自首すると減軽される? 逮捕までの流れや弁護士に依頼するメリット
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令和3年10月、神戸地裁で、死体遺棄・未成年者誘拐・自殺ほう助などの罪で起訴された男の公判が開かれました。SNSで自殺願望を示していた少女に対して「自殺に力を貸す」などと呼びかけて誘導したのちに、車内で練炭に火をつけたうえで、男自身は車外へと出て、少女の死亡を確認したのちに遺体を林道に放置した、との容疑がかかっています。検察側は懲役4年6カ月を求刑しましたが、弁護側は「最寄りの交番に自首した」という点を重視して、執行猶予つきの判決を求めました。
「罪を犯してしまっても、自首をすれば、刑事裁判で言い渡される刑が軽くなる」「自首をすれば、逮捕されずに済む」というイメージを抱いている方は多いでしょう。
本コラムでは「自首」の意味や成立要件、自首によって得られる効果、自首をするための手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスの弁護士が解説いたします。
1、「自首」とはどのような手続きであるか?
まずは「自首」がどのような手続きなのかについて、解説します。
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(1)自首の定義
刑事ドラマなどでは、警察の追っ手に迫られた犯人の家族などが「自首」をすすめるシーンが描かれることがあります。
一般的には、「自首」といえば、「犯人が、みずから警察署などに出向くこと」として理解されているようです。
自首についての法的な根拠は、刑法第42条1項に明記されています。【刑法第42条1項(自首等)】
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
自首とは、犯人が捜査機関に対して自発的に事故の犯罪事実を申告し、その訴追を含む処分を認めることを言います(大塚仁他編 大コンメンタール刑法第三版 青林書院 第3巻521頁)。
つまり、法律的には、自主とは、単に「みずから警察に出向く」ことを意味するものではありません。「捜査機関に発覚するよりも前に」ということが重要なポイントとなるのです。 -
(2)自首が成立する要件
刑法によって定められている、自首の成立要件を整理すると、下記のようになります。
- 犯罪事実や犯人が捜査機関に発覚する前であること
- 捜査機関に対してみずからの罪を申告すること
- みずからの処分を委ねるための申告であること
第一の要件は「犯罪事実や犯人が捜査機関に発覚する前であること」です。
これは、まだ犯罪の発生を警察などが認知していない状況のほか、犯人が誰であるのかが発覚していない状況も含みます。
一方で、犯人が誰であるかはわかっているが所在はわからない、という場合は対象外です。
第二の要件は「捜査機関に対してみずからの罪を申告すること」です。
捜査機関とは、具体的には検察官または司法警察員になります。検察や警察以外の人や機関に罪を申告しても、自首は有効になりません。
なお、司法警察員とは、警察における階級のうち巡査部長以上にある者を指します。
巡査の階級にある警察官が自首の届け出を受けた場合には、直ちにその身柄を巡査部長以上の者に引き継ぐ必要があるのです。
第三の要件は「みずからの処分を委ねるための申告であること」です。
たとえば、「別の犯罪発覚を避ける」という目的で罪を申告したり、「罪は犯したけれど、自分の責任ではない」などと主張するものであったりする場合には、自首にはあたらないのです。 -
(3)自首と「出頭」の違い
自首と混同されやすいものとして、「出頭」があります。
出頭は、単に捜査機関に出向くことを言います。
「すでに捜査機関が犯罪事実・犯人を特定している」場合には自主は成立しません。
まだ警察が事件を認知していない状況であれば、自首が成立する可能性があります。一方で、すでに捜査が始まっており犯人も特定されている段階では、任意に出頭したとして扱われることになります。
また、自首であれば後の法的な手続きにおいて有利な扱いが得られる可能性がありますが、出頭にはそのような制度が存在しません。法律の定めを根拠とした有利な扱いは期待できないという点が、自首との大きな違いだといえるでしょう。
もっとも、自ら捜査機関に出頭したことは、処分や判決の量刑を定める際に有利に評価される場合が多いと言えます。
2、自首すると刑が軽くなる?|自首がもたらす効果
法律上の自首が認められた場合に得られる効果について、解説します。
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(1)減軽される可能性がある
刑法第42条1項では、自首した者について「その刑を減軽することができる」と明記しています。
「減軽」とは、各犯罪に定められている刑罰について、その上限や下限を減じたうえで刑罰を下すことをいいます。例えば、基本的な刑罰について死刑と定められている場合に、死刑を無期の懲役もしくは禁錮・10年以上の懲役もしくは禁錮とすることを指します。
減軽の方法は、刑法第68条によって、下記のように定められています。なお、長期とは刑期の上限を指し、短期とは刑期の下限を指します。- 死刑……無期の懲役もしくは禁錮・10年以上の懲役もしくは禁錮
- 無期懲役・無期禁錮……7年以上の有期懲役または有期禁錮
- 有期懲役・有期禁錮……その長期および短期の2分の1
- 罰金……その多額および寡額の2分の1
- 拘留……その長期の2分の1
- 科料……その多額の2分の1
ただし、自首したからといって、必ず罪が減軽されるわけではありません。
刑法第42条1項では、あくまで「減軽することができる」と定めていられています。つまり、実際に軽減するかどうかは、裁判官に委ねられているのです。
裁判官の判断次第では、自首が認められても減軽されないおそれもある、という点に注意してください。 -
(2)逮捕を回避できる可能性が高まる
逮捕とは、犯罪の容疑をかけられている被疑者が逃亡や証拠隠滅を図るおそれがある場合に限って認められている、強制処分のひとつです。
つまり、逃亡や証拠隠滅の疑いがなければ、逮捕は認められないのです。
自首をすることで、「逃亡や証拠隠滅を図ることはない」という意思を示すことができます。
重大な事件の場合には「なおも重責をおそれて、逃亡や証拠隠滅を図るおそれがある」と判断されて逮捕されるおそれもありますが、軽微な事件であれば、逮捕を回避できる可能性が高まるでしょう。 -
(3)裁判官が情状酌量する可能性が高まる
裁判官には、自由な心証にもとづいて判決を言い渡す権限が与えられています。
「自首した」という事実は、法律による減軽とは別に、情状酌量による軽い処分を言い渡す理由にもなり得ます。
懲役や禁錮の年数が短くなる、執行猶予つき判決が言い渡される、罰金や科料が選択されるといった有利な処分が下される可能性も高まるのです。
3、自首する場合の流れとその後の刑事手続き
「自首」とは厳格な刑事手続きのひとつであり、適法に受理されたら犯人にとって有利な扱いが設けられていることから、正しく受理されなければなりません。
自首したときの流れや、その後の刑事手続きについて解説いたします。
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(1)自首の受理
前述したように、自首は「検察官または司法警察員」によって受理されます。
警察署の窓口係員や交番勤務の巡査に申告しても、自首は完成していません。
自首を受け付けた司法警察員は、どのような罪を犯したのかを詳しく聞き取ったうえで「自首調書」を録取します。
完成した自首調書は、供述した本人に内容を読み聞かせたり閲覧させたりして、誤りがないことを確認したのちに、調書の末尾に署名や押印をすることで効力をもちます。
自首をした後の流れは、警察が「逮捕を必要する」と判断するのか、それとも「逮捕せず任意で捜査を進める」と判断するのかによって異なります。 -
(2)逮捕された場合
警察が「逃亡や証拠隠滅を図るおそれがある」と判断した場合には、逮捕状が発付されたのちに逮捕されます。
自首した当日中に逮捕されることもあれば、後日になって逮捕されることもあります。
逮捕後の流れは、自首をした事件も、そのほかの事件でも同じです。
警察段階で最長48時間、送致されて検察官の段階で最長24時間、合計最長72時間にわたる身柄拘束を受けたのちに勾留されます。
とくに自首事件は、刑事訴訟法第245条や第242条の規定により、必ず検察官へと送致されます。そのため、「警察限り」とする処分は期待できないのです。
勾留されると原則10日間、延長を含めて最長20日間の身柄拘束が続くので、逮捕から数えると最長23日間にわたって社会から隔離されることになります。
勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴や不起訴を決定します。
