相続廃除と代襲相続の関係|相続させない場合の注意点
- 遺産を残す方
- 相続廃除
- 代襲相続
兵庫県が公表している高齢者虐待の統計資料によると、令和元年度の養護者による虐待の相談・通報件数は1874件あり、そのうち792件で虐待の事実が認められました。虐待の内容としては、暴力などの身体的虐待が最も多く、次いで心理的虐待が多く認められています。
家族から虐待を受けるなどのトラブルが生じているとき、「その人に対して遺産を相続させたくない」と考えられる方もいるでしょう。そのような場合には、「相続廃除」という手続きを利用することができます。
ただし、相続廃除には「代襲相続」という制度も関係してきます。両者の関係をしっかりと理解しておかなければ思いもよらない結果になってしまうこともある点に、注意が必要です。本コラムでは、相続廃除と代襲相続の関係について、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、相続廃除とは
まず、相続廃除の概要とその注意点について説明します。
-
(1)相続廃除の概要
相続廃除とは、被相続人の意思に基づいて、特定の相続人の相続権を失わせることができる制度です。
相続が開始すると、被相続人の法定相続人が遺産を相続することになります。しかし、生前に相続人から虐待を受けていたなどの理由から、その相続人に対して遺産を相続させたくないと考えられる方もおられます。
遺言書を書くことによって、その相続人に遺産を相続させないということもできますが、実際には相続人には「遺留分」が保障されております。遺言書では、遺留分まで相続させないことはできません。
一方で、相続廃除であれば、遺留分も含めて相続させないことができます。そのため、相続人に一切相続財産を渡したくないという場合には、相続廃除を利用する必要があるのです。
なお、相続廃除をする場合には、以下の要件を満たす必要があります。
① 相続廃除の対象者
相続廃除の対象になるのは、遺留分を有する推定相続人です。
兄弟姉妹には遺留分は保障されていないので、兄弟姉妹を対象にして相続廃除をすることはできません。
この場合には、遺言書に「兄弟姉妹に遺産を相続させない」と記載することで、遺産を相続させないことが可能になります。
② 相続廃除の条件
相続廃除は、被相続人の意思のみで自由に行うことができるのではなく、相続権を失わせてもやむを得ないと客観的に認められる事情が必要になります。
具体的には、以下のような事情が例として挙げられます。- 被相続人に対して虐待をした
- 被相続人に重大な侮辱を加えた
- その他著しい非行があった
-
(2)相続廃除の注意点
相続廃除をする場合には、以下の点に注意が必要です。
① 代襲相続の対象になる
相続廃除をされた相続人は、当該相続において被相続人の遺産を相続する権利が失われます。
しかし、相続廃除された相続人に子どもがいる場合には、代襲相続によって、その子どもに相続権が移ります。そのため、相続廃除された相続人の子どもが遺産を相続することになってしまうのです。
代襲相続については、次章にて詳細を解説します。
② 相続廃除は必ず認められるわけではない
相続廃除は、相続人の相続権を失わせるという重大な効果があります。そのため、先述したように、相続人の意思だけでなく、虐待や侮辱等の相続権を失わせてもやむを得ないと認められる事情が必要となるのです。
相続廃除をする場合には、家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。そして、虐待や侮辱とった事情があったことは、申立人の側で立証しなければなりません。
虐待や侮辱といった行為の多くは、家庭内という閉鎖的な空間で起きるため、それを立証するための証拠がないということも多々あります。また、基本的に、相続廃除を認めるかどうかについて裁判所は慎重な姿勢をとります。そのため、申し立てをしたとしても容易に認められるわけではないのです。
2、代襲相続とは
相続廃除をした場合には、「代襲相続」が発生する可能性があります。
以下では、代襲相続について解説します。
-
(1)代襲相続の概要
代襲相続とは、本来相続人になるはずだった人が被相続人よりも先に死亡していた場合などに、その相続人の子どもが本来の相続人に代わって財産等を相続する制度のことをいいます。
例えば、被相続人の子どもが被相続人よりも先に死亡しており、死亡した子どもに子ども(被相続人の孫)がいた場合には、被相続人が死亡すると死亡した子どもの子ども(被相続人の孫)が被相続人の遺産を相続することになります。
さらに、被相続人の孫が被相続人よりも前に死亡しており、孫に子ども(被相続人のひ孫)がいた場合には、「再代襲相続」によって、被相続人のひ孫が被相続人の相続人になるのです。 -
(2)代襲相続が生じる原因
代襲相続が生じる原因としては、以下のものがあります。
- 被代襲者が相続の開始前に死亡したとき
- 被代襲者に相続欠格事由が生じたとき
- 被代襲者が相続廃除されたとき
上記のように、相続廃除も、代襲相続が生じる原因とされています。
虐待や侮辱を受けた相続人を相続廃除することができたとしても、代襲相続によって、その子どもには遺産が相続されることになるのです。
なお、相続放棄をすることによっても相続権は失われますが、相続放棄は代襲相続が生じる原因にはなりません。相続放棄をすると「当初から相続人ではなかった」と見なされて、代襲者に相続権が移るということにはならないためです。
この場合には、代襲相続ではなく、次順位の相続人に相続権が移ることになります。
3、代襲相続人を相続廃除することはできる?
相続廃除によって虐待や侮辱を受けていた相続人が遺産を相続できないようにしたとしても、代襲相続によってその子どもに相続権が認められてしまうと、結局は、相続廃除された相続人の家族に遺産が流れていくことになります。
そのため、「代襲相続人についても、相続廃除によって相続権を失わせたい」と考える方もおられるでしょう。
しかし、相続廃除をするかどうかは、申し立ての対象となった相続人を対象に判断するものです。したがって、相続人が相続廃除されたからといって、その事情が直ちに代襲相続人にも及ぶことはありません。
代襲相続人を相続廃除するためには、代襲相続人からも虐待や侮辱を受けていたという事情があることが必要になります。
単に「相続廃除された人の家族に遺産が流れてしまうのが気に入らない」という感情的な理由だけでは、代襲相続人を相続廃除することはできないのです。
4、相続廃除の流れ
相続廃除の手続きには、被相続人が生前に行う「生前廃除」と被相続人の死後に行う「遺言廃除」の2つの方法があります。
-
(1)生前廃除の手続き
生前廃除とは、被相続人が生前に相続人を相続廃除する手続きです。
生前廃除を行うためには、以下のような手続きをとる必要があります。
① 家庭裁判所に相続廃除の審判申立
被相続人は被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続廃除の審判申し立てを行います。
② 審判確定
家庭裁判所の裁判官によって相続廃除が認められて、審判が確定した後には、裁判所に審判書の謄本および確定証明書の交付請求をします。
③ 市区町村役場に推定相続人廃除届の提出
相続廃除を認める審判確定から10日以内に、廃除された推定相続人の本籍地または届出人の所在地の市区町村役場に、以下の書類を提出します。場合により他の書類の提出等を求められる場合があるかもしれません。- 推定相続人廃除届
- 審判書の謄本
- 審判の確定証明書
-
(2)遺言廃除の手続き
遺言廃除とは、被相続人の死後に相続人の相続廃除を行う手続きです。
遺言廃除を行う場合には、以下のような手続きをとる必要があります。
① 遺言書の作成
遺言廃除をする場合には、被相続人が遺言書において相続廃除の意思表示をする必要があります。
遺言廃除は、被相続人の死後に相続廃除の手続きを行うことになりますので、被相続人に代わって手続きを行う遺言執行者の指定または選任が必要になります。
遺言書において遺言執行者を指定しておくと、遺言廃除の手続きをスムーズに行うことができるようになるでしょう。
② 家庭裁判所に相続廃除の審判申立
遺言執行者は、被相続人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所に相続廃除の審判申し立てを行います。
③ 審判確定
家庭裁判所の裁判官によって相続廃除が認められ、審判が確定した後は、裁判所に審判書の謄本および確定証明書の交付請求をします。
④ 市区町村役場に推定相続人廃除届の提出
相続廃除を認める審判確定から10日以内に、廃除された推定相続人の本籍地または届出人の所在地の市区町村役場に、以下の書類を提出します。場合により他の書類の提出等を求められる場合があるかもしれません。- 推定相続人廃除届
- 審判書の謄本
- 審判の確定証明書
5、まとめ
相続廃除は、相続人の相続権を失わせるという重大な効果を生じさせるものであるため、相続廃除の申し立てをしたからといって確実に認められるものではありません。
法律の専門家である弁護士なら、相続廃除が可能な事案であるかどうかを判断して、可能な場合には裁判所に適切に申し立てするためのアドバイスやサポートをすることができます。
兵庫県内にご在住で、相続廃除をお考えの方や遺産相続に関してお悩みをお持ちの方は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスにまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています