傷害罪・暴行罪の違いとは? ケンカに適用される犯罪と刑罰を解説

2021年03月25日
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傷害罪・暴行罪の違いとは? ケンカに適用される犯罪と刑罰を解説

他人に殴る・蹴るといった暴力をふるう行為は、刑法において定められた犯罪のなかでは「粗暴犯」という罪種に分類されます。
兵庫県警察が公開している犯罪統計によると、令和元年中に兵庫県内で警察が認知した粗暴犯の件数は3932件で、うち3556件が検挙されています。検挙率90%という高い数値を記録しているため、粗暴事件を起こした場合は高確率で検挙されるといえるでしょう。

粗暴犯に分類される犯罪の代表格となるのが「傷害罪」と「暴行罪」です。傷害罪と暴行罪は、刑罰の重さに大きな違いがあるので、どちらが成立するのかは重大な問題になります。では、もしケンカになってしまい、相手に暴力をふるった場合、傷害罪と暴行罪のどちらが成立するのでしょうか?

このコラムでは「傷害罪」と「暴行罪」の違いと、ケンカで適用される可能性がある犯罪について、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。

1、ケンカで問われやすい罪

たとえ仲の良い友人や顔見知った知人の間でも、ケンカになり何らかの危害を加えてしまうと犯罪が成立することがあります。まずは、ケンカで問われやすい罪をみていきましょう。

  1. (1)傷害罪

    ケンカの相手に暴力をふるい、相手にケガを負わせてしまうと、刑法第204条の傷害罪に問われる可能性があります。

    刑法の規定上ではケガの程度は問われていないので、条文だけに注目すれば、かすり傷や打撲・打ち身といったごく軽微な負傷でも傷害罪が成立することになります。

  2. (2)暴行罪

    暴力を受けた相手がケガをしなかったとしても成立するのが、刑法第208条の暴行罪です。
    殴る・蹴るといった具体的な暴力行為だけでなく、髪の毛を引っ張る、腕をつかむ、胸ぐらをつかむといった行為も暴行罪の対象です。

  3. (3)傷害致死罪

    相手に暴力をふるい、暴力によるケガで相手が死亡してしまった場合は、刑法第205条の傷害致死罪が成立します。

    法定刑は3年以上の有期懲役です。
    有罪判決を受ければ、原則として最低でも3年、長ければ有期懲役の最長となる20年もの間にわたって刑務所に収監されてしまいます。

  4. (4)脅迫罪

    口論の際に、相手に対して危害を加える内容を告知すると、刑法第222条の脅迫罪に問われる可能性があります。

    相手の生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知によって成立するほか、危害を向けられる対象が相手の親族である場合にも成立します。たとえば、口論の相手本人に「痛い目にあわせてやるぞ」と告げる行為だけでなく、相手の家族を指して「家族全員を殺してやる」と告げるようなケースも処罰の対象です。

    法定刑は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

  5. (5)器物損壊罪

    ケンカの際に相手の所有物を壊すと、刑法第261条の器物損壊罪が成立します。
    持ち物を壊すだけでなく、相手の自宅の窓ガラスを割る、ペットにケガを負わせるといった行為も処罰の対象です

    法定刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金、もしくは拘留または科料です。
    「拘留」とは30日未満の刑事施設への収容、「科料」とは1万円以下の金銭徴収を指します。軽微な罰ともいえますが、前科はついてしまいます。

  6. (6)公務執行妨害罪

    ケンカの通報を受けて駆けつけた警察官に対して暴行や脅迫を加えると、刑法第95条1項の公務執行妨害罪が成立します。
    法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。

    なお、公務執行妨害罪が保護しているのは公務であり、公務員の身体や精神を保護しているわけではありません。つまり、ケンカ相手の職業が公務員であった場合でも、職務に従事していない場合であれば公務執行妨害罪は適用されません。

2、傷害罪と暴行罪の違い

ケンカに適用されることが多い傷害罪と暴行罪は、非常に近い関係にある犯罪です。ここでは、傷害罪と暴行罪の違いを確認しましょう。

  1. (1)同じ行為でも結果次第で区別される

    傷害罪と暴行罪は、“相手に危害を加える”という点に注目すると、行為としては同じものです。

    では、刑法の条文を比較してみましょう。

    • 傷害罪……人の身体を傷害した者
    • 暴行罪……暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき


    傷害罪と暴行罪の違いは、結果の違いにあります。殴る・蹴るといった有形力を行使することで、相手が負傷すれば傷害罪が、負傷しなければ暴行罪が成立します。
    つまり、人に有形力を行使した際には、少なくとも暴行罪が成立し、相手の負傷という結果が生じた場合には、さらに重い犯罪である傷害罪が成立するものだと考えれば良いでしょう。

  2. (2)刑罰は傷害罪のほうが重い

    傷害罪と暴行罪を比較すると、傷害罪のほうが重い刑罰が規定されています。

    • 傷害罪……15年以下の懲役または50万円以下の罰金
    • 暴行罪……2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料


    仮にもっとも重く処断された場合、暴行罪は懲役2年、傷害罪は懲役15年です。
    実際に下される刑罰は行為態様や結果の重さ、動機などによって判断されるので、相手に重症や後遺症を負わせるような結果が生じれば厳しい刑罰が科せられることになるでしょう。