検察官が起訴すれば刑事裁判へと移行して、裁判官の審理を受けたのちに有罪または無罪の判断がされます。有罪の場合には量刑が言い渡されて、事件が終結します。
一方で、不起訴となれば刑事裁判へは移行せず、直ちに釈放されます。 -
(3)任意の在宅事件として捜査される場合
警察が「逮捕の必要はない」と判断した場合には、任意の在宅事件として捜査が進みます。
罪を犯したことが警察に発覚すると「必ず、逮捕される」というイメージをお持ちの方もおられるでしょう。しかし、実は、多くの事件では逮捕はおこなわれず、任意の在宅事件として処理されているのです。
令和2年版の犯罪白書によると、令和元年中に全国の検察庁で受理した事件のうち、逮捕された事件の割合は35.7%でした。
つまり、60%以上の事件は在宅事件として処理されているのです。
在宅事件になった場合には、指定された期日に警察署へと出頭して、取り調べを受けることになります。
警察が行う取り調べなどの捜査が終われば検察官へと送付されて、起訴か不起訴かが決定されるという流れも同じです。
逮捕されないので仕事や学校を休む必要がないという点は、被疑者にとって有利な点だといえるでしょう。
一方で、逮捕された事件のような時間制限がないため、捜査が長引いて何度も警察署に出頭しなければならないこともあるという点では不利だといえます。
4、自首すべきか悩んだときには弁護士に相談
罪を犯したのちに反省して、自首を検討されている方は、自首をする前に弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)自首が有効なのかアドバイスが得られる
弁護士に相談して現在の状況を伝えることで、自分がしようとしている自首が刑法で定められた条件を満たして要るかどうかを、適切に判断することができます。
たとえば、すでに捜査が始まっていて犯人として特定されている場合には、自首は成立しません。
有利な扱いを期待していたのに「自首にはあたらない」と判断されてしまう事態を避けるためにも、まずは弁護士に相談して状況を整理しておくことをおすすめします。 -
(2)自首の同行を依頼できる
自首が成立すると考えて自首をしたとしても、自首が確実に成立するとは限りません。
たとえば、令和2年9月に群馬県内で発生した強盗殺人事件では、犯人の男が自首の成立を主張しながらも、捜査機関が「すでに逮捕状請求や公開捜査を検討していた」と主張して、争ったところ、結局自首が認められないという地方裁判所の判決となったのです。
自首が成立する余地があるかどうかを判断することや、自首をしたはずなのに自首として取り扱ってもらえないなどの不当な取り扱いを受けないようにするためには弁護士が自首に同行することも有効です。
また、単身で自首するには強い不安を感じるものですが、弁護士が同行することで精神的なサポートが得られるでしょう。 -
(3)自首による減軽・情状酌量を主張できる
上記のとおり、自首による刑罰の減軽は「することができる」と規定されており、必ずしも減軽されるものではありません。そのため、裁判官によい心証を与えることが重要になります。
弁護士に自首後の弁護活動を依頼すれば、どのような経緯で自首を決意したのかの事情や、罪を犯すに至ったやむを得ない背景など、被告人にとって有利となる事情を捜査を受けている段階から警察官や検察官に伝えることができ、結果として裁判官に主張することもできます。
弁護活動によって刑法の定めに従った減軽が認められやすくなるだけでなく、情状酌量を得ることで、減軽後の法定刑の範囲内でもさらに刑が軽くなる可能性もあるのです。
少しでも処分を軽くしたいと考えるなら、自首に同行することも含めた弁護活動も、弁護士にご依頼することを検討するのも良いでしょう。
5、まとめ
法律上の自首が認められると、各犯罪に定められた刑罰が減軽される可能性があります。
ただし、単に犯人みずからが警察署に出向くのではなく、捜査機関に犯罪・犯人が発覚していないタイミングで申告しないと自首とは認められず、有利な扱いが得られなくなるおそれがあるのです。
罪を犯したことに反省して自首を考えているなら、まずは弁護士に相談して、自首の成否や自首後の流れについてアドバイスを得たうえで、警察署への同行やその後の弁護活動を依頼しましょう。
自首に関するお悩みの解決や自首のサポートを希望される方は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスにまでご相談ください。
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