逮捕・監禁罪が成立する要件|量刑判断のポイントや実際の事例を紹介

2021年02月04日
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逮捕・監禁罪が成立する要件|量刑判断のポイントや実際の事例を紹介

平成31年2月、女性を監禁のうえで殴る・蹴るなどの暴行を加えて怪我をさせた疑いで、会社員の男を含めた20代の男女3人と、10代の少年3人の合計6人が、兵庫県警少年課と神戸北署に逮捕されました。

令和元年の「検察統計調査」によると、令和元年中に「逮捕・監禁」で受理された事件の数は467件でした。逮捕・監禁といえば重大事件として大々的に報道されるイメージがあるため、年間に467件もの事件が発生しているという事実に驚く方も多いでしょう。

このコラムでは「逮捕・監禁」の罪について、成立の要件や刑罰、量刑判断のポイントなどを神戸オフィスの弁護士が解説します。

1、逮捕・監禁罪とは? 法的根拠と成立要件

まずは「逮捕・監禁罪」が、どのような犯罪なのかを確認しましょう。
逮捕・監禁罪は、刑法第220条で、次のように規定されています。

【刑法第220条 逮捕及び監禁】
不法に人を逮捕し、または監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。


逮捕・監禁罪は、条文に示されているとおり「不法に人を逮捕し、または監禁した場合」に成立します。

逮捕・監禁罪における「逮捕」とは、人の身体に対して直接的な拘束を加えてその行動の自由を奪うことをいいます。逮捕が成立するには、行動の自由を奪われている時間が、ある程度は継続している必要があります。そのため、自由な移動を制限されている時間が瞬間的なものであれば、逮捕は成立しないものの、暴行罪などに問われる可能性があります。

一方「監禁」とは、人を一定の場所から脱出できない、または脱出を著しく困難にすることで、場所的移動の自由を奪うという意味です。
もっとも典型的なケースは、閉鎖された空間に閉じ込める行為ですが、監禁が成立するのは脱出不能の閉鎖空間などに限られません。たとえば、施錠をしていない部屋でも出入り口に見張り役が立っていて自由に出入りができないような状況であれば、監禁が成立する可能性があるでしょう。

なお、条文に「不法に」と示されているのは、捜査機関による逮捕や私人による現行犯逮捕等の正当な行為について、犯罪が成立しないことを注意的に規定したものです。

2、逮捕・監禁罪の罰則

逮捕・監禁罪の罰則は、3か月以上7年以下の懲役です。

懲役刑が定められているのみで、罰金刑の規定はありません。つまり、刑事裁判で有罪判決が下された場合は必ず懲役刑が下されることになります。

3、逮捕・監禁罪における量刑判断のポイント

逮捕・監禁罪で有罪になると、3か月以上7年以下の懲役が科せられます。懲役が3か月で済まされるのか、7年にもわたるのかには大きな差がありますが、実際の刑事裁判ではどの程度の刑罰が科せられているのでしょうか。

逮捕・監禁罪に関する実際の量刑や、刑事裁判で量刑を判断する際に重視される基準を見ていきましょう。

  1. (1)実際の量刑

    裁判所の令和元年度「司法統計」では、各罪名における第一審の有罪人員が刑期別で公開されています。

    令和元年中に逮捕・監禁罪で有罪判決が下されたのは78人でした。
    刑期別の人員は次のとおりです。

    • 15年以下:1人
    • 10年以下:2人
    • 7年以下:1人
    • 5年以下:4人
    • 3年:実刑3人・執行猶予4人
    • 2年以上:実刑6人・執行猶予12人
    • 1年以上:実刑12人・執行猶予25人
    • 6か月以上:実刑5人・執行猶予3人


    実際に逮捕・監禁罪で有罪判決が下されたケースを見ると、執行猶予がつかない3年を超える懲役刑を受けたのは、1年間で8人でした。もっとも多かったのが1年以上~2年以下で、実刑・執行猶予を合計すると37人にこの範囲の量刑が言い渡されています。

    刑法第25条の規定により、一定の条件を満たし、かつ3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言い渡しを受けた場合に限り、執行猶予が可能です。つまり、懲役しか設けられていない逮捕・監禁罪においては、言い渡される判決が3年以下に収まるのか、それとも3年を超えてしまうのかが重要な分岐点になります。

  2. (2)量刑判断の基準

    逮捕・監禁罪は「場所的移動の自由」を奪う罪です。
    裁判官が量刑を判断する場合には、場所的移動の自由を奪った程度や方法が重視されます。逮捕・監禁の時間が長期にわたれば量刑は重く傾きやすいでしょう。また、逮捕・監禁を実行する手段として、加えていた暴行の程度や態様によっては、「悪質性が高い」と評価され、やはり量刑が重く傾く理由となります。

    そのほか、逮捕・監禁罪における量刑判断の基準としては次のような要素が挙げられます。

    • 逮捕・監禁に至った目的
    • 逮捕・監禁に至るまでの計画性
    • 共犯者の有無
    • 加害者と被害者の関係
    • 加害者本人の性格や素行


    実際の事件においては、これらの要素を総合的にみて裁判官が量刑を判断します。逮捕・監禁の罪を犯したといえども、加害者の主張にくむべき事情があると判断される場合は、量刑にも影響する可能性はあるでしょう。

4、逮捕・監禁罪が成立した具体例

実際に逮捕・監禁罪が成立した具体例を見ていきましょう。

  1. (1)多数人で長時間にわたって取り囲む行為

    【最高裁 昭和33年7月11日判決】
    鉱山会社の労働問題において逮捕・監禁罪が成立した事例です。

    労働組合員であった被告人らが、人員整理などを不服として上司2名を連行したうえで、組合員数百名が円陣を作って取り囲み脱出不能の状態にしたことで、逮捕・監禁罪の成立を認めています。場所的移動の自由を侵害していれば、手足を縛る・閉鎖空間に閉じ込めるなどの行為がなくとも逮捕・監禁となる事例です。

    また、この事例では被告人らが「労働争議のための正当行為である」と主張しています。裁判所は、暴行・脅迫をもって業務遂行を妨害する行為は労働争議の本質と手段方法を逸脱していると判示して、正当性を否定しました。

  2. (2)自動車に押し込む行為

    【神戸地裁 平成25年7月25日判決】
    男女トラブルに起因して逮捕・監禁罪が成立した事例です。

    性的関係にあった女性から拒絶的な態度を取られるようになった被告人の男が、女性に対して「山に連れて行って殺す」などと脅し、腕をつかんで引っ張るなどの暴行を加えたうえで自動車の助手席足元に女性を押し込み、約2時間40分にわたって逮捕・監禁しました。

5、逮捕後の流れと対策|弁護士への相談

逮捕・監禁罪は、被害者に精神的な負担を与えるだけはなく、生命・身体にも危険が及ぶおそれのある重大な犯罪です。警察が認知すれば、逮捕される可能性は非常に高いでしょう。

警察に逮捕されると、逮捕の時点から自由な行動は大幅に制限されます。帰宅することも会社へ行くことも許されないうえに、検察官による勾留請求が認められれば、逮捕から起訴まで最長23日間にわたる身柄拘束を受けることになるので、社会生活への影響は甚大です。

さらに、検察官が起訴すれば刑事裁判となりますが、罰金刑の規定がないため略式手続きによる迅速な処理も期待できません。初回の公判期日で判決が下されることはほとんどなく複数回の公判が見込まれ、適切な弁護活動が行われなければ、長期の身柄拘束は必至です。

そのため、逮捕・監禁罪の容疑で逮捕されてしまった、あるいは逮捕・監禁にあたる行為をはたらいてしまい、警察による逮捕や刑罰に不安を感じているなら、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。

弁護士に依頼すれば、すでに警察に逮捕されてしまっていたとしても、逃亡・証拠隠滅のおそれがないことを主張するなど、早期釈放を目指した弁護活動が期待できます。
不起訴処分や執行猶予の獲得を目指す場合は、被害者との示談交渉を速やかに進める必要がありますが、逮捕・監禁の被害者は、加害者に対して強い恐怖感や怒りをもっているので、加害者本人やその家族が直接交渉しようとするのは得策とはいえません。示談交渉は、第三者である弁護士に依頼するのが最善策でしょう

6、まとめ

「逮捕・監禁罪」という罪名には、強盗などを目的とした凶悪犯が人質を閉じ込めるかのようなイメージがつきまといますが、労働争議や男女交際など、日常に潜むトラブルにおいて、逮捕・監禁罪が成立してしまうことがあります。

逮捕・監禁罪は懲役刑しか規定されていない重罪です。逮捕され刑罰を受けるおそれが非常に高いので、容疑をかけられてしまった場合は直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。

逮捕・監禁罪をはじめとした刑事事件の弁護活動は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスにお任せください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、早期釈放や不起訴処分・執行猶予の獲得を目指して全力でサポートします。
トラブルのなかで逮捕・監禁を疑われる行為があり、罪に問われるのか、逮捕される可能性があるのかなどを不安に感じている方も、お気軽にベリーベスト法律事務所 神戸オフィスへご相談ください。

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