交通事故の裁判費用は保険会社が出してくれるの?

2022年04月26日
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交通事故の裁判費用は保険会社が出してくれるの?

神戸市が公表している交通事故発生状況に関する統計資料によると、令和3年の神戸市内の交通事故発生件数は4332件であり、負傷者数は5178人でした。いずれも前年度よりも減少していますが、死者数は30人であり前年よりも11人増えていることから、重大事故が増加していることがうかがえます。

保険会社から提示された賠償金額に納得ができなければ、最終的には裁判所に訴訟を提起して、解決を図ることになります。しかし、ほとんどの方は裁判を起こされた経験がないため、さまざまな不安を抱えるものです。特に気になるのが、「裁判をする場合にはどのような費用がかかるのか」「誰が裁判費用を負担するのか」など、費用に関する事柄でしょう。

本コラムでは、交通事故の裁判費用の負担について、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説します。

1、交通事故で費用が問題となる事例

交通事故で費用に関する問題が発生する事例としては、下記のようなものがあります。

  1. (1)保険会社からの提示額に納得がいかないケース

    交通事故の慰謝料の金額には、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「裁判基準」という三つの基準があるとされ、どの基準を採用するかによって慰謝料の金額は大幅に異なってきます。一般的に、自賠責保険基準の金額が最も低くなり、裁判基準の金額が最も高くなります。
    保険会社は会社ごとに定められた「任意保険基準」で算定した慰謝料を提示しますが、裁判基準で算定された金額は、保険会社の提示額より大幅に増額となる場合もあるのです。

    裁判基準で算定した賠償額の支払いを受けるための方法として、保険会社との示談交渉を弁護士に依頼することが考えられます。

  2. (2)過失割合で争いがあるケース

    被害者、加害者ともに自動車乗車中の事故で、加害者の車が停止中の被害者の車に追突したという場合には、加害者の一方的な過失によるものですので、基本的に、交通事故の過失割合は100:0となります。しかし、どちらも動いていたなどの状況である場合には、被害者側にも過失が認められる可能性が高くなります。
    過失割合の算定は、ある程度類型化された事故状況について、裁判例の集積により導き出された基本的な過失割合を基本として、具体的な事故状況に応じた修正を施し、決定されます。

    交通事故の被害者が想定する過失割合と保険会社から主張されている過失割合に争いがあり、示談交渉によって解決することが難しい場合には、裁判所の判断を求めることになります。被害者に有利な証拠がある場合には、被害者にとって有利な過失割合が認められる可能性もあります。
    過失割合の判断には、専門的な知識が必要となるため、事故の態様が複雑な事例では弁護士に相談することをおすすめします

  3. (3)賠償額が高額なケース

    死亡事故や重度の後遺障害が生じた事故の場合には、賠償額が高額になる傾向にあります。このように、賠償額が高額な事案では、被害者が加害者に請求できる「遅延損害金」も高額になります。
    遅延損害金とは、事故当日から生じる「利息」のようなものです。遅延損害金は最終的に賠償金が支払われるまでの間、発生します。遅延損害金の利率は、交通事故の発生が令和2年4月1日以降であれば3%、令和2年3月31日以前であれば5%が適用されます。

    ただし、遅延損害金は、示談交渉では請求できないことが一般的です。通常、遅延損害金を請求する場合には、裁判を起こす必要があります

2、交通事故の民事裁判で生じる費用

慰謝料の金額や過失割合に関して争いがあり、示談交渉ではまとまらないために民事裁判を起こす場合には、以下のような費用が生じます。

  1. (1)申立手数料

    裁判を起こす場合には、裁判所に手数料を納める必要があります。手数料は、収入印紙という形式で納めることになり、裁判によって請求する金額に応じて手数料の金額は変わってきます。
    例えば、300万円の損害賠償請求訴訟を提起する場合には、申立手数料は2万円となりますが、3000万円の損害賠償請求を提起する場合には、11万円となります。
    申立手数料の具体的な金額については、裁判所のホームページ上に「手数料額早見表」が掲載されていますので、そちらを参照してください。

  2. (2)予納郵券

    裁判を起こす場合には、裁判所にあらかじめ郵券を納める必要があります。郵券とは、郵便切手のことをいい、原告が提出した訴状や証拠などの必要書類を被告に届けるために使われます。このように裁判手続きで必要となる郵送費用などは裁判所が負担してくれるのではなく、基本的には裁判を起こした原告が負担をしなければなりません。
    予納郵券の金額や郵便切手の組み合わせについては、裁判を起こす裁判所によって異なります。そのため、正確な金額と組み合わせについて、裁判を起こす裁判所に確認をするようにしましょう

    なお、神戸地方裁判所では、予納郵券の金額が5000円であり、組み合わせは以下のようになっています。

    • 500円……7枚
    • 100円……7枚
    • 84円……5枚
    • 20円……10枚
    • 10円……10枚
    • 5円……10枚
    • 2円……10枚
    • 1円……10枚
  3. (3)弁護士費用

    交通事故の民事裁判を被害者の方が自身で行う場合には、上記の申立手数料と予納郵券だけで裁判を行うことができますが、弁護士に依頼をする場合には、それに加えて弁護士費用も必要になってきます。

    「弁護士費用を節約するために、自分で民事裁判を起こす」という方もいますが、裁判手続きは専門的かつ複雑な手続きであるため、専門家でない方が裁判を起こすと、得られるはずの賠償金についての調査や証拠収集が十分にできず、本来得られるはずの賠償金を十分に得られないことも考えられます。
    後述する弁護士費用特約を利用することによって、弁護士費用の負担を抑えることもできますので、裁判を起こす場合には弁護士に依頼をすることをおすすめします

3、弁護士費用の内訳と弁護士費用特約

弁護士に依頼をした場合には、弁護士費用としてどのような費用を支払うことになるのでしょうか。
以下では、弁護士費用の内訳と弁護士費用特約について説明します。

  1. (1)弁護士費用の内訳

    弁護士費用の内訳としては、一般的に以下の費用が含まれます。

    ① 相談料
    相談料とは、弁護士に法律相談をする場合に発生する費用です。

    ② 着手金
    着手金とは、弁護士に依頼をした場合に発生する費用です。依頼を受けた事件に着手するための対価であることから「着手金」と呼ばれています。
    着手金は、事件の結果に関係なく支払わなければならない費用であるため、希望していた成果の達成いかんにかかわらず、原則として返還されることはありません。

    ③ 報酬金
    報酬金とは、依頼をした事件が終了した段階で、成功の程度に応じて支払われる費用です。交通事故の民事裁判の場合には、最終的に被告(加害者)から支払われた賠償金を基準として報酬金を計算することになります。しかし、着手金とは異なり、100%の敗訴となった場合には、報酬金は発生しません。

    着手金が弁護士に依頼をした時点で発生するものであるのに対して、報酬金は依頼をした事件が終了した時点で発生するものであるということもポイントです。すなわち、依頼者は事件の最初と最後の、計2回、弁護士費用を支払うことになるのです。

    ④ 日当
    日当とは、弁護士が遠方に出張したり、遠方の裁判所に出頭することになったりした場合に、発生する費用です。日当は、交通費や宿泊費とは別に支払う必要があります。

    ⑤ 実費
    実費とは、裁判を起こす場合に必要となる申立手数料や予納郵券などのことをいいます。これは、弁護士に依頼をすることなく裁判を起こした場合にも必要になる費用といえます。

  2. (2)弁護士費用特約とは

    弁護士費用特約とは、自動車保険の特約の一種であり、保険会社が弁護士費用を負担してくれるという特約です。
    多くの保険における弁護士特約では、一般的に、上記費用について、300万円までを保険会社が負担することになります。弁護士費用については特約の範囲内で対応してくれますので、死亡事故や重大な後遺障害が生じた事故等の比較的重大な事故を除き、ほとんどのケースでは、自己負担なく弁護士に依頼をすることができます

    被害者が弁護士に依頼するかどうかについて悩まれる理由の1つが弁護士費用の負担ですが、弁護士費用特約が付帯している自動車保険に加入している場合には、原則として、弁護士費用を負担する必要はありません。費用面の不安から弁護士への依頼をちゅうちょしているという方は、ご自身の保険会社に弁護士費用特約の有無を確認してみるとよいでしょう。

    なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼をしたとしても、保険の等級に影響が出ないことが一般的です。弁護士費用特約に加入されている方は、積極的な利用をご検討ください。

4、交通事故で裁判を起こすときは弁護士依頼がおすすめ

交通事故で裁判を起こす際には、弁護士に依頼をすることをおすすめします。

  1. (1)複雑な裁判手続きをすべて任せることができる

    民事裁判では、ご自身に言い分がある場合には、「準備書面」という形式で裁判所に提出する必要があります。また、ご自身に有利な言い分を認めてもらうためには、それを裏付ける証拠を提出する必要があります。どれだけ説得的に主張をしたとしても、それを裏付ける証拠がなければ、裁判所は事実を認めてはくれません。

    このように、民事裁判は、専門的かつ複雑な手続きとなります。知識や経験がなければ、適切に手続きを進めていくことができません。弁護士に依頼をすることによって、訴訟提起や裁判所への出頭など交通事故の裁判に関する一連の手続きをすべて任せてしまうことができます。ご自身の負担を軽減して、適切に訴訟手続きを進めるためにも、弁護士への依頼をおすすめします。

  2. (2)弁護士費用の一部についても請求できる

    自動車保険に弁護士費用特約が付帯していない場合には、民事裁判を行う場合の弁護士費用は、被害者の方が負担しなければなりません。
    しかし、交通事故の民事裁判では、被害者の方が支払う弁護士費用の一部(損害額の1割程度)を加害者に対して請求することができます。

    保険会社との交渉段階では、弁護士費用を請求することができませんが、裁判になった場合には、請求することができます。これによって被害者の方が支払う弁護士費用の負担を抑えることが可能となりますので、ご不明点やご不安があれば、まずは一度弁護士に相談される方法をご検討ください。

5、まとめ

交通事故の民事裁判をする場合には、申立手数料や予納郵券という費用がかかります。また、弁護士に依頼をする場合には弁護士費用の負担も生じます。もっとも、弁護士費用特約が付帯している場合には、ほとんどのケースで弁護士費用の負担はゼロになりますし、民事裁判では弁護士費用の一部についても請求することができるのです。

交通事故の民事裁判を行う際における被害者の負担は、かなりの程度まで軽減することが可能です。交通事故裁判をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスにまで、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています