亡き父に内縁の妻が! 相続がどうなるのか神戸オフィスの弁護士が解説
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高齢化社会となり、妻に先立たれた男性が恋に落ちたが、年齢を理由に内縁関係を続けている。そのような例は、全国と同様に高齢化が進んでいる神戸市でも珍しくないかもしれません。
そして、老いた父親に内縁の妻ができた場合、仲良く元気に暮らしてくれるのはありがたいけれど、相続のことでもめるのではと心配されているご家族の方もいらっしゃるでしょう。内縁の妻との関係が良好であれば問題ないのでしょうが、関係が悪い場合、また、実際に相続の話になったときには、正式な家族でもないのに父親の財産を相続させたくないと考えが変わってしまうこともあるかもしれません。
もし内縁の妻に相続が認められるとすれば、子どもの相続分は少なくなってしまいますので、納得できないという感情も出てくるでしょう。しかし、これらのことは法律の知識がないと正確なことはわかりませんし、手続き上の問題も多く含みます。
そこで本コラムでは、内縁の妻がいる父親を亡くした場合、内縁の妻の相続はどうなるのかについて、神戸オフィスの弁護士が解説します。
1、内縁の妻とは?
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(1)内縁と婚姻との違い
内縁の妻とは、夫婦として共同生活をしている実態があるにもかかわらず、正式には役所へ婚姻届を出していない者のことをいいます。つまり、法律の手続き上は妻として認められていないが事実上の婚姻関係がある者を内縁の妻になります。
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(2)婚姻と同様に扱われること
以下の項目については、婚姻している者と同様の扱いを受けます。
●婚姻費用分担義務
生活費や医療費、子どもの教育費などを、双方で分担して負担する義務のことです。
●同居協力義務
夫婦は同居して暮らさなくてはなりません。内縁関係も同様です。
●扶養義務
夫婦の一方が経済的に自立できない場合は、もう一方は支援する義務を負います。これを扶養義務といい、内縁関係でも同じ義務が発生します。
●貞操義務
夫婦が互いに性的純潔を守る義務、つまり、浮気や不倫をしてはいけないという義務を負います。 -
(3)婚姻とは違う扱いを受けること
以下の項目については、婚姻している者とは異なる扱いを受けます。
●法定相続人にはなれない
法定相続人とは、法律で定められている相続人のことです。具体的には、故人(被相続人)の配偶者は必ず法定相続人になり、ケースに応じて直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹が法定相続人となり得ることになります。つまり、内縁の妻はこれらのいずれにも当たりませんので、法定相続人にはなれないということになります。
●子どもは非嫡出子となる
結婚している男女の間に生まれた子どもは、嫡出子になりますので、例外的な事情がない限り、父との間に親子関係が成立します。
しかし、内縁関係の男女間に生まれた子どもは非嫡出子(婚外子)となり、母方の戸籍に入り、親権も母親単独のものとなります。このため、内縁の夫と子どもとの間に父子関係を成立させるためには、別途認知の手続きが必要になります。
2、内縁の妻の相続について
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(1)原則的に相続はできない
民法第887条、第889条、第890条では、法定相続人について定めています。これらによると、法律上の婚姻関係にある妻(被相続人の配偶者)は、常に法定相続人として夫の財産を相続できることが規定されています。しかし、内縁の妻は法定相続人ではありません。したがって、前述のとおり、内縁の妻は相続できないのが原則です。
なお、判例は、賃貸マンションなどを借りていた場合に、内縁の夫が亡くなったことで貸主が明渡しを求めてきたときには、内縁の妻は、賃借権を相続することはできなくとも、法定相続人が継承した借家権を援用して住み続けることができると認めています。
判例がこのように判断した理由は、同居していた際は内縁の夫が有していた権利を援用して居住する権利を主張できていたという事情があり、このような事情は相続が発生した後でも変わりがないからであるとされています。 -
(2)内縁の妻でも遺産を受け取れるケース2つ
原則として内縁の妻は相続人にはなれませんが、以下の2つのケースでは遺産を受け取ることができます。
●特別縁故者
特別縁故者とは、亡くなった者の法定相続人が死亡した、相続放棄をしたといった場合にのみ、特別な縁があって相続する権利のある者のことです。
特別縁故者は、以下のいずれかの条件を満たしている必要があります。
【被相続人と生計を同じくしていた者】
亡くなった者と家計を同じくして生活していた人のことをいい、婚姻届を提出していないものの、事実上夫婦同然の生活していたケースが当てはまります。
【被相続人の療養看護に務めた者】
献身的に亡くなった者の看護や介護をしていた人物をいいます。看護師などの仕事として対価を受け取りながら看護や介護をしていた場合は、原則として当てはまりません。
【その他被相続人と特別の縁故があった者】
生前に家族同然のように親しくしていた者や、長期に渡って生活の援助をしてきた者などがこれに当たります。
特別縁故者として相続をするには、家庭裁判所へ申し立てをして認められる必要があります。
ただし前述したように、法定相続人が死亡した、相続放棄などにより相続人が誰もいないといった場合にのみ申し立てすることができます。そのため内縁の妻が特別縁故者であると主張してきたとしても、法定相続人がいる限り問題にはならないでしょう。
●遺言
内縁の妻は法定相続人にはなれませんが、内縁の夫に遺言を書いてもらえば財産を相続することが可能です。ただし、「すべての財産を内縁の妻に相続させる」と遺言に書かれていても、法定相続人がいる場合は「遺留分」という最低限の相続分があるため、これを侵害することはできません。 -
(3)遺族年金の扱いはどうなるのか
遺族年金は、家族を扶養していた者が亡くなった場合に、残された家族に支給される年金です。原則的には、内縁の妻は法律上の妻ではないため遺族年金はもらえません。しかし、内縁の妻でも一定の条件を満たせば、遺族年金を受給できるケースがあります。
●事実婚関係にあったこと
役所へ婚姻届は提出していなかったが、婚姻する合意があったこと、あるいは夫婦同然の共同生活をしていた事実があったことが必要になります。
●生計維持関係があること
内縁に限りませんが、遺族年金を受給するためには生計維持関係がある必要があります。収入が一定額以下であることと生計を同一にしていることが必要で、内縁の夫婦の世帯が同じであることや住民票上の住所が同じであることなどの事実関係があれば生計を同一にしていると認定されます。
なお、内縁の妻が遺族年金を受け取るためには、これらを証明する資料を日本年金機構(年金事務所)に提出することが必要になります。具体的には健康保険の被保険者証・被扶養者証のコピー、内縁の妻が扶養者となっている場合の給与明細書、内縁の夫の葬儀を主催したことを証明する書類や写真などが必要となります。
これらの書類の他、同居していた住所に宛てて送られた公共料金の領収書、保険金の受取人となっている保険証書なども、内縁関係を証明できる書類として提出できます。
3、内縁の妻の子どもは相続できる?
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(1)相続できるケース
法律上の夫婦関係のない男女から生まれた子どもは非嫡出子と呼ばれます。父親とは血のつながりがありますが、先ほどご説明したように、非嫡出子は当然には法律上の父子関係が認められるものではありません。法律上の父子関係が認められるには、認知が必要です。相続では、認知されているかいないかによって、相続ができるか否かが異なってきます。
認知されている非嫡出子は相続することができ、亡くなった方の遺産を分ける話し合い(遺産分割協議)を行う際も参加が必須となります。子どもが認知されているかどうかは、戸籍を閲覧すると確認できます。 -
(2)相続できないケース
認知されていなければ、たとえ遺伝的に血縁関係があっても内縁の妻の子どもは相続できません。父親が口頭で「相続させる」といっていた過去があったとしても、法的な効力はないのです。
ただし、認知されていない子ども自身などが父の死後3年以内に認知の訴えを提起することによって、父の死後であっても認知を受けることが可能です。このような認知は「死後認知」と呼ばれています。また、認知は遺言書でもできますから、遺言書に認知する旨が記載されていれば、その認知は有効になります。これらの方法で認知が認められれば、内縁の妻の子どもであっても、前述のとおり相続人のひとりとなります。
4、まとめ
内縁の妻は財産を相続できないのが原則です。しかし、内縁の妻へ相続させる遺言が出てきたりすると、内縁の妻も相続に関係してくることになります。また、条件を満たせば遺族年金も受給できるケースがあります。
内縁の妻が財産を相続できるかできないかは、一定の条件を満たしていることが確認できないと判断することはできません。不確かな知識や情報にもとづき話し合いを進めてしまうと、トラブルの元になるでしょう。トラブルを回避するためには、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
父親の内縁の妻との相続問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 神戸オフィスまでお気軽にご連絡ください。相続事件の知見が豊富な弁護士が、問題を解決できるよう、的確なアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています