切な手当支給ができるように就業規則等の修正や当事者への処分を検討する必要があるでしょう。
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