死後の財産の譲り方 相続と遺贈の共通点と違いを神戸の弁護士が解説
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2018年5月、神戸市内に住む男性の補助人に選任されていたNPO法人が、その男性の死亡後、自宅の土地建物の所有権を同法人に移転させていたことがわかりました。生前、男性の入院先でNPO法人の理事長と公証人により公正証書遺言が作成されていたため、同法人は「正当な手続き」であると主張しています。
このように、遺産は親族だけでなく、他の個人・団体にも譲渡されることがあります。死後に財産を譲渡する方法には相続と遺贈の2パターンがありますが、それぞれの共通点と違いはどこにあるのでしょうか。
1、遺産相続とは
被相続人(故人)の遺産を相続できる立場にある方が一人でもいれば、死後まもなく相続が始まります。相続開始後、相続遺産をすべて洗い出し、相続税を計算して納税するまでわずか10ヶ月。そのため、大切な人を亡くした悲しみに浸る間もなく手続きを進めなければなりません。ここでは、遺産相続とは何か、どんな方が相続できるのかについて解説します。
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(1)相続人に財産を移転すること
遺産相続とは、相続人と呼ばれる方々に故人の財産を移転することです。財産の中には、現金や預貯金、土地建物といったプラスの財産もあれば、借金やローン、未納の税金などマイナスの財産もあります。これら全部をひっくるめて相続人に移転することになります。
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(2)遺産相続の対象者は?
民法上の遺産相続の対象者は、「法定相続人」と呼ばれます。法定相続人には第1順位から第3順位まであり、それぞれの順に子・父母・兄弟姉妹と定められています。配偶者は常に相続人となります。
ただし、相続開始時に子どもが死亡している場合は孫、父母が死亡している場合は祖父母に、兄弟姉妹が死亡している場合は甥・姪に、それぞれ相続がなされる場合もあります。これを「代襲相続」と言います。 -
(3)相続人それぞれの相続分
それぞれの相続人の法定相続分は、相続人が誰になるかによって異なります。いくつか簡単な例を挙げると、以下のようになります。
<例1:配偶者と子ども2人の場合>
配偶者が1/2、子どもが1/4ずつ
<例2:配偶者と被相続人の父母の場合>
配偶者が2/3、父母が1/6ずつ
<例3:配偶者と被相続人の弟の場合>
配偶者が3/4、被相続人の弟が1/4
<例4:配偶者のみの場合>
配偶者が100% -
(4)3つの相続方法
遺産相続をするといっても、必ず被相続人の財産をすべて相続しなければならないわけではありません。相続の方法には、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの方法があり、それぞれの相続人が選択することができます。
<単純承認>
単純承認とは、相続財産全てを受け継ぐことを言います。限定承認や相続放棄をしなければ、原則として単純承認したものとみなされます。ただ、限定承認もしくは相続放棄を選択していても、被相続人の財産の一部をすでに処分していた場合には、単純承認したことになりますので注意しましょう。
<限定承認>
限定承認とは、相続財産の中に借金などがある場合、プラスの財産の範囲内で返済し、残った財産を受け継ぐ方法です。それでも借金などが残ったときには、その借金は相続しないとすることができます。しかし、限定承認の手続きを行うには非常に手間暇がかかるため、実際に限定承認がされるケースは非常に少ないのが実情です。
<相続放棄>
相続放棄とは、遺産を一切相続しないとする方法のことを指します。プラスの財産以上に負債が多い場合などに相続放棄をすれば、債務から免れることができます。ただし、相続放棄すれば、後順位の相続人が遺産を相続することになるので、負債があることを理由に相続放棄する際は、事前に後順位の相続人とよく話し合い、了承を得ることが重要です。
2、遺贈とは
被相続人が「お世話になった方に遺産をあげたい」「自分が死んだら遺産を慈善団体に寄付したい」と考えている場合は、財産を遺贈するという選択肢もあります。遺贈とはどのようなもので、どのような方法があるのでしょうか。
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(1)遺言を用いて財産をあげること
遺贈とは、被相続人の死後、法定相続人以外の方に財産を譲渡したい場合に利用できる方法です。一般的に被相続人の財産は法定相続人しか相続ができませんが、生前に遺言書で遺贈する旨の意思表示をしておけば、死後に財産をあげたいと考えている方に譲渡することができます。遺言書には、遺言執行者を指定しておくと遺産分割や遺贈の手続きがスムーズに進むでしょう。
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(2)遺贈の対象者は?
遺贈は、法定相続人だけでなく、相続人以外の親族も対象となります。財産を遺贈する方を「遺贈者」、財産の遺贈を受ける方を「受遺者」と呼びます。最近では、事実婚を選ぶカップルや、離婚して再婚する方も増えているため、内縁関係の夫(妻)や再婚相手の子ども、前妻などを受遺者に選ばれる方も少なくありません。
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(3)特定遺贈と包括遺贈
遺贈には、「特定遺贈」と「包括遺贈」の2つの方法があります。
<特定遺贈>
特定遺贈とは、「自宅を内縁の妻○○に遺贈する」などのように、財産と受遺者を具体的に特定して遺贈する方法です。住宅や土地、現金など、はっきり特定できる財産が遺贈の対象となります。借金などマイナスの財産まで遺贈されることはありません。
<包括遺贈>
包括遺贈とは、「全財産の5分の1を長男の嫁○○に遺贈する」など、全財産の中から一定の割合を定めて財産を贈与することを指します。ただし、この「全財産」の中には、プラスの財産もあればマイナスの財産も含まれます。そのため、負債があればそれも含めて包括受遺者(包括贈与を受ける者)に遺贈されることになります。 -
(4)負担付遺贈
遺贈には「負担付遺贈」と呼ばれる方法もあります。これは、受遺者に何らかの義務を課した上で財産を与えるものです。たとえば、「障害のある子どもの面倒をみる代わりに○万円を贈与する」「ローンの支払いを引き継ぐ代わりに自宅を贈与する」などがあげられます。負担付遺贈を行う場合は、遺言執行者を選任しておくときちんと義務が履行されているかをチェックしてもらうことができます。
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(5)遺贈と死因贈与の違い
遺贈と似た制度に「死因贈与」があります。死因贈与とは、「私が死んだらあなたに土地を贈与する」などと約束することを指します。
遺贈と死因贈与の違いのひとつが、遺贈は遺言書がなければ成立しない一方、死因贈与は契約のひとつなので口頭でも成立することです。しかし、言った・言わないのトラブルを防ぐため、契約書にしておくことをおすすめします。また、遺贈は遺贈者の一方的な行為なので受遺者が遺贈を拒否できるのに対し、死因贈与は財産の贈与者と受贈者との間の合意で成立するため受遺者は死因贈与を拒否できない、という点でも違いがあります。
3、相続と遺贈の5つの共通点
相続と遺贈には、5つの共通点があります。それぞれどのような共通点があるのかについてみていきましょう。
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(1)人の死後に発生する
まず、どちらも人の死後に効力が発生することがあげられます。贈与は生前に行われることもありますが、相続も遺贈も財産を持つ方が亡くなってから相続人や受遺者に財産が移転することになります。
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(2)相続税がかかる
遺産の評価額にもよりますが、相続財産を譲り受けた相続人に相続税がかかります。遺贈は贈与に近いというイメージがあるので、「贈与税が発生するのでは」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、遺贈も遺贈者の死亡により発生することから、受遺者には相続税が発生します。
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(3)債務も受け継ぐことがある
先述の通り、遺産相続では相続人が単純承認すれば、プラスの財産だけでなくマイナスの財産もすべて相続します。遺贈も、包括遺贈や負担付遺贈を行う場合には、マイナスの財産である債務も受け継ぐことになります。
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(4)放棄できる
被相続人が多額の負債を抱えて亡くなった場合、相続人は相続放棄することができます。遺贈の場合も、遺贈者が一方的に財産を受遺者に贈与するとしているにすぎないため、受遺者も遺贈を放棄することが可能です。
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(5)遺留分減殺請求をされることがある
たとえば、被相続人が「長男にすべて財産を相続させる」と遺言書に書き残していた場合、遺言者は他の相続人の取り分である遺留分を侵害していることになります。そのため、他の相続人は長男に対して遺留分を取り戻すための遺留分減殺請求をすることができます。遺贈の場合も、たとえば被相続人の死後に「内縁の妻に全財産を贈与する」などの遺言書が見つかった場合は、その内容が相続人の遺留分の侵害にあたるため、受遺者である内縁の妻は相続人から遺留分減殺請求を受ける可能性があるのです。
4、相続と遺贈の違いとは
次に、相続と遺贈の違いについて見てみましょう。
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(1)財産の受取人
相続は、被相続人から財産を受け取れるのが法定相続人に限定されています。しかし、遺贈の場合は法定相続人に限らず、親族や親族以外の第三者が財産を受け取る受遺者になりえることが特徴です。
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(2)不動産登記の申請方法
不動産登記が必要となる要因が相続であるか遺贈であるかで不動産登記の申請方法が異なります。相続の場合は、相続人が単独で不動産登記を申請することができます。一方、遺贈の場合は、遺言執行者もしくは遺贈者の相続人全員と共同で申請しなければなりません。遺言執行者がいない場合は相続人全員の署名・押印および印鑑証明書が必要です。
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(3)相続税の2割加算の有無
相続・遺贈のいずれも、故人の財産を受け取ると相続税が発生します。相続の場合は、兄弟姉妹や代襲相続人以外は算出された相続税をそのまま支払うことで足ります。しかし、遺贈の場合、配偶者・1親等以内の親族・代襲相続人となった直系卑属以外は、相続税額が2割加算されることになります。
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(4)不動産取得税と登録免許税
相続や遺贈で土地建物などの不動産を取得したときは、不動産取得税や登録免許税を支払う義務があります。このとき、相続と包括遺贈・特定遺贈で支払うべき税金額が異なります。詳細は以下の表を参考にしてください。
不動産取得税 登録免許税 相続 非課税 固定資産税評価額の0.4% 包括遺贈 非課税 固定資産税評価額の2% 特定遺贈(相続人に対する
特定遺贈は除く)土地・家屋の場合
固定資産税評価額×3%固定資産税評価額の2% 事務所・店舗などの場合
固定資産税評価額の4% -
(5)代襲相続
相続では、被相続人が亡くなる前に相続人のほうが先に亡くなっていれば、その直系尊属(祖父母)または直系卑属(孫や甥・姪)に相続権が移る代襲相続が起こります。一方、遺贈の場合は、受遺者が遺贈者より先に亡くなっても代襲相続が起こらず、遺贈の効力が発生しなくなります。
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(6)農地を相続する場合
土地の中でも農地を相続する場合は、原則として農業委員会などの許可が必要です。そのため、特定遺贈の場合は、農業委員会などの許可が必要になります。しかし、相続のケースと包括遺贈のケースでは、許可なく相続・遺贈を受けて所有権の移転登記を行うことが可能です。
5、まとめ
家族関係が複雑化している昨今では、自分にとって大切な方に財産を残すのに相続だけでは制度が不十分になってきています。そのため、遺贈もうまく利用して賢く財産を受け継がせることが必要です。ただ、相続と遺贈は一般の方にとっては違いが分かりにくいこともあるでしょう。
ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスでは、経験豊富な弁護士がお客様に相続と遺贈の違いについてご説明した後、個々のケースに応じて相続と遺贈のどちらが良いのかをアドバイスいたします。大切な方にきちんと財産が渡るようにするためにも、まだお元気なうちに当事務所までご相談ください。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
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