3、傷害罪・暴行罪が成立するケース

傷害罪・暴行罪はどのような状況で成立するのでしょうか?適用されるケースをそれぞれみてみましょう。

  1. (1)傷害罪が成立するケース

    傷害罪がケンカに適用されるのは、次のような状況が考えられます。

    • 相手の顔面を殴って唇に裂傷を負わせた
    • 相手を物でたたいて傷を負わせた
    • 相手に殴る・蹴るなどの暴行を加えて骨折や打撲傷を負わせた


    刑法の条文では「人の身体を傷害した者」と示されているだけです。どの程度のケガを負わせれば傷害罪が適用されるのかの具体的な基準は明示されていませんが、傷害とは人の生理機能や健康状態を害することであると考えられます。そのため、出血を伴うようなケガや骨折などの重症に限らず、内出血などのごく軽微な負傷でも傷害罪が成立する可能性があります。
    なお、検察官の判断により、軽微な負傷の場合は傷害罪として起訴するのではなく暴行罪として起訴することもあります。

  2. (2)暴行罪が成立するケース

    暴行罪が適用されるのは「人を傷害するに至らなかった場合」です。
    ケンカに適用されるケースとしては、次のような状況が考えられます。

    • 口論の末に激高し、相手の胸ぐらをつかみかかった
    • 相手を羽交い締めにした
    • 相手の髪の毛をつかんで引っ張った
    • 相手の首を絞めた


    相手にケガがなくても、胸ぐらをつかむ、髪の毛を引っ張るといった有形力の行使を相手に向ければ、暴行罪が成立します。

4、未成年が暴力をふるってしまった場合の処分

20歳未満の未成年が起こした犯罪事件のことを「少年事件」といい、成人が起こした事件とは区別して処分を受けることになります。

  1. (1)原則、刑罰は科せられない

    未成年の少年が起こした事件は、少年法第3条の規定に従って家庭裁判所の審判に付されます。家庭裁判所の審判によって下されるのは、少年の更生を目指した保護処分であり、成人のように刑罰を科せられることはありません。

    ただし、家庭裁判所の調査や審判の結果、事件の内容や本人の性格などから、刑事処分を科すのが相当と判断された場合は、成人と同様に検察官へ送致され、刑事裁判を受けることがあります。また、故意の犯罪行為で相手が死亡してしまった場合で、犯罪当時の年齢が16歳以上であれば、原則として家庭裁判所は少年を検察官に送致します。

  2. (2)未成年でも逮捕されることはある

    未成年は刑罰を科せられないのが原則ですが、これは事件の調査・捜査を経たあとの処分の話です。事件の内容を明らかにするための調査・捜査を進めるにあたって、少年の身柄を確保する必要がある場合は、逮捕、勾留や(勾留に代わる)観護措置が取られる可能性があります。

    そのため、未成年だから逮捕されないという考え方は間違いです。

5、傷害罪・暴行罪の容疑をかけられたら弁護士に相談

ケンカが原因で傷害罪・暴行罪の容疑をかけられているなら、直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。

  1. (1)逮捕を避けるためのサポートが得られる

    いまだ被害者が警察に届け出をしていない場合や、すでに被害届は提出されているものの逮捕されていない場合は、被害者との示談交渉を進めることで逮捕を回避できる可能性が高まります。
    ただし、当事者同士が直接話し合うことはおすすめできません。感情的になっているケースも少なくないため、新たなトラブルの火種に発展する可能性もあります。示談交渉は弁護士を通して行うのが賢明です。

  2. (2)早期釈放・不起訴処分の獲得が期待できる

    逮捕されてしまうと、逮捕から起訴・不起訴の判断までに最長23日の身柄拘束を受けるおそれがあります。この期間は、自宅へ帰ることも、会社や学校へ通うことも許されません。社会生活への影響を最小限に抑えるためには、早期釈放を目指す必要があります。

    早期釈放のためには、やはり被害者との示談交渉が有効です。
    また、示談が成立すれば、検察官が不起訴処分を下す可能性も高まります。不起訴処分が下された事件は刑事裁判に発展しないので、刑罰を受けることもありません。

  3. (3)刑罰の軽減が期待できる

    検察官が起訴に踏み切る事態を避けられないときは、できるだけ刑罰を軽くするための対策が必要です。弁護士に依頼して被害者との示談交渉を進めてもらうなどの方法で、執行猶予つき判決の獲得や刑罰の軽減が期待できるでしょう。

    また、傷害・暴行事件では、加害者が犯罪事実を争わない場合に限って「略式手続」が取られるケースもめずらしくありません。略式手続では、公開の裁判が開かれないうえに、下される刑罰は罰金・科料のみです。罰金を納付すれば即日で釈放されるため、素早い社会復帰が実現するでしょう。
    有罪判決が避けられない状況であれば、略式手続を受け入れることは得策ともいえます。ただし、必ず罰金・科料が科せられるため、前科がつくことになります。また、争うべき事実がある事件では、おすすめできる方法ではありません。

    そのため、検察官から打診を受けた場合は、まずは弁護士に相談したうえで適切に判断する必要があるでしょう。

6、まとめ

親しい友人や知人とでも、意見の食い違いやちょっとした対立からケンカに発展してしまうことがあります。口論で済めば特に大きな問題にはなりませんが、相手に暴力をふるってしまえば暴行罪に、相手にケガをさせてしまえば傷害罪に問われてしまいます。相手が警察に被害届を提出すれば刑事事件として逮捕・刑罰を受けるおそれもあるので、ケンカ相手に暴力をふるってしまった場合は、弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。

刑事事件の解決に向けたサポートは、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスにおまかせください。
傷害・暴行事件をはじめとした刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、逮捕の回避や早期釈放・不起訴処分の獲得を目指して力を尽くします。未成年の少年が起こしてしまった事件でも、厳しい処分の回避に向けてサポートを行いますので、まずはベリーベスト法律事務所 神戸オフィスに、ご相談ください。

